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七十八、黒犬の挟撃。

 風は冷たく、空気は乾いていた。空は深い蒼白をたたえ、ハクザンの上で風と共に舞い踊る。うろ・・を抜けた先には白光はっこうきざはしが木々の頭上から差し込み、腐葉土が防具に身に包んだエボニーの重たい体を受け止めた。

 本来人気のない、自然が持つ朝特有の清々しさは、獣の咆哮と地上に満ちた神気によって畏怖へと昇華されるのだった。


「……これは」


 エボニーの肌が粟立つ。

 それは彼自身が体験したことがないはずの、神の力を彼の体が正しく認識しているからだ。

 まさしく臨戦態勢の神と相まみえたかのような感覚が、キリを止まらせた彼の脚を無意識のうちに進めさせる。それは、神を眼前にして立ち止まっているのはよくないと、咄嗟に鳴らした警鐘に引きずられるようだった。


 ゆっくりと。だが確かにキリとエボニーは人馬一体となって進んで行く。その背をドーリーも追うものの、彼女はどこか遠くを見るように目を細めていた。


はやはり……貴方様を恐ろしく思うのですね…………)


 ドーリーの中にある、もう何十年も前の記憶。未だ星の民に加護が宿り、街のあちこちでその姿を見ることができた頃のそれ。


 最初は多くの星の民がドーリーの元へやって来た。

 新たな強敵と、名誉を求める彼らに、彼女は「炎と旅路」の名をもって本気で戦った。


 彼女が勝てば勝つほどに「神の岬」にやってくる星の民は次第に少なくなり、やがてぱた・・と止んだ。

 そんな時に、ふらりとやって来たのが彼だった。

 装備はどれもが一級品。どこに出しても恥ずかしくないものだったが、戦い自体が上手いわけではなく、普通にドーリーは彼をくだした。だが何度も戦ううちに彼は戦い方を覚え、切り札とも呼べる大技は一つ一つ対処されてしまう。

 何度殺そうと、エボニーは諦めなかった。


 かつてと同じように、今も神を前にして無意識に前に歩き出してしまう彼を、ドーリーは心の底から恐ろしく思ったのだ。


 彼女らの後に続くエルフたちもハクザンを覆う神気に呆気にとられたようだったが、先頭を行く旗手を追う者の数は次第に多くなり脱落者が出ることはなかった。

 希望と勇気の星に引かれて一団が無事にハクザンの町が見渡せる場所に着く頃には、生き物も活発に動き出し、空には少しずつ黄が混じる。


 ハクザンの町から見て東側。山の手にある林から続く、エルフの道を抜けて見た町は酷く崩れ、人の気を感じることが出来ないほどに静寂に包まれていた。


「行こう」


 小さく呟いたエボニーの声に呼応して、キリの足取りが次第に軽やかになっていく。

 ついて来ていたエルフたちの姿は随分と後方に過ぎ、今はドーリーが隣に並んでいるだけ。


 朝の空気は冷たく肺の中を満たし、冴えわたった感覚が四肢の先にまで行き届けば、いよいよモンスターのお出迎えが彼の六感に届いた。


 目を配れば映る、黒い巨躯に赤い瞳の四足の獣は、本来であれば戦うことのできないモンスターである。


「……ブラックドッグか」


寿魂棺アクピュクシス」の「召喚」スキルで呼び出すことができる黒犬は、SSSでは通常のフィールドで戦うことが出来ない。例外は「杯と純潔のヴァイス」と戦った時に「召喚」を使われた時だけだ。


 ヴァイスの力が溢れているのなら、そういうこともあるのだろうかと、エボニーは騎兵銃を構えて近づいてくる五匹の獣を待つ。

 ヴァイスが召喚するブラックドッグは素早く動き、中途半端な攻撃は簡単にかわされてしまう。その性質を受け継いでいるのなら、近づいてきたところを攻撃するのが効率的だと、エボニーは様子を見ていることにした。


 つかず離れずの距離を保っていたブラックドッグたちだったが、彼らはなんの拍子か一斉にエボニーたちに向けて進路を変えた。

 エボニーがキリの進行方向に対して真横につける形で走ってくる黒犬たちとは逆サイドを確認してみれば、なるほど、そこにはまた別のブラックドッグの集団が迫ってきていた。


「挟み撃ちのようですね。分かれて戦いましょうか?」

「他のモンスターに横やりを入れられると面倒だしこのままで」


 騎兵銃を構え「まずは片方から」と一発撃ち放ったエボニーは、進路を少しずつブラックドッグへと寄せていく。

 一匹でも足並みを崩せればと考えて放たれた魔力弾は簡単に避けられ、他のブラックドッグたちが回避行動をとった個体に足並みを揃える。離れた場所で遅延させたところで意味は薄いと判断した彼は、その瞬間を待った。


「……スカッタリング!」


 一匹のブラックドッグがキリの後ろ脚に飛びかかる直前にスキル「散弾」を放ち、そのまま銃身を横にスライドさせて通常攻撃し、もう一匹の脚を止める。

 そうしてモンスターの注意がエボニーに寄せられれば、後はドーリーの独壇場だった。


「武芸者」から派生する最終職「七夜闢オーパス」のスキル発動時間は最速であり、瞬く間にブラックドッグの頭部が胴体とがバラされていく。


 死んだブラックドッグが塵となって消えていく様子は、それらが純粋なモンスターではないことの証明だった。

「レヴィアボルテックス」で反対側のブラックドッグたちを薙ぎ払ったエボニーは頭上を過ぎていった影を仰いで、閃光銃をアイテムポーチから取り出した。


「次はドラゴンか」


 そう簡単にハクザンには入れてもらえないらしい。

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