表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/105

104.最強の愛し子(絶対神SIDE)

 イルが「僕」と表現するのは、過去のしがらみだ。クソッタレの元家族の影響だった。あんな場所に生まれ、死にかけるほど苦労した原因は、俺の手際の悪さだ。そう自覚するから、いつか「僕」を卒業してくれるのを待っていた。


 無理に導くのは違う。イルが自分から、完全に過去を捨てる必要があった。一緒に過ごし始めて二十八年目、まだまだ先は長い。焦る気はなかったのに、イルは突然照れながら「私」と口にした。


 大好きだと告げるイルは、自らを「私」と表現する。いつだって俺や配下の愛情を手探りで確認していたのに、愛されていると自信を持って笑った。


 彼女を縛っていた鎖が解けていく。顕著に現れたのは、外見だった。一気に成長した体を、ひとまずシーツで包む。今朝選んだお気に入りのピンクのワンピースが、ビリッと音を立てて裂けた。泣きそうになるイルのために、力を振るう。


 体に合わせて、ワンピースを変化させた。腕の中で横抱きにした彼女は、今、十歳程度か。布の隙間から覗いて、胸が少し膨らんだと喜んでいる。その感情は俺に筒抜けだからな? 恥じらってくれ。


 サフィより小さいと不満そうだが、大きければいいってもんじゃない。俺は手にすっぽりが理想だ。うっかり伝わってしまったらしく、イルはにっこり笑った。


 綺麗と褒める周囲の言葉に、素直に「ありがとう」とお礼を言う。イルらしい。結局、本質は変わらないのだ。外見が変わったことに戸惑ったのは、本人より周囲だった。もし違う子になってしまったら……そんな不安は一瞬で吹き飛んだ。


「メリク、降りる」


「ん? 抱っこは嫌か」


「嫌じゃない」


 でも降りる。なぜか譲らないイルに苦笑いして、そっと下ろした。靴も大きくしたので、痛くはなさそうだ。転ばぬよう底の平らな靴を履いたイルは、俺の腕に掴まった。向かい合って立ち、頭の上に手を置く。


 何をしているのかと思えば、身長差が気になるらしい。自分の方が高くなったかも? そんな心が聞こえて、微笑ましさに神々が頬を緩めた。誕生日が契機なのではなく、イルの心の変化が体に作用した。


「大きくなった?」


「このくらいだな」


 胸の下を手で示すと、不満そうだ。もっと身長が高いと思ったのか。笑うと拗ねてしまいそうなので、表情を引き締める。


「一気に大きくなると、バランスが崩れて大変だ。少しずつ成長すればいい。ゆっくりでいいぞ」


 何歳になっても抱っこするが、今の大きさだってイルには大きな変化だ。歩く歩幅も違えば、手が届く範囲も変わった。ケガをしないよう、注意してやらないと。


「大きいとケガしちゃうの?」


「気をつければ大丈夫だ。ほら、腕を絡めて歩いてごらん」


 今度は笑顔を向ける。安心する姿は、幼子だった頃と何も変わらない。可愛いに綺麗も加わって最強だった。すべての神々はイルに勝てない。そう考えると、愛し子ながら神々の頂点に立つ存在かもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] イルちゃん、急激に10代後半以降ぢゃなくて、10歳程度ですか…(ホッ) まだまだ子供…だが、それがいい! え、お巡りさん!? いえすろりーた、のーたっち、です! (可愛いものは愛でるものであ…
[一言] 成長の鍵は心だったんですね。 最初の頃おっしゃってた「僕には意味がある」は、このことだったんですね。過去の呪縛。 これからはどんどんきれいに大きく成長できますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ