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八十九、クラテルの扉。

 エボニーと共にキリに乗るエルフの名はフルと言い、エルフの集団において年長だった。コスモスの元で生活を続けていた彼女らにとってリーダー的な存在は居なかったが、コスモスの庇護を受ける前、ワルツによってエルフという種が生まれてからのまとめ役をしていたのが彼女であった。

(そうなると……)と、エボニーがフルの年齢を計算しようと一瞬口を閉じた途端に後ろに乗せた彼女に脇腹を摘ままれ「エボニー様の方が年上ですからね?」と言われてしまえば、彼は小さく「はい」と答えるしかない。

 SSSで大半を過ごした彼からすると少しばかり理不尽に思うものの、三十代半ば以上には見えないフルにとって年齢は記号でしかないようにエボニーは思った。


「ボトムライト」の「竜騎兵」の男の背にはズーハンが乗り、エボニーとフルが会話をしているように、彼らは彼らで会話をしていた。それらの大半は風によって遮られてエボニーの元に届くことはなかったが、同じクランである彼らの会話は彼の気になるところだった。

 この世界の住人からの立場で見る日常がどのようなものなのか。思えば、そういった込み入った話をしてきたのは神ばかりであり、この世界の住人とは話してこなかった。必要なかったと言えばそうだ。極論ではあるが、エボニーが元の世界に帰るのに他人は関係ないからである。

 それを思い出せば、彼の口は言葉の代わりにぬるい息を吐くしかなかった。


 何度か休憩を挟みつつ、彼らがゴールドバレーに到着したのは夕方になる少し前の頃だった。空はまだ昼の気配を残していたが、肌を撫でる風が時刻の流れを教えてくれる。ひと月も離れていないというのに久しぶりに訪れたように感じるゴールドバレーの町は、彼の記憶にあるものよりも活気があるように見えた。


 それぞれの愛馬から降りて町を歩く四人の姿はいかにも戦闘終了後というような、よれた・・・ものであった。

 エボニーの防具は言わずもがな、エルフであることを隠すためにフードを目深にかぶってエボニーの背に隠れるフルと、ハクザンで戦闘を行った「ボトムライト」の二人も大概である。


 クラテルまでの道中は顔が売れているズーハンの知り合いが話しかけてくることがあったものの、彼女が適当にあしらうことによって比較的スムーズな行動となった。クラテルの扉はいつも通りにエボニーを前にして開き、ドーリーとヴァイスが物を置いて豪華になったホールが出迎える。

 その二人の姿がどこを探しても見つからないことを彼は寂しく感じつつも、帰ってきたという実感はたしかにあり、思い出したかのように疲労感が肩口に顔を見せた。ベッドに飛び込んで何も考えずに目を瞑れたならどれほど良かったろう。エボニーはそれを振り切るように「よし」と声を出して、他三人に声をかけた。


「とりあえず……荷物を置いて晩御飯にするか」


 ここから夜まで長丁場になると考えてのエボニーの発言だったが、ズーハンたちから返ってきた言葉は彼の思っていたものとは異なっていた。


「えっ、すまん。今なんて」

「適当に置いていいの?ほんとに?」

「可能であればここには置きたくありませんが……」


 いつぞやのルイーズたちのように装飾に使われているモンスター素材に目を奪われている三人にはエボニーの言葉は届かなかった。三者の反応に「えぇ……」と分かりやすく肩を落としたエボニーは、気を取り直して「じゃあ」と続ける。


「フルが部屋を開けれるか試すか」

「分かりました」

「希望の階層とかある?」

「いいえ特には」

「まあ一番近い部屋でいいか」


 部屋の鍵が開けられたなら、一先ずはそこに荷物をまとめておけばいいだろうと、エボニーはフルたちを連れて二階に続く階段を登った。あいもかわず殺風景な、通路とドアだけの光景。エボニーにとっては見知ったものであるが、フルたちはある種の恐怖を覚えたようだった。

「頭に残るな」と言う「竜騎兵」の男にルイーズが同意し、フルは「どこまでも続きそう」だと評した。「そのうち慣れるだろ」とエボニーは取り合わなかったが、彼自身もこの世界に来て最初の一幕を思い出してはぐらかしたのが真実だった。


「それでは開きます」

「なんか緊張してきたな……」

「私たちは関係ないじゃん」

「いやそうなんだが」


 はたしてフルが握った扉のノブは彼らがもたらす静寂の重さよりも軽く、簡単に開かれた。

 部屋の中にはベッドと物置棚と寂しげに置かれた燭台があり、生活感の無さが空き部屋であることの証明となった。クラテルの外壁と同じように白を基調とした部屋に三人は驚いて視線を配るが、物の少ない殺風景な部屋だ。物色はすぐに終わった。


「この様子なら他の部屋も大丈夫そうだな。とりあえず、荷物置かないか。お腹減ったんだけど」


 エボニーのこの言葉でようやく本来の目的を思い出した彼女らは慌てて荷物を降ろして、飯屋へと向かった。

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