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五十八、全ては勝てるように出来ている。

「レヴィアボルテックス」が放たれ、エボニーが反動を抑え込むために強く地を踏みしめる。彼から放たれた魔力の奔流が、一つの線としてエグバートを撃ち抜かんと駆けていった。

 観客として決闘を見ていた「騎兵」系の貴族家出身であるヨセフが手に汗を握る、流れるような洗練された動きであったが、エグバートの方もただ突っ立っているだけではない。

 完全に視界は回復していないものの、エボニーの位置が分かっているのであれば回避は難しくないと大きく横に避けたのだ。ほとんどの観客が避けきったと思っただろう。しかして、エグバートの防具には抉り取られたかのような螺旋痕が残っており、それは「レヴィアボルテックス」が見た目以上の攻撃範囲を有していることの証明だった。


「そう簡単に避けられるわけにはいかないな」というエボニーの言葉が聞こえた目の眩んだエグバートは「レヴィアボルテックス」の攻撃範囲の広さに気が付かないまま、自らが攻撃を避け損なったのだと歯噛みした。

 そしてエグバートが反撃しようと走り出した瞬間、回復した目の前に写ったのは、自らへと走ってくるキリの姿だった。


「サザンクロス!!」


 スキルの発声は間に合った。エグバートが十字に振るう剣の軌道は確かにキリとぶつかったが、彼の手に感触が返ってくることはなかった。まるで宙を斬ったような。いいや、事実、彼の剣は何も切り伏せてはいない。

 自らに突っ込んできていたはずのキリの姿はどこにもなく、代わりに目に映るのは魔導書を構えてスキルを発動するエボニーの姿だ。


「「バリアコート」……「サンダーバード」!!」


(どういうことだ)とヨセフに鋭い視線を向けたエグバートは、エボニーから放たれた雷の鳥をスキルを使って切り払い、走って距離を縮めていく。一つ目のスキル名からして防御系のスキルであるのは察しが付く。であるならば自由に移動できる「スターロード」は取っておいた方がいいだろうという判断した彼は、いくつかの攻防を繰り返してついにエボニーの元までたどり着き、「グランドクロス」を放った。


 八つの斬撃はエボニーの「バリアコート」を突き破って彼にダメージを与え、防具に大きな傷を残したが、食い破るほどではない。攻撃を受けることを覚悟していたエボニーは受けた衝撃を僅かな息を漏らすだけに留め、エグバートを引きはがすためのスキルを放つ。


「……スフィアディスチャージ!」スキルの発声と共にエグバートは「スターロード」で距離を取り、球体状に発現した放電を避けることに成功したものの、突然聞こえた笛の音と共に背後から衝撃を受けて地に伏せることになった。


「な、なにが……」

「アイテムの使用は無制限。そうだろう?」


 エグバートが見上げるエボニーの隣にはどこから現れたのかキリの姿があり、背後からの衝撃の正体を彼に教えた。エボニーの今の職業は魔導書を持っているので「騎兵」ではないが、どうやって馬を召喚しているのか。エグバートが答えを考えるよりも先に、丸薬によって体力を回復させたエボニーの攻撃が襲いかかる。


「サンダーバード」


 スキルが当たってもエボニーの攻勢は止まることはない。キリに飛び乗って走り出したエボニーは、キリがエグバートを踏み砕く前に鞍から飛び降りて魔導書を構えて次の攻撃を行うために体勢を整える。


 決闘の主導権はエボニーが握り続け、エグバートがようやく与えたダメージも既に回復済み。このままエボニーが勝利を掴むのだろうと大勢の観衆が思い、審判官がいつ決闘を止めるかと思いを巡らしていた時──キリの蹄がエグバートに届く直前、エグバートがあるスキルを使った。


「ファラリス!!」


星翠戒グランドクロス」では決して使うことのできないそれは「天舎那インデュクス」のスキルであり、ラウラ・デルソルとの戦いでエボニーが見たものとまったく同じものだ。

 キリとぶつかった炎でできた牡牛は訓練場にどよめきを起こし、エボニーに一時的に攻撃の手を止めさせた。


(「天舎那インデュクス」の武器は槍だ。槍を持ってるわけでもないのにスキルを使ったということは……、そういうことなんだろ)


「杯と純潔のヴァイス」の司る職業、「衛生兵」から派生する最終職「天舎那インデュクス」のスキルが使えたということは、ヴァイスの力をその身に宿しているということであり、同じく「衛生兵」から派生する最終職の「寿魂棺アクピュクシス」のスキルを使える可能性をエボニーに示す。

 神から奪った力がどこにいったのか。その答えを目の当たりにしたエボニーであるが、別段慌てることもしない。想定していたと言えば嘘であるが、まったく考えなかったというのも嘘になるからだ。


寿魂棺アクピュクシス」「天舎那インデュクス」は中衛から後衛よりのスキルが揃っているため、前に出て戦う「星翠戒グランドクロス」との相性はそれほどいいわけではない。

 それらを加味して考えれば、まだ負けることはない。


 両者の防具は互いに傷つき、お互いの体は土埃で汚れている。

 しかして、アイテムで体力を回復させて立ち上がったエグバートとエボニーの心は戦う前から全く変わることがない。


「複数の職業を使えるのが貴公だけだと思わないことだ」

「あっそう」

「……随分と冷めているな」


 戦っていれば頭が戦闘のために興奮するのは常であり、エボニーもまたそうであるが、彼から出てくる言葉に熱はない。己を言い聞かせるように鼓舞することもなければ、勝利への執着も感じられない。

 エグバートからすれば不思議なことだ。勝利することで得られるものがあるのだから、勝ちたいと思って当たり前ではないのか、と。


 だが、忘れてはいけない。

 この決闘はドーリーとヴァイスがエボニーに託したものであり、エボニーにとって勝って当たり前であることを。

 そしてゲームをするうえで重要な問題を、現状の彼はクリアしている。


「いつでも最適な選択を取ること。安全マージンを確保しつつ、相手に負荷を与え続けること。戦いの中で感情的にならないこと」


 五柱の神と戦うごとにエボニーが何度も唱えた文言に、エグバートは息をのむ。


「どんな存在であろうと、倒せないということはない」


 神殺しを成しえた彼だから出る言葉。負けイベントでないのなら、絶対にプレイヤーが勝てるように作られている。言い換えれば、勝って当たり前。そうしなければストーリーが進まないのであれば、勝つしかないのだ。


 エボニーから見れば、エグバートはただの人間だ。神ではない。

 であるなら、SSSで鍛えた肉体を持っていて勝利を疑う必要もない。


「職業が三つ?たったそれだけで勝てるわけないよ」


 職業を極めることで得られるステータスの恩恵を、エグバートが三つの職業分得られているとしよう。

 対するエボニーは十の職業を極めている。差は縮まったが、依然七つ分の差があるのに変わりはなく、スキルの発声だって一度に三つ使うことなんて出来るはずがない。


 (くつがえ)ったかと思われた状況を抑えるエボニーの圧を観衆は強く感じながら、第二ラウンドが始まった。

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