六十一、決闘の終わり。
ドーリーとヴァイスを除き、「ナイトベール」のスキルを知る者はいなかった。故に、エボニーが何の武器でスキルを発動させたのかも分からない。エグバートは、自身が扱える「星翠戒」で覚えるスキルではないと咄嗟に判断し、防御を固めた状態で思考を巡らせていく。
(「衛生兵」系統のスキルは全部使えるようになっているが該当はない。そして……星の民が魔導書を手放したのは見ている。騎兵銃を持っていたわけでもない。一目で分かるような大きい武器種ではないはずだ)
武器だけを見て、十ある最終職のうち五つは候補から消える。
そして次に省くのは隠すのに向かない、大きい武器種だ。
(刀、弓、突撃槍は持っていなかった。隠せるとすれば杖か──!!)
答えまであと一歩。その答えを、エグバートは身をもって知ることになった。剣の刀身にぶつかってはじける、弾のような何かが当たったのだ。
(スキルの発声はなかった……何の攻撃だ)
スキルによる攻撃ではなかったために、彼の身に届く衝撃は少ない。攻撃が来た方向からエボニーの位置をうかがい知ることは出来るが、「ナイトベール」の効果は健在だ。「それでも」と、短い啖呵を吐いた彼は距離を詰めるために走り出す。
たとえ見当違いの場所に走っていようと、距離を取るべきではないと考えたのである。
(杖は「魔封じの粉」で使えないはず。ならば、先ほどの攻撃は残る一つしかない)
暗闇の先で感じた違和感に従うようにエグバートが剣を振れば、何かに当たったような感触と、小さな破裂音とがあった。彼がそこでエボニーの攻撃を弾いたのだと確信するのと同時、決闘場を覆っていた「ナイトベール」が消えた。
「……」
「…………」
エグバートと対峙するエボニーは、一見すると何の武器も持っているようには見えない。だが、エボニーの手の中に握られているそれを、エグバートは見逃しはしない。
「それは聖印だな」
「さすがに知ってるか」
武器種としての聖印が扱える職業は「狙撃兵」と、そこから派生する最終職「弦月座」である。エボニーの知るSSSでは戦闘用の聖印と祭事用の聖印とは分けられている設定であったが、この世界では違うようであり、それはフローリアンがクラテルに置いていった「篤き信仰の火印」が物語っている。
そして今回エボニーが持ってきたのは「世界内包の龍印」。ドラゴン種から作れる聖印の中で一番作成難易度が高いそれは、鈍い金色を放ち、仄暗い雰囲気を作り出す。
玉を抱えるようなポーズを取った龍の印の背中から伸びる同色のチェーンを伸ばしたエボニーは、聖印を落としてしまわないようにチェーンを右の手に巻き付け、親指と人差し指を伸ばして矢の形を作り、他三本の指で聖印を握ると、ゆっくりとエグバートへと狙いをつけた。
「多分だけど、さっきの粉は魔力を封じるやつかな?だから騎兵銃で魔力弾は撃てないし、魔導書で魔術は使えない」
「弦月座」のスキル発生速度は早くなく、ある程度のチャージを必要とする。通常攻撃として己の信仰を練り上げて放つ謎の気弾の速度も遅い。
「でも「弓兵」と「衛生兵」系の特定職業は別だ」
エグバートはエボニーが呑気に語り始めたのを好機とみて一気に距離を詰めるためにスキルを使いながら走る。「狙撃兵」から派生する最終職であるのなら、距離を詰めるのは当然だろう。相手のスキルが発動するよりも先に自身のスキルが飛んで行くのだから。
だがそれは一般的なスキルの話であり、もちろん発生が早いスキルもある。
「「ファラリス」でも打てばいいのに」と、愚直に突っ込んでくるエグバートへと呆れた視線を向けたエボニーが使うのは、カウンター系のスキルだ。
「グランドクロスッ!!」
「逆さ月」
「グランドクロス」の八つの斬撃の、その一つ目に対して発動した、カウンタースキル「逆さ月」。
上から下へと振り下ろされるはずだったエグバートの剣先をU字を書くように導き、頭上へと打ち上げたそれは、相手の近接攻撃の無効化と、体勢を崩させる効果を持つ。
こうなれば、自らの頭上を超え、背後へと流れていこうとする剣を抑えようとするエグバートに、エボニーの攻撃を防ぐことは出来ない。
エボニーの指矢が指すのは、エグバートの胴体。絶対に避けられない攻撃だ。
「コメット……!」
人差し指の先が光を湛え、少ししたのちに放たれる。
「コメット」を撃った腕が反動で上に上がるだとか、大きな音がするだとか。そういったものはなに一つありはしない。
大きく強い光がただエグバートと訓練場の壁を貫通し、それが決闘の終わりとなった。
(「コメット」は貫通効果がある。防具の中は…………いや、考えるのはやめようか)
「コメット」はピュアホワイトの防具を壊すことはなかったが、その中身、エグバートの体はしっかりと壊していた。エボニーはピュアホワイトの鎧がなければ丸い穴が空いていただろうなと、一つの言葉を発することもなく地面に崩れ落ち、思い出したかのように血を流すエグバートを一瞥して目を細める。
自らの知る「コメット」よりも威力が上がっている原因なのだろう二人を見やれば、そこには表情を崩すことなく決闘を見守っていた神の姿があった。




