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九十六、うろの中で。

 ワルツに案内された先にあるものはエボニーにとっても見慣れたものであり、つい先日に利用したものだった。

「これはコスモスの……」そう言った彼の視線の先にあるのは大きな木のうろ・・で、この先に道があると言うのなら、そこがコスモスの庵に繋がるのは簡単に想像できた。うろ・・は深夜ということもあってか底が見えず、地底にまで続いていそうだった。


「そうだ。ここから目的地まで遠いのでな」

「どこまで行くんだ」

「龍の台地さ」


 そこで明かされた目的地にエボニーは息をのんだ。「龍の台地」は「星と魔法のリーンズ」の住処となる山頂付近に存在する大きな台地である。そこに向かうとなれば他の竜種との戦闘は避けられないため、コスモスの神域を経由するのだとワルツは語った。


 エボニーはワルツの言う「門」が木のうろのことかと考えたが、うろと神域を繋ぐ道中でのワルツの言によりそれが間違いであると気が付いた。「門」とは世界に成形されたものであり、「門」がある世界同士を繋ぐためのものだ。


「かつて神となった私を殺すためにリーンズが一つの魔法を使った。それは別の世界からこの世界が持つ問題を解決するための力を持つ存在を招くものであり、星の民がそれにあたる」

「それじゃあリーンズが俺を呼んだってことか?」

「前回はそうだな」

「今回は違うと?」


 ワルツは答えなかった。それが逆にエボニーの想像をかきたて、不安を募らせる。

 リーンズの魔法で星の民を呼んだのなら、どうして星の民と対立しているのかだとか、本来ならワルツを殺すために呼ばれたのかだとか。知らない情報と知っている情報が上手く整理できなかったのだ。

 この世界はSSSのものと同じであると彼は考えているものの、その細部までを知っているわけではない。設定資料集で書かれていない裏話が世界観を覆すことだってあるだろう。


 結局、考えはまとまらないままに、コスモスの神域に入った。

 いつだって陽が出ているこの場所であるが、外が夜になればエルフたちも眠りにつく。布を何重にも重ねて室内に入る光を制限しているのだ。それでも見張りに立つ者まで眠ってしまうわけではなく、まったくもって人の姿がないというわけでもなかった。

「ほれ」とワルツが人除けの魔術を使って堂々と道の真ん中を歩く二人の間に流れる静寂を破ったのは、それに耐えかねたエボニーだった。


「どうしてリーンズが魔法を使ったのに敵対してるんだ。話を聞くかぎりなら神になったワルツを倒すために居るはずだろう」


 どうしても答えが出ないのなら、最初に躓いてしまったところから。彼の質問はその意図をもっていた。

 星の民が別の世界からの呼ばれた存在であるのなら、その目的とは何なのか。少なくとも、リーンズを殺すためではなかったはずだ。


「私がその魔法を奪う魔術を使ったのだ。だから魔法の効果が反転して、リーンズを殺すために星の民が来た。故に私は「夢と簒奪のワルツ」。届かせてはいけない夢を叶え、他者から奪って生きる神」


 本来ワルツを殺すための魔法が反転したことでリーンズを殺すための魔法になった。

 そこから始まるSSSの物語を生きたエボニーにはうまく呑み込めない話であるが、術者本人が言うのであれば間違いであるはずもない。

「醜い神さ」と続けたワルツに、エボニーは何も返すことができなかった。


 だが、そこに口を挟んだ者が一人。ワルツの人除けの魔術を簡単に突破して声をかけてきたのは「命と調和のコスモス」だった。


「挨拶もなしですか。ワルツ」

「引きこもりに挨拶をする必要もないかと思ってな」

「減らず口を」


 一発触発と言わんばかりの空気にエボニーは(どうして神はこうも仲が悪いのか)と思った。ドーリーとヴァイスも微妙な距離感であったし、神とはそういうものなのかもしれない。


「顔合わせも終わった事だしもういいだろう。先を急ぐのだ、夜が明ける前に見せなければ」

「龍の台地ですか。まだ早いのでは」

「早いも遅いもありはしないだろう。いつまでも縛っているわけにはいかん」

「贖罪ですか」

「そんな立派なものではないさ」


 ワルツがエボニーに向き直った。隻眼の老人の思いつめたような重たい雰囲気にエボニーも身構えてしまうものの、それはまた違う意味で裏切られた。


「私を殺せば元の世界に戻れる」


 老神の口から語られたのはエボニーが探し求めていた、元の世界に戻るための方法だった。

 だが、そこで会話は終わらない。


「その前に、これから龍の台地で見るものを解決してほしいのだ。お前が求めるものもそこにある」

「求めるもの……」

「どうして星の民として一人、ここに来たのか。気になるだろう?」

「そういうことなら。私からは何も。教えられることがなくなってしまいますが。また別の形で還元しましょう」


「分かった」と拳を握って強く頷いたエボニーに、神二柱も頷きを返す。

 彼らが目指すうろ・・の先に何があるのか。エボニーの背は自然と伸び、今まで追い求めていた答えに喉が渇く。


 夜なのに昼で、ゲームの世界なのに現実。目の前には神が居て、自分自身も超人然としている。そんな日も終わりが近いのだと思うと湧き上がってくる安堵感をどこか恐ろしく感じながら、エボニーはワルツの後に続いた。

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