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六十三、栄華の下り階段。

 ヨセフは満面の笑みだった。未だ知らぬ最終職。一つの頂点の姿は、もう手の届かないものではない。どのような最終職でさえ、条件を満たしさえすれば到達できるのだ。職業を持っている人間なんてごろごろ・・・・いるのだから、慈善事業だのなんだのと言葉を揃えて人を集めさえすればいい。幸せを作ってやれば、己のために利益を追求してくれる人形が出来るのだと、妄想ではない、現実的な未来として彼の脳裏には鮮やかに絵図が広がっていく。


 だが、その感情の一切を表に出すことはしない。ゴールドバレー城で仕事をしていた彼の表情筋は意識していれば崩れることはないのだ。


「素晴らしい戦いでした!エボニー様!!ええ、ええ……手に汗握るとはこのような戦いを言うのだと、私は心で理解しました」

「あぁ…………そう、ならよかったよ」


 互いに作った笑みで言葉を交わすヨセフとエボニーの会話の温度差は激しく、ヨセフの後ろに控えるヘレナに苦笑いをさせるほどだった。その表情がエボニーの心に癒しとしてみているなどつゆ知らず、話題は自然と決闘の結果へと移る。


「結果ですか……。審議が続いていますが、エボニー様の勝ちで落ち着くでしょうね。最後の攻撃でエグバート殿が本当に死んだのかどうかの判断は難しいでしょうし、結果として彼は生きている。勝負ありと審判官が言った以上、勝敗は決めねばなりません」

「あの場面だけを切り取って考えるってことか?」

「おそらくそうなる、という可能性の話です。審判官に物申すことは出来ませんので。故に、公平さを求められる役職でもあります」


「ですが」と、ヨセフは続ける。


「公平とは言っても、損得は考えねばなりません。国に所属する組織ですからね。教会を切り捨てるか、星の民を切り捨てるか。……情報と状況、その場の雰囲気も重要な材料になるのです」

「教会を切ると?」

「間違いなくそうなるでしょう」


 教会関係者の顔色を見て笑っているヨセフを見れば、エボニーもいくらか安心することが出来た。誰もが三つの職業を持てると考えれば、神をないがしろにするのかもしれないと考えなかったわけではないのである。だが、さすがにそこまでは腐っていないようだった。


 そこで会話がいったん落ち着いたと感じたエボニーは、ヨセフへと合同訓練の延期が出来ないかと打ち明ける。「少し休ませてくれないか」と。


「ええ構いませんよ。私たちも色々とやらねばならない仕事が増えるでしょうから、お時間をいただけるのであればそれに越したことはありません」

「こっちから声をかけたのに申し訳ない……」

「いえいえとんでもない!それ以上のものをいただいているのですから当然です」

「なら助かるよ。それと──」


 今回の一件が貴族たちのパワーバランスを大きく崩すのは簡単に想像できたが、エボニーはヨセフの言う仕事・・の内容が頭に浮かんでくることはなかった。元よりそういう世界に生きておらず、難しく考えるのに向いていないと割り切るのは簡単であるものの、貴族──ヨセフの家であるブラフナー家と今後も付き合っていくのなら、そうも言ってはいられない。

 自分にとって分かりやすく味方であるのなら、こちらもその分の配慮をする必要があるからだ。だからこそ、エボニーは職業に関する一つの懸念を伝えようとしたのだが、言葉は決闘の結果を告げる審判官の声によって遮られる。


「先ほどの決闘の結果をお知らせします!!審議の結果!星の民エボニーを勝者とし!我々審判官は勝者がエグバート・リッジ並びに教会に対して、正当な要求を行う権利を認めます!!」


 訓練場に響く審判官の声に対して、場に起こった声は小さいものだった。そもそもエボニーを応援している人物というのが少なく、教会からの恩恵を受けていない貴族家が存在しないのが理由である。

 しかして、訓練場の端でガッツポーズをし、エボニーの勝利を喜ぶ三人の冒険者の姿が居たのも事実だ。


「それじゃあ帰るか」


 勝者の権利がすぐに使えるものではなく、手順を踏んだ後に行われると教えてもらったエボニーの疲れた笑みにつられて駆け寄ってくるルイーズたちと一緒に、彼らは訓練場を後にした。


 ヴァイスが宙に向かって拳を振るい、思いっきりぶん殴るデモンストレーションをして聖職者たちをビビらせていたのはここだけの話である。

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