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六十七、村の男。

 蛇亀は強いモンスターではないものの、防御が固く、戦いにくい部類に入る。エボニーも久しぶりに戦うということもあり、最初は間合いを計りながらの立ち回りをしていた。倒した後の事も考えて受付嬢のジュリアから教えてもらったポイントまで誘導したエボニーは、暖まってきた肩を回して攻撃の手を強め始める。


(急な突進からの噛みつきと水ブレスにさえ気を付けてれば問題はない。あとはこっちの攻撃の通りにくさだけか……)


 騎兵銃から放たれる魔力弾だけでは蛇亀の甲羅にしょっぱいダメージしか与えることが出来ず、属性弾を使ってもしっかりと弱点部位に当てなければ効果は薄い。一定の距離を保ちながら相手の弱点だけを狙うのは難しいものの、その難しさがエボニーの集中を高めていった。


(あぁ、この動きをするから頭がこっちに流れて…………はい一発)


 互いの動きをしっかりと合わせて放たれた雷の属性弾が当たってはじける。紫にも見える青白い光の起源、着弾地点は蛇亀の口元だ。

 悲鳴の代わりに大きく頭を跳ね上げて痛みを表現する蛇亀から一度距離を取り、再度、雷の属性弾を込めて止めとなる攻撃をスキルに乗せて放った。


 自重を支える力を失い大きな音を立てて崩れ落ちる巨体と、その後に訪れる一瞬の静寂を好ましく感じて意味もなくその場に留まっていた彼だが、少ししてからドーリーを迎えに行くためにキリを走らせる。


 蛇亀の素材は欲しいが、解体できるような刃物もなく、討伐証明部位も分からない。だが、今回に限ってはそれでも問題はなく、近隣の村の住人に討伐現場を見せることで依頼達成となるように話をつけていた。

 素材を使うのはエボニーではなく鍛冶師のアノアであるため、報酬金から引いてもらう形でハンターギルドに蛇亀の移送をお願いしたのだ。蛇亀を村まで運び、そこからゴールドバレーに戻って温泉地に向かうよりも、そちらの方が手間が無い。


 そんなこんなでドーリーと共に蛇亀の狩猟終了を指定された村にまで報告しにきたエボニーは、物珍し気に視線を彷徨わせていた。


「こんなところに村があったんだな。知らなかったよ」

「職業を手に入れたことで貴族の庇護を必要としない者たちが作ったのでしょうか」


 家がぽつぽつと建つ程度の村から活気を感じることはない。急なモンスターの襲撃で吹き飛んでしまいそうな備えを見て、貴族の庇護を必要としないほどの余裕を感じることは難しかった。


「すいませーん!誰かいませんかー!」と、エボニーが声を張り上げたことでようやく家屋から姿を見せた村人一号は遠目からでも分かる程度には体格が良く、荒事には慣れていそうな雰囲気を纏っていた。

 腰に杖を差していることから「魔術兵」であることは分かるものの、体が大きいというのもあって似合っていないというのが正直な感想だった。

 スキルを使うより殴った方が早くモンスターを狩れるんじゃないか、という言葉をぐっとこらえ、エボニーは男へと声をかける。


「ハンターギルドから来たんだけど、話が分かる人知りませんかー!」

「あぁー?そういや、そんなこと言ってたかな……」


 互いの距離を埋めるために声を張って呼びかけたエボニーに対して、男は頬をかきながら記憶を探るように明後日の方向を見やった。聞いたことがあるような、ないような。考えながらもエボニーの元に歩いて行く男は、「あぁ」と手を叩いてエボニーと視線を合わせた。


「蛇亀を運んで置いておけみたいな……」

「あ、そうそれ。倒したから運ぶの手伝ってもらいたいんだけど、人の姿が見えなくて」

「他の奴らなら狩りに出てるから、もう少ししたら帰ってくるんじゃないか?俺らで運べる分は運んじまうか。ちょっと待っててくれ」


 そう言って男が持ってきたのは大きな鉈であり、綺麗に手入れがされていた。職業が無くても武器を持つことに問題ないので、これで運べる大きさまで解体するのだろう。鉈が刀か西洋剣にカテゴリ分けされるのであればエボニーがスキルを使えるので解体も楽になる。

 モンスターを素材ごとに仕分けるという技能を持っていないエボニーからすると、こういった仕事に慣れていそうな男の存在はありがたかった。


 ◇


 蛇亀を倒した場所までやって来た三人はそれぞれにできる形で解体を進めていったのだが、一番の功労者はまさかのドーリーであった。「炎と旅路のドーリー」は「歩兵」系の職業を司っているために考えてみれば当たり前であるものの、エボニーの中では炎を中心に扱うイメージが先行していたために忘れていたのだ。

 エボニー自身も武器を振るうという経験からどうにかついていけているのだが、慣れていない、というのが分かるぐらいにはぎこちない。


 対して村の男はどうかというと、手を動かしながらエボニーとドーリーの様子を伺っていた。

 ハンターギルドから来たとしか聞いていないために最初はギルド職員なのかと思っていたが、装備の質、武具の扱いからして冒険者であるのは間違いない。では、どの程度の強さの冒険者なのか。

 男はゴールドバレーから離れて久しく、今の冒険者の実力の平均値というものが分からないが、分からないなりに考えても上澄みであるのは間違いなかった。


(これだけ蛇亀に的確な攻撃ができるんだ、一等星は間違いないか。そんでもって攻撃を受けた様子もない。いい腕してるな)


 村で生活をしていると、街で暮らすよりもどうしても余裕は少なくなってくる。塩害によって農業はで難しく、その代わりにモンスターを狩ることで金銭を得て生活しているのだ。だからこそ、自他の狩りの腕に敏感に反応する。ゴールドバレーで名が知れているだろう冒険者に対して、自分の腕がどこまで通用するのか。蛇亀を運んでいる途中、そう考えるだけでワクワクが止まらなかった。だが、仕事は仕事できちんとこなさなければならない。貴重な稼ぎの話だ。言葉にするなら全てを運び終えてからだと、ばらされた蛇亀が積まれた村の中でエボニーとドーリーに、男は杖を構えて言葉を放つ。

「手合わせ頼むわ」と。

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