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七十七、太陽の下で居場所を求めて。

 コスモスの庵に朝が来た。鋭く研ぎ澄まされた人の気配が孕む熱が、常に日の出ている神域に来光を告げたのだ。

 ここから地平の彼方まで光を届け、未来を切り開くため。彼ら、彼女は立ち上がる。

 細く目を開いた寝起きのエボニーの前に立ち並ぶエルフ、ダークエルフの数は百も居ないものの、ヒトの上位種としてある彼らが将来を賭けて戦うのなら不足はない。


 庵から繋がる逃げ道こそあれ、この神域は逃げ場ではなく行き止まりでしかない。

 皆で話し合い、気持ちの在り所を定める時間だけが彼らにはあった。


「覚悟、か」そう呟いたエボニーは、かつての自分を振りかえる。

 サービス終了の報せを見てから、神を倒そうと挑み続けた自身はどうだったろうか、と。


(……いいや、あれは意地かな)


 苦笑を浮かべて再び前を見た彼は、エルフたちに揃えてもらった道具類をアイテムポーチに詰め込みながらゆっくりと体から眠気を抜いていく。起こしてくれたエルフからもう少しで出立すると聞いているため、覚醒は急かされる。

 騎兵銃のグリップの心地を確かめたり、意味もなく属性弾を込めては抜く動作をルーチンと呼ぶのはためらわれた。

 緊張と猛り、熱気こそ。そう口を開いた方が戦士にはふさわしいだろうから。


 ──いざ出立のとき


 姿を見せた「命と調和のコスモス」とドーリーにエルフたちは鬨の声を上げ、揺れる空気は衝撃となって大地を揺らした。彼らの視線の先へ、自然とエボニーの目も吸い寄せられる。


 彼が初めてドーリーを目にしたように、神を見るのに距離など些細な問題に過ぎない。どれだけ離れていようとも自然とピントがあってしまう故に、存在の強大さも同時にうかがうことができた。

 コスモスが纏う風にたなびく山吹の衣服チャドルは死神のようにも見える。ドーリーもまた本来の姿に戻り、白無垢にも似た鎧が柔らかくも鈍く、神域の光を映していた。


 一団に高説など必要なかった。

 言葉もなくコスモスを先頭に彼らは歩き出し、ハクザンへと続くうろ・・に向かって行く。


 その道中でエボニーは子供たちの姿を見ることが出来た。この戦いがエルフ族にとってどのような意味があるのか分からなくとも、重要なものであるのは雰囲気で分かるのだろう。

 拳を振り上げ、目を瞑り、口を大きく開いて飛び跳ねるその様は、自然とエボニーの腕を天に掲げさせた。


 軍靴の音に紛れて声こそ聞こえないものの、いつだって、応援は人を補強してくれる。

 勝つための計算は終わっているのだ。後は進めるだけ脚を動かせばいい。


 ハクザンに続くうろ・・の前で足を止めた二柱の神は、左右に避けて旗手エボニーを待つ。

 この地にある五柱の神、その全てを打倒し、過去の顕聖を収束させた伝説の星の民が先陣を切らなければならい。

 先頭が止まれば後続も止まる。エボニーの前を歩く全てが、象徴を見やった。道を譲り、各々が声をかけた。


 エボニーはSSSでしかエルフ、ダークエルフという存在を知らないが、彼らはエボニーを知っている。

 ヒトより長く生きる彼らは、その活躍を知っている。ドラゴン種と戦ったことを知っている。


 彼らにとって星の民とは、まさしく解放の象徴なのだ。


「召喚:キリ/銀灰馬グラニ


 月光の粒子を纏って現れたSSSからの戦友の背に乗り、エボニーはうろ・・の前までやってきた。

 人を簡単に飲み込みほどの大きさを持つそれの周囲は空気が歪み、今か今かとその時を待っている。


「わたしは庵の守護をしなければならい。危なくなれば戻ってくればいい」

「貴方様、では参りましょうか」


「ああ」と一つ、返事を返したエボニーはゆっくりと息を吐いて星宙ほしぞらへと踏み込んだ。


(…………慣れないなぁ……でも、落ち着く場所だ)


 エボニーは自らの胸に手を当て、深呼吸をするように息を整える。

 戦いの前には平常心を心がけているし、いざ戦闘が始まると体が勝手に気持ちを切り換えてくれるものの、それは緊張をしないということではない。


「ドーリーはさ、戦う時に怖いとか……思わないのか?」

「……いいえ。は戦いでそう思ったことはありません。ですけれどそれは、きっと貴方様も同じではありませんか?手を動かしているとそういう気持ちは忘れるものですから」

「そういうことじゃないんだけどな……」


 望んでいた答えを得られなかったエボニーを見てくすくすと笑うドーリーは、「ですが」と心の隙を見せるように儚く表情を変えた。


「恐怖そのものを経験したことはあるのです。そのうちの一つが貴方様と対峙した時だと言えば……気分も晴れるでしょうか」


 何度負けようとも、挑戦を諦めることだけはしなかったあの頃のエボニーが恐ろしかったのだと彼女は言った。


「ありがとう」


 気休めだと分かっているからか、彼自身でも驚くほどに冷たい声色で言葉は出たが、今はそれを撤回することもできない。

 うろ・・の端がくる。ハクザンは目の前だ。

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