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八十一、天下に白の映えあり。

 顔を合わせたフローリアンとドーリーの間に流れる微妙な雰囲気を気にすることなく、エボニーはキリを走らせてハクザンまでの道を切り開いていく。

 既に町までの障害物は殆どなく、ハクザン外縁に居たモンスターと、彼らの背後、森の中からやってくるモンスターを順番に倒していくだけとなっていたが、まだまだ気は抜けない。「神印ディバインマーク」を回収するまで顕聖は終わらないのだから。


(SSSでイベントが起きた時よりも装備は強くなってるし、人手も多い。このままなら何事もなく終われるが……)


 寄ってきたモンスターを倒し、一息ついたエボニーは背後のエルフたちを振り返った。

 SSSでは職業を持っていない冒険者(NPC)たちが戦闘をサポートしてくれたが、今回は全員が職業を持っているし、彼らが対応できないようなモンスターが現れたとしてもドーリーが居る。

 エボニー自身も特に問題なく戦えているために不安要素は少ないのだが、VRゴーグル越しでは完全に体感できない空気感が、何かが起こりそうな気配をこれでもかと伝えてくるのだ。


 辺りは静かなはずなのに騒がしく感じるような、静寂がもたらすある種の痛みを彼は感じていたのかもしれない。


 そしていよいよハクザンの町へと踏み込んだエボニーは、防御の暇もなく、何かによって勢いよく真横に吹き飛ばされた。

 暗転する視界。横に飛んでいるはずなのに落ちていく感覚。意識のシャットダウンは、痛みによって遮られる。


「がっ…………!」


 家屋の残骸にぶつかり、呼吸がままならない。

 震える手でアイテムポーチの中を探るものの、返ってくるのは衝撃で割れた瓶の破片と、漏れ出た回復薬の感触だけだった。

 何が起きたのかも分からぬまま、どうにか取り出した血の味がする体力回復の丸薬を無理矢理呑み込んだ彼は、そこでキリが消えているのに気が付いた。

 一定以上のダメージを受けたことで消滅したのである。


 日の光で煌めく土埃ばかりが目立つ視界から脱しようとゆっくりと立ち上がったエボニーは、傍に落ちていた自らの騎兵銃を拾い上げ、自身を襲った衝撃の正体を探しに歩き出す。

 節々の痛みはあるが、体は勝手に動いた。


「……召喚:キリ/銀灰馬グラニ


 衝撃が抜けきらない体を支えてくれるキリの背を撫で、乗馬した高い位置で目を配る。

 改めて見た町の状態は酷いものだった。乾いた血の跡や、人が暮らしていたであろう痕跡は痛々しく映る。廃墟をざっと見渡した限りではモンスターらしき姿は確認できなかったが、エルフたちが居る方向から聞こえる戦闘音によってその正体は明らかとなった。


 集団の中で縦横無尽に暴れまわっているのは巨大な白いコブラのような姿であり、ズーハンが持っている「しるしの杖」の材料になっている一等星のモンスターだ。

 細長く伸びた白い胴体に、襟部分に広がるフード、そして禍々しく湾曲した角を持つそれの名は「輪廻の白蛇ナーガローカ」。


 ドラゴン種たちが殆どを占める一等星のくくりの中で堂々と存在感を表す白蛇に、エルフたちは後手に回っていた。

 動きに緩急があり、攻撃のタイミングを見極めるのにはどうしても慣れが必要になってくる。


 急いで戻らなければ。

 焦る気持ちに従うようにしてキリを走らせるエボニーの心を折るように聞こえてくるのは、SSSで何度も聞いた、あるドラゴンの咆哮。


「…………嘘だろ」


 大気を震わせ、太陽の光を背に受け、純白の甲殻を輝かせるそれ。


純白ピュアホワイト……」


 見上げた先で優雅に空を舞う姿は、空をべる太陽の化身と言われても納得してしまいそうだった。


輪廻の白蛇ナーガローカ」と「純白竜ピュアホワイト」の同時狩猟を行わなければならなくなったエボニーだが、一人ではないと己を鼓舞して戦闘を開始する。

 この二体のモンスターと騎兵銃の組み合わせはよくはないものの、ぼやいていても終わりはしない。エルフたちが放った閃光弾に続くように、地面に着陸したピュアホワイトへと向けてエボニーは属性弾を込めてスキルを放った。


「エンハンス・マジックバレット!……パワーショット!」


 着弾と同時に弾ける属性エフェクトを確認することもなく、騎兵銃に次の属性弾を込める。

 ピュアホワイトに対しての魔法攻撃は効果が薄いため、魔法攻撃に属される攻撃スキルを使うのは避けなければならない。

 派手さはあまりないが、強化した属性弾をスキルを込めて撃ち続けるのが基本的な動きになり、「歩兵」系などの物理火力が出せる職業のサポートに回る立ち回りが必要になる。


 もし他職業からの攻撃がアテにならないのなら、後は己の集中力との勝負だ。


 頭部へ属性弾を数発撃ち込まれたピュアホワイトはすでに閃光銃による影響から脱しており、エボニーを標的として定めていた。

火焔の飛竜ドミニティア」と変わらない鳥のような骨格をしているピュアホワイトであるが、他ドラゴン種よりも一段上の強さを持っていることを忘れてしまうと大事になってしまう。


 だが、落ち着いて戦えば倒せないことはない。


 ピュアホワイトが口に白炎びゃくえんを滾らせたのを見た瞬間にキリの脚を止めさせたエボニーは、火弾ブレスの事前モーションだ、と手綱を握りなおした。


 一発目の火弾をキリを細かく右ステップさせることで避け、二発目は左ステップで避ける。


 体の真横を抜けていく火弾に冷や汗を流しながら訪れた、最終となる三発目。

 ピュアホワイトが首をもたげた瞬間、エボニーは全速力で真っ直ぐにピュアホワイトへと走って行く。


 プレイヤーの回避先を予測して放たれるブレス攻撃を止まって回避し、最終段に合わせて一気に距離を詰めることでモンスターの次の動きが少しだけ遅くなるというSSSでのテクニックを使って距離を詰めたエボニーは、ピュアホワイトの翼膜にスキル「散弾」を放った。


 属性弾の効果が乗った「散弾」は翼膜を広範囲に穿ち、飛行行動を抑止させる。

 ピュアホワイトは苛立ちを込めて尻尾の薙ぎ払いを行うが、エボニーは既に薙ぎ払いの範囲から抜けていた。


 自身の背後で薙ぎ払いが行われたのを風切り音で判断したエボニーはキリを反転、属性弾が籠った騎兵銃を向けた先にあるのは、尻尾の薙ぎ払いのために体を動かしたピュアホワイトの頭部だった。


「パワーショット!!」


 エボニーは自身のスキル発声によって、ピュアホワイトの瞳孔が一際大きくなったような気がした。

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