51.遊び友達が必要か(絶対神SIDE)
家が見える距離から離れないこと。それだけを約束して、自由に遊ばせた。たまには羽を伸ばす時間も必要だろう。幼いうちは一人で遊んだり、何かを発見したりするのも経験だ。
同年代の友人をどう探したものか。やはり成長には必要だと思う。俺の管理する世界に生まれたなら、友人を作ってしまうのだが。さすがにシアラの世界に負担をかけるのは憚れらた。
恩人に泥を投げつけるも同然だし。うーんと唸る俺に、ゼルクが接触してくる。中身は子どもみたいな奴だから、これを遊び相手に? いや、それくらいなら女装趣味のサフィの方が、精神年齢が近いか。
友人候補を真剣に考える俺に、珍しい感情が届いた。好きじゃない、この人は嫌だ。あの可愛いイルがそこまで嫌う? シアラが一緒じゃないのか。窓から覗いた直後、全力疾走するシアラが目に入った。同時に、助けを呼ぶ声が聞こえる。
「ちっ、どこのクソガキだ」
泣きそうな声で助けを求めるイルを転移した先で受け止め、追いついたシアラに任せた。目配せだけで承知した彼が、家に向かう。近くて安全であり、イルが落ち着ける場所だった。最高の選択だ。
見送って、溜め息を吐いた。よく配下にしてくれと擦り寄ってきた神の一人だった。名前なんて覚えていない。正直、そんな神は山ほど見てきた。その中の一人だが、最近顔を見たので覚えていただけ。
「あの」
「ゼルク、サフィ、このゴミを処理しろ。シュハザ、根回しを」
「呼ばれてないぃ!!」
ルミエルが飛び出す。幼女姿のルミエルを眺め、ぼそっと呟いた。
「これでもいいか。ルミエルには大事な仕事がある」
大事な仕事を任せるから、呼ばれなかった。あとで呼ぶつもりだったんだ。そう判断したらしい。彼女の目が輝いた。単純で真っ直ぐで素直だ。多少不安はあるが、神々の中では善良な部類だった。
「イルの友人になってやってくれ」
「……え、あ、はい」
思っていた仕事と違う。顔にそう書いた彼女は、曖昧に返事をした。明日訪ねてくるよう言い含め、喚き散らす神を見下ろす。見た目はさほど悪くないが、性格が黒い。汚い、ありえない。愛し子を怯えさせた罪は、万死に値する。そう告げたところ、青ざめた。
己の言動がもたらした結果を、想像しなかったらしい。そんなバカに用はなかった。トイレに入ったイルが、順番を頭の中で数える。その姿がとても愛らしく、怒りの感情が静まっていく。
大急ぎで家に入り、青いスカートをひらひらさせるイルを抱きしめた。裾が捲れているが、こっそり直しておく。本人はスカートも下ろして完璧だと思っているのだ。
家の外を怖がらないよう、安全だから明日も外へ出ようと提案した。イルは信頼を滲ませる微笑みで頷く。明日、友人ができると知ったら、どんなに喜ぶだろう。夜寝られなくなると困るから、朝告げることにした。
「ご飯に食べたいものはあるか?」
「僕、おさかな」
ちらっとシアラを見る。魚を猫姿の神に分けてやるつもりのようだ。
「わかった、にゃーのご飯は魚だ。イルは?」
もう一度問い直すと、迷いながら「お肉」と答えた。可愛い奴だ、遠慮なんて不要なのにな。両方用意してやろうと張り切って、机いっぱいに料理を並べてしまった。