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八十、巡礼の徒。

 ハクザンに近づいていくにしたがって、エボニーの足取りは鈍くなっていく。太陽が出てモンスターの動きが活発になってきているのもあるが、一番の原因はブラックドッグの数の多さだった。

 神気と魔力によって生まれ出る彼らは食事を必要とせず、また、睡眠も必要とはしない。群れることで勝てるモンスターしか相手にしないことで極端に数を減らすこともなく、ただひたすらに数を増やしていく。


 もはや十や二十できくような群れの規模ではなく、周囲に視線を配る度にその数が増えている。

 エボニーとドーリーが対面しているのは、そのような光景だった。


 彼らの周りでは脚の速いエルフたちがその背中に追いつき、一緒にブラックドッグと戦っている。エボニーが確認した限りでは最終職のスキルを使っている者はいなかったものの、手数が増え、的が分散されるのは願ったり叶ったりだった。


 まるでひとつの生き物かのように集団で駆けるブラックドッグだが、いくら数が多いとはいえ適当に騎兵銃を撃ち放して倒せるほど簡単ではない。キリがブラックドッグに追いつかれることはなくとも、脚を止めると一瞬にして囲まれ、吞み込まれてしまうというプレッシャーが背中を刺す。

 数を利用して行われる挟み撃ち、待ち伏せを突破しながらの思考は、着実に彼の精神を疲労させていく。


(エルフが追いついてくれたんだ……できれば一緒に腰を据えて戦いたいけど…………)


 ちらりとエボニーが目線を配った先では、エルフの一団がブラックドッグの群れとどうにか互角以上に戦っているところだった。ここで彼らが戦っているブラックドッグの後ろからエボニーが攻撃を仕掛けられれば鉄床かなとこ戦術として機能したのだが、現状、エボニーは別のブラックドッグの集団に追いかけられている。

 このまま突っ込んでエルフたちが対面しているブラックドッグを倒せたとしても、その後を耐えることが出来ない。そう判断したがために、彼は一人で追いかけっこを続ける他なかった。

増援が増える見込みがあるために行える行動だったのだが、エボニーが思っているよりも早くに増援は来た。


 背後のブラックドッグが悲鳴を上げて横に倒れていくのを見た彼は、すぐにそれが何の武器種によるものかを悟る。

 普段使う騎兵銃による魔力攻撃とはまた別の輝きのそれ。尚且つ遠距離で攻撃が出来る武器となれば、答えは自ずと絞られる。


 魔力ではなく、己の信仰を練り上げて攻撃とする「聖印」。

「弓兵」から派生する「狙撃兵」であれば可能な一撃の射手の姿は、しっかりとエボニーの目に留まった。


「あれは……」


 遠く、神職に就いているだろうことが窺える装束に身を包んだ旅人が四人。その中の一人に、エボニーは見覚えがあった。


 男の名は、ザンクト・フローリアン。

 エグバート・リッジとの決闘の前日にクラテルを訪れ、自らを「巡礼の徒」と名乗った彼と、他三人による遠距離からの攻撃は、着実にブラックドッグの数を減らしていく。

 数が減ってお膳立てされたとなれば、エボニーも黙って追われているわけにはいかない。タイミングを見計らって転進し、生き残ったブラックドッグたちを蹴散らすようにキリを走らせてエボニーは叫んだ。


「こっちに来い!囲まれるぞ!!」


 ブラックドッグたちが消える残滓の影で、奇妙な縁がここに繋がった。


 フローリアンとその弟子を合わせた四人と合流したエボニーは、新たに近寄ってきたブラックドッグたちを倒しながらエルフの元まで移動を始めた。

 エルフたちにはドーリーが付いており、戦場にまたたく炎を目印にすれば簡単に見失うことはない。白無垢のような戦闘衣装に身を包んでいるドーリーにある程度近づけば、ハクザンに満ちる神気とはまた別のそれが感じられるだろう。ブラックドッグが相手であるために全力で戦っているわけではないものの、神の力の一端がそこにはあった。


「エボニー様……これは、やはり顕聖が起こっているのでしょうか」

「ドーリーはそう言ってたな」

「そうですか…………」


 道中でフローリアンから漏れた声は、現実を認めたくない、という願望が漏れ出ていた。

 壊滅したハクザンの町を見ればそう思うのも無理はない。そう言えばズーハンのクランがこの件の担当になっていたなと、エボニーは頭の片隅で思う。


 そこでふと、ブラックドッグとは異なる小型モンスターの群れが視界の端を走って行ったのが見えた彼は、フローリアンたちにもっと走る速度を上げるように伝えた。

 遠目ではブラックドッグたちと争っているように見えたが、こちらに飛び火してこないとも限らない。数だけが多くて大して旨味のないモンスターは勘弁してほしい、という彼の本音が行動となっていたのだ。


 だからといって大型モンスターが出てきてほしいわけではないのだと、「火焔の飛竜ドミニティア」に追われる「甲冑の鷲竜シャダル」がこちらに向かってきているのに舌打ちを一つ漏らし、エボニーは閃光銃を取り出した。


「ドラゴンを倒したことは?」そう聞くエボニーにフローリアンは自信なさげだったが、返事よりも先に放たれた弾は二体のドラゴンの前で爆ぜ、鋭い光をまき散らす。

 どうにか姿勢を整えて着地した鷲竜とは裏腹に、飛竜はきりもみ回転しながら落ちて行く。そのまま着地に失敗し、骨の折れる音を大きく響かせたのはフローリアンにとって運が良かった。


 とてもではないが、ドラゴンと真っ向から戦いたくはないのだ。

 残ったのは地に伏せ、縮こまるように身を固めている鷲竜のみ。反撃される可能性が少ないとなれば、殴る抵抗感も薄い。


 聖印を握りしめた彼とその弟子たちがスキルを放ち、怯んだところをエボニーのスキルで貫く。

 呆気なく行われたドラゴン狩りに沸き立つ弟子たちとは裏腹に、フローリアンは星の民の末恐ろしさを感じるのだった。

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