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八十二、まだ火は消えていないでしょう。

 属性弾が荒々しくピュアホワイトを削っていく。悲鳴と地響きは未だ純白の死をエボニーに教えてはくれない。属性弾が当たったピュアホワイトは直前に無理に頭を捻ったのか無様なものだった。

 されど、まだ生きているということはモンスターにとって有利に働き、冒険者にとって不利に働く。身一つでヒトを殺せるということ。それがモンスターという生き物であることを、ヒトよりも強く本能に刻まれたエルフたちが忘れるはずもない。


 エルフたちから倒れたピュアホワイトに降るスキルの雨。

 見た目こそ派手だが、削り切るほどの火力は出ていない。


 攻撃の手数は足りているが、職業熟練度も精神的余裕も時間も足りなかった。モンスターは一体だけではないのだ。

 さくっと止めを刺そうとしたエボニーの耳に届いたのは、ピュアホワイトとはまた違う悲鳴。振り返った彼が見たのは、ドーリーが相対しているはずのナーガローカによる蹂躙劇の始まり。聞こえた声は、ナーガローカに殺されるエルフたちのものだった。


「なんだ……」


 ドーリーが抑えてくれている・・・・・・・・と勝手に思っていたナーガローカによる殺戮ショーがエボニーの手を止め、頭を、脚を、キリごと縫い留める。


「…………ドーリー?」


 白の鱗を血に染め、流れるように淀みなくエボニー目掛けて地を這う大蛇の後ろに見えた光景は、死屍累々の大地獄。


 キリが白蛇を避けようと勝手に移動を始め、乗り手を護るように動き出してようやく気を持ち直したエボニーだったが、それはあまりに遅すぎた。


「なっ!?」


 キリの足元に飛んできた火弾。

 起き上がったピュアホワイトから放たれたそれに気がついただけで、回避行動が間に合うことはなかった。

 着弾と同時に爆発した火弾の衝撃は彼らを宙に押し上げ、ナーガローカに無防備な姿をさらしてしまう。


 その隙を逃さず突進を仕掛けたナーガローカを、エボニーは避けることが出来ない。


 ナーガローカの角が自らを狙い澄ましているのを薄目で確認したエボニーはどうにか腕を動かして防御をしようとする。それが気休めにもならないと分かっていながらも、体は勝手に動いた。


 衝撃は一瞬で、後は面白いように大地を転がっていく。

 エルフの声が風の音と一緒に耳の横を通り過ぎ、地面とぶつかる度に重たく痛みが走る。息が詰まり、血が雫となって流れていく。


 勢いが収まる頃には防具のいくつかは留め具が壊れ、外れてしまっていた。

 喉をせり上がる血の塊を吐き出し、かすれた視界と遅れてやって来た激痛でまだ自分が生きているのだと理解する。

 回復薬は瓶が割れてしまっているために無いが、体力回復の丸薬はまだあったはずだと、エボニーはアイテムポーチに手を伸ばそうとするものの、そこでふと、自分の両腕がないことに気がついた。


「…………ぁー」


 思わず視線で辿ればそこに前腕から先はなく、浅いものの、わき腹からも血が滲んでいる。

 回復アイテムが使えないとなれば、自力での回復は絶望的だ。これが体力自動回復の装備スキルが付いている「火焔の飛竜ドミニティア」の防具ならばこの結果も何かが変わったのだろうか。

 がんがん・・・・と頭痛が響くなか、両腕を失い、地に仰向けで転がったエボニーはゆっくりと血の混じった息を吐く。


(神も斬れば血が出る…………もちろん、俺も……体が星の民だって……血は出る)


 彼は自らの体温が下がっていくのを感じていた。「嫌な死に方だな」だなんて、今言ったって嗚咽にしかならないというのに、彼は無意識に喉を震わせていた。


 遠く、背中から伝わる地面の振動からピュアホワイトが近づいて来ているのが分かった。

 身体は……起こせなかった。


 キリも、騎兵銃もない。スキルの発声もできない。最終職であろうと、星の民であろうと、今、この時はエボニーではなく、SSSに潜っていたただ一人の、ゲームが趣味の人間として在った。


(……死んだらベースキャンプからか…………)


 ここはゲームではない。死んだら拠点からやり直すなんて不可能である。誰かが蘇生するまで、彼はこのままだ。

 それが分からないわけではないはずだが、はたしてこの内心は記憶の混濁か、それとも希望的な憶測か。


 残ったエルフたちでもピュアホワイトは狩ることができるだろう。けれど、きっとナーガローカは倒しきれない。


(……ドーリー………………どこに行ったんだ)


 ドーリーが戦っている様子はない。


 近づいてくるピュアホワイトの足音が消えることはない。


 ──その時、どこか聞き慣れた声が聞こえてきた。合成音声のような無機質で平坦な声だった。


«「称号:貴方の旅路に祝福を」の効果が発動します»

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