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31.手を伸ばしてはいけない宝(他神SIDE)

 気づいたのは偶然だった。作り上げた世界は完成間近、もうすぐ新しい世界の管理も可能になる。だから気になった。二つ以上の世界を持つ神が作った、それぞれの景色を見たい。


 他の神々の作る世界を覗いてみよう。軽い気持ちで始めたが、思ったより楽しい。まったく違う価値観を持つ種族を育てていたり、言葉を話せない種族ばかりで構成された世界もあった。


 どの神々も、己の世界に誇りを持っている。壊す意図がなければ、侵入して見て回るくらいは許された。もし逆の立場でも、自慢するつもりで許可しただろう。私の作り上げた世界は、数多くの種族が犇めき合うタイプだ。


 魔法を重視する者や力を信奉する者、単に神を崇めて静かに暮らす者達、様々な価値観を同居させた。稀に衝突して痛みを覚えるが、それもまた愛おしかった。だが、痛みを取り除く方法は欲しい。偶然小耳に挟んだ情報に私は釘付けになった。


 愛し子――意味は知っている。複数の世界を管理する上位の神々が、慈しみ愛して育てる珠玉の存在だ。愛し子は生まれながらに地位が確定しており、対になる神も決まっていた。神々が内包する歪みや痛みを消し去る、唯一の特効薬でもある。


 誰もが欲しがる存在だが、与えられる神は限られていた。素直に羨ましいと思う。大切な箱庭である世界が与える痛みを消す子がいるなら、管理も楽だろう。真綿で包むように愛せるはずだ。無邪気で純粋でまっすぐな子ばかりと聞いて、さらに羨望を強めた。


 そんな矢先、偶然覗いた世界で愛し子を見つけた。一目で分かる、そう聞いていたが事実だ。輝いて見える魂の隣に神が寄り添っているが、対ではなかった。この世界の管理人のようだ。ならば、対を持たぬ愛し子が存在するのか?


 誰のものでもないなら、私が愛そう。誰より慈しみ、その心を溶かしてしまおう。傷ついた痕跡のある愛し子は、黒髪だった。不思議な法則のある世界に生まれたが、両親と色が違う。ゆえに疎まれた。


 何らかの事情があるにしろ、対がいないなら私が貰う。隣にいる猫姿の庇護者と戦う気はないので、見かけた住人を利用して引き離した。もうすぐ届く。最初に何を与えよう。子どもが好む甘い菓子か、それとも柔らかな寝床だろうか。


 期待に膨らんだ私の計画は、あっという間に潰えた。突然現れた神々は四柱。全員が私より格上だった。さらに上位神があの子の対だという。逃げようとした私の髪が千切られ、叫ぶ喉を切り裂かれた。吹き出す血は命と同じだ。手足を切り落とし、細かく引き裂きながら美女が笑う。隣の男神の腕が無造作に心臓である神格を掴んだ。


 やめろ、壊すな。叫ぶ声を無視して、私の世界がエネルギーに変換されていく。誰かの作る世界の一部にされてしまう。必死で抵抗するが、通用する相手ではなかった。


 すべてが奪われ、肉片になっても……私の意識は残った。いや、残されたのだ。神格の中に意識を封じ込まれ、一柱の神の前へ差し出された。強かった神々すら霞むほどの、眩い輝きを放つ神は私を無造作に掴む。


「ふん、まあまあか」


 値踏みするように呟き、愛し子が滞在する世界の若い神へ私を溶け込ませた。水と油のように分離することなく、泡のように消えることもない。比重が近い液体が色を変えるように、私は神シアラの一部となった。


 シアラの中から、まだ幼い愛し子の成長を見つめる。イルと呼ばれる愛し子の対は、絶対神だった。決して敵わない相手に、私は喧嘩を売ったのだ。猫神シアラは、イルを自然に慈しむ。己の対でなくとも、他神の庇護下にあろうと。関係なく愛を注いだ。


 ああ、私は間違えたのだ。同じように、ただ見守ればよかった。手に入れようなど、不相応な望みだったのに。私が泣き叫んだように、愛し子も怖がらせたのだろう。罰は甘んじて受ける。それに、このシアラの作る世界も興味深い。私の力を使い、いずれは私達の愛し子を得られるまで。共にあろうか。

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