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五十六、黒か白か、貴族か星の民か。

 決闘の当日、エボニーの覚醒はゆっくりとしたもので、十分な睡眠が取れたことを自覚させたのだった。

 酔うこともできないような量だけが多い酒をチビチビと飲みながらの静かな食事だったことだけを覚えている彼は、何も言葉を発さずに準備を整えていく。


 軽く探してみてもドーリーとヴァイスの姿は見えず、ホールにでも居るのだろうと辺りをつけた彼が纏う装備は純粋な防御力が高いものだ。人と戦うのだからと、変に耐性を積むよりも良いとの判断だった。


 蛇亀と呼ばれるモンスターから作られた装備は光を受けて瑠璃色に輝いて強そうに感じるものの、実際のところあまり強くはない。水棲系のモンスターなので一式で水に関係するスキルが発動するのだが、ストーリーをもう少し進めると水属性のドラゴン種が現れるので日の目を見ないのである。

 だが、攻撃力を上げる必要がない今回に限って言えば、最適な防具と言っても過言ではない。


 ここで攻撃を受けてくださいと言わんばかりに要所要所に設けられた甲羅の盾と、サメ肌となっている表皮を張られた防具の見た目は二足歩行する背中に甲羅のない亀の化け物のようであるが、一度着てしまえば案外気にならないものだと、エボニーは武器を見繕っていく。


 今回の主武器となる魔導書と、カモフラージュに使う騎兵銃。本来ならこれだけで戦うつもりであったが、脳裏にフローリアンの姿がよぎった彼は、もう一つ武器を手に取った。

 後は何の効果も持たない外套を羽織り、アイテムポーチの中身の確認をすませて準備は完了である。


 一階のホールまで降りた彼はドーリーとヴァイスが何処からか買ってきていた軽食をつまみ、キリを召喚してハンターギルドへと向かいはじめた。

 エボニーは起きてから特に時間を気にしていなかったが、太陽の位置を確認する限り丁度いい時間にハンターギルドに到着しそうだった。道中、様々な人々からの視線を何の感情もなく受けていた彼は、手持無沙汰で隣を歩いているキリの背を撫でる。


「落ち着きませんか?」というドーリーの言葉にいくつかの間を入れて、彼は「いいや」と答える。


「落ち着いてるよ。今更負ける相手じゃないし……ただ、疎外感を感じてるだけかな?自分でもよく分かってないけど」

「相手は貴族ですから」

「貴族なぁ」


 星の民と同じく職業システムを持ち、国の防衛が主な仕事の貴族。民からの信頼があり、それに見合う力を持っているが、どうやっても星の民プレイヤーのかませにしかならない彼ら。

 ゲームであれば当然だ。主人公は彼らではないのだから、極端に目立つことはない。


 それでも、メインストーリーが、SSSが始まるまでは彼らの力が必要だった。星の民が居なければ彼らは安泰だったろう。もちろんドラゴン種によって闘いの日々からは避けられないだろうが、それが貴族の仕事である。

 貴族たちの手の届かない場所をハンターギルドで抑えるのが常であり、そこに星の民が加わったことで、貴族の立場が揺らぎだす。メインストーリーの終了から二十年。星の民が最初に現れてから百年。星の民がノトの国民の心に根付くのに十分な時間があった。


 ハンターギルドへと歩いて行くエボニーへと視線を向ける人々もまた不安なのだ。どちらを信じればいいのか。

 また居なくなってしまうかもしれない星の民か?不穏な噂が聞こえてくる貴族か?

 己の気持ちを言葉として安易に口にすることなどできるはずもない。ゴシップとして語るには、お互いに大きすぎるのだ。結果は、今日の決闘が教えてくれる。


 どちらに着くべきか。

 昨晩寄った酒場が思ったより静かだったのも、理由があったのかもしれない。


 ギルドへ到着した一行は職員に案内されるがままに訓練場に入り、その時を待つ。

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