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六十二、素直に頷けるのか。

 SSS、ゲームとしての信仰ダメージの計算に必要なものは、職業のレベルアップによって基礎ステータスに加算される「信仰」の値と、武器に設定されている倍率である。そこからモンスターに設定されている軽減率による計算が入り、最終ダメージが出る。

 だが、実際に神が居るとなれば更にダメージを増やすことだって出来るだろう。神の加護、それこそ称号のように、神が一人の人物に対して力を与える事だってある。


「勝負あり!!勝負あり!!!」


 起き上がってこないエグバートの死は流血を見れば明らかであり、訓練場に慌てた審判官の声が響く。

 この世界の人間はモンスター相手に死んだ人間しか蘇生させることが出来ない。エグバートの家の者たちの顔色は悪いどころではなく、今にも死んでしまいそうなほどだ。

 教会からやって来たのだろう、提灯ていとうを持った「監察医」がダメ元でスキルを使うが、空打ちになっているのは誰の目から見ても明らかであり、決闘どころではないのだと、エボニーに空気感でもって伝えてくる。


 貴族たちのどよめき、慌てようは、エボニーの体に宿った熱を瞬く間に奪っていく。決闘に勝利したエボニーを気にしている者など殆どおらず、肩からゆっくりと力を抜いて自らが放り出した武器類を回収している彼を邪魔だと言わんばかりに扱う者さえいた。


(一人が三つ分の職業を同時に使ったとか、そういうのどうでもいいんだな……)


 エグバートが使った「衛生兵」から派生した二つの最終職のスキルについて、この場の誰が考えているだろうか。普通に考えれば、たった一つの貴族家の次期当主の死よりも、力を失った神の方が大切なのではないのか。

 ドラゴン種の武器「混濁の天鷲あまわし」が普通に使われるのも納得がいかない。エグバートが身に纏う、存在感を放つ防具も当然のようにドラゴン種のものだ。戦いの中で表層の色が剥げ、純白をあらわにしたそれを、エボニーが見間違うはずがない。


(本当に嫌になる)


 内心で毒を吐き出したところで、胸の内の吐き気は決して治まらない。どうせ生き返るなら一回皆死ねばいいのにと、拾い直した魔導書のカバーを撫でて近くに居た「監察医」から提灯ていとうを奪い取り、仕方なく蘇生スキルを使った。

 エボニーが誰かに蘇生スキルを使うのはこれで二度目である。そのどちらもが自身に敵対する相手であることが、更にエボニーの嫌気を高めていく。


 何事もなかったかのように生き返るエグバート・リッジは決闘に負けたことで失うものがあるだろう。

 そして数こそ少ないが、この場に集まっている教会関係者もまた、今までのツケを払う必要がある。


「殺すのはルール違反だけど、生きてればいいんだろ?」


 教会関係者を無視して審判官を脅すように怒気を込めてそう言うと、審判官は己の唾の行方に惑いながら「審議を……審議を行います」とだけ返す。提灯ていとうを持ち主に返したエボニーは、意識を戻さないエグバートが息をしているのを確認してからドーリーとヴァイスの元へと歩いて行く。


 彼自身、体はそれほど疲れているようには感じていないが、気持ちとしてはゆっくりと風呂に入りたいほどに精神は疲労していた。ちらりと視線を向けた蛇亀の防具の修復はいくら腕のたしかな鍛冶屋のアノアでも不可能だと直感的に思わせるほどで、この世界の住人で作り直すことが出来るのかと心配になってくる。

 血の滲んだ腕の傷は回復アイテムで直しているが、あまり見ていて気持ちの良いものではない。


 つまり何が言いたいかというと、今の彼は酷い姿をしているのだ。ヴァイスが「お疲れ」とぶっきらぼうにねぎらいの言葉を述べ、防具を軽く叩けば落ちてしまうほどには。


「何やってんのよ、もっと楽に勝てたでしょうに」

「……俺はモンスター専門なんだけど」

「あんなもの、モンスターと変わりないわ」


 ヴァイスの視線を追って振り返ったエボニーの目に映ったのは、下男に運ばれていくエグバートの姿であり、足が動いていないのを見るに意識は無いのだろう。一人一つというこの世界の職業システムを無視した力を使った彼を見てモンスターと称したヴァイスに、エボニーは何も言葉を返すことはなかった。


 ドーリーであれば「歩兵」を。ヴァイスは「衛生兵」を。エボニーは全ての職業を。

 複数の職業を扱えるのを理を外れた存在としてモンスターと呼んだのなら、自分も該当するだろうと思ったからだ。

 ドーリーとは神について問答をしたが、それに通じるものを感じたのである。


 SSSで戦った神を、戦うことが出来る存在としてモンスターと括るのであれば、エボニーも十分に化け物だろう。つい数日前には受け入れることが出来なかったものが、今はどこか納得してしまっている理由は簡単だった。


 あまりにも強すぎるから。


 職業を同時に三つ持ち、貴族として幼少として英才教育を施されてきた英傑に、魔力が扱えない状態で勝つのなら、どうやればエボニーに勝てるというのか。生半可なかせで埋まるような差ではないのだ。


「ひと段落つけば神の探索はおいて、しばらく静養いたしましょう。焦っても良いことはありませんから」

「……そうさせてもらうよ」

が良い温泉地を知っていますから案内いたしますよ」

「あぁ、いや。そういえばヨセフたちとの約束があったな……」

「そんなものほっときなさいよ。一々関わってるときりがないわよ。ほら、向こうから来たんだからちゃんと断りなさい」


 ドーリーとヴァイスのエボニーへの対応は真逆にも思えるが、その実気遣っていることに違いはない。疲れてはいても、そこに気が付けたのはよかったなと、彼はこちらへと向かってくるヨセフたちに視線を向けた。

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