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14.こんなはずじゃないのよ(母親SIDE)

 子爵家に嫁いで、二年で最初の子を宿した。元気な男の子は、間違いなく夫の子だ。そっくりの赤毛に、私譲りの緑の瞳を持つ嫡子だった。


 父親の髪色、母親の瞳色。どちらも受け継ぐのが正しい子どもの姿よ。だから二人目を身籠った時も不安はなかった。同じ色の男の子か女の子、嫡男は得たから娘も悪くない。そう思って楽しみにしていた。


 一番上の姉である伯爵夫人は、娘を可愛らしく着飾らせて連れ歩く。その姿が羨ましかったのも手伝い、気持ちは娘に傾いていた。赤と緑の組み合わせは華やかだから、柔らかな色の服が似合いそう。膨らんでいくお腹が愛しくて、待ちきれなかった。


 伯爵家の三女として生まれた私は、それなりに裕福な幼少期を過ごしている。子爵家の夫は商才があるようで、宝石でもドレスでも望んだだけ買い与えてくれた。今では実家より裕福な生活をしているわ。


 ひとつ上の姉は侯爵家に嫁いだけれど、内情は貧乏でかつかつの生活らしい。体面を保つために必要なお金が足りず、何回か借りに来たくらいよ。私は当たりを引いたのね。あんな生活をするより、地位は低くとも自由で気ままな子爵家の方が何倍も素敵だわ。


 結婚当初に嫌味を言われた恨みも、これですっきりした。幸せに浸りながら産んだ我が子は……見たことがない色をしていた。生まれたてで薄いけれど、髪色は黒。まつ毛や眉も黒いから間違いない。


 浮気を疑われる。そう思った矢先、開いた目の色にほっとした。金色……私の子じゃないわ。そうよ、この色は私の子じゃないの。どこで入れ替わったのかしら。穢らわしい。


 屋敷の隅に放置して、死ねばいいと思った。世話をしないよう使用人に命じたのに、誰かが乳を与えたようね。あの子は成長し続けた。使用人の会話から言葉を覚え、誰かれ構わず話しかける。鬱陶しくて、顔も見たくなくて、裏庭の小屋へ放り込んだ。


 長男は私の子よ、だけどアレは違う。魔物に違いないわ。だって夫の髪色をしていない。私の瞳の色を受け継がなかった。化け物は気付けば二歳になり、ちょこちょこと歩き回る。叩いてカップを投げつけ、激しく罵った。


 誰にも知られなければ大丈夫。そう思っていたのに、お茶会の席でひとつ上の姉に指摘された。


「あなた、自分の子を小屋で虐待しているそうね。神様のお告げがあったのよ」


 冗談だと笑い飛ばそうとした。けれど、同席したご夫人達が目を逸らす。到着時から挨拶を無視されたり、愛想笑いで逃げられたのは……皆が知っていたから? 頭にかっと血が(のぼ)った。


「何よ! 神様のお告げなんてないわ。嘘を……」


「私もお告げをいただきましたの」


「実は私もですわ」


「伯爵夫人も? 実は私どもも夫婦で夢に見ました」


 その場にいた全員が私の言葉を遮った。冷たい視線が突き刺さる。違うわ、だってアレは私の子じゃない。化け物なのよ? 反論は喉に張り付き、声にならなかった。代わりに後退(あとずさ)り、嘲笑する姉から逃げるように屋敷へ戻る。


 使用人達の視線が咎める色を帯び、どの貴族家も我が家を見下すように付き合いを断り始めた。恐ろしさに震える中、商人や使用人が離れていき……屋敷は他人の手に渡る。財産はあるのに、誰も頭を下げない。お金の価値って、この程度なのね。


 強盗が入り金品が盗まれても、何ら感じなかった。使えない金貨なんて、食べられる芋以下だわ。隠れていた自室から引き摺り出され、夫の惨殺死体と対面した。震えながら、息子ともども国外へ輸出される。貴族の経産婦は高く売れると笑う連中に、反論する気力もなかった。


 化け物のアレが生まれた時点で、我が家は呪われていたのよ。罵る私が乗る船は、嵐による大波に飲まれて沈んだ。その海底で、私と息子は死ぬことも出来ずに……。ああ、こんなことなら、アレを殺しておけば良かったわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味では巻き込まれた息子に同情してもいいでしょうか?
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