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37.揺れる船の上はおしまい

 船は片手の指を全部使うくらい、いっぱいの時間の後で揺れなくなった。メリクと一緒に甲板へ出たら、遠くに緑が見える。


「あれが陸地だ。もう少しだな」


 陸地は地面と同じで、大地なんだ。右や左にも陸地が見えるのは、湾という場所に入ったからだった。揺れないのも、湾の中だから。メリクが湾の形を地図の絵で見せてくれた。


 丸くって半分の半分くらい開いてる。僕達の乗った船はここの開いてるところを通って、反対側へ向かってるの。絵で見るとすぐ分かるね。


 緑の陸地はどんどん大きくなって、高さも色も変わっていく。灰色の石の建物が見えたり、白い砂があったり、赤い屋根も見えるようになった。緑は奥の方にあって、森になってるのかな。


「僕やメリク、同じ色の人、いっぱいいる?」


「半分くらいかな。もっと陸地の奥へ入れば増えてくるぞ」


 森の方が、黒い髪の人は多いみたい。大きく揺れた船が停まり、乗っていた人が荷物を持って出てくる。具合悪かった人は、まだ青い顔だった。僕達はにゃーもいるから、最後に降りることにしたの。


 にゃーの背中に乗って、降りていく人に手を振る。ほとんどの人が振り返した。船の人がまた果物を持ってきてくれるので、お礼を言って食べる。初めて見たけど、緑の果物だった。中は白いんだよ。水がいっぱいの果物で、服や顔が濡れた。


「ははっ、美味しかったか」


 メリクが濡らした布で僕の顔を拭く。それから汚れた服も着替えて、船の人に手を振って降りた。抱っこされた僕の後ろに、にゃーが続く。


 旅なのに、大きな荷物を持っていないのは、変なんだって。黒い穴にしまうのは秘密だし、他の人は荷物を持っていた。にゃーの背中に毛布が入った袋を乗せて、運んでもらうの。荷物に見えるから。港は混んでいて、人がいっぱいだった。


 にゃーも一緒に泊まれる宿がなくて、こっそり陰で毛布を片付けた。それからにゃーを小さくする。にゃーを袋に入れて、僕が抱っこ。その僕をメリクが抱っこして、宿が決まった。


 お部屋は今までで一番狭い。でもベッドから海が見えるよ。開いた窓はベッドのすぐ隣だった。靴を脱いで登り、にゃーと並んで外を眺める。ここは階段という段差のある廊下を登った先、一番遠いお部屋だった。


「ここは今日だけだ。明日は森の方へ行こう」


「森? 熊いる?」


「ああ、いるだろうな。他に狼もいるし、こっちの大陸には虎もいる」


「とら……おーかみ」


 聞いたことないけど、熊みたいに優しい生き物かな。動物って言うんだよね。自分で歩いて移動できるのは動物、根っこがあって動けないのが植物。前に教わったことを思い出しながら、僕は初めての景色に見入った。


 遠くに青い水たまりが広がってる。さっき船で通った湾は丸くって、両側に緑の陸地があった。頭を動かして下へ目を向けたら、灰色の石で作られた道と白い家がある。屋根は赤や青、オレンジも見えた。


「揺れてる気がする」


 ふらふらする? 変な感じ。もう地面は揺れてないのに。


「明日になれば治るさ。今日はゆっくり休もう」


 両手を伸ばして「イル」と呼ぶメリクに、僕は胸がじわじわする。ベッドの上を大急ぎで這って、お尻で滑り降りて、裸足で飛びついた。

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