五十三、星の戦歴。
ハンターギルドでの決闘を想定した訓練は遅くまで続いたが、それ以外の問題はおおよそなく、ルイーズたち三人も合流する形でクラテルまでの帰り道を彼ら一行は進んでいた。
ギルドの受付嬢であるジュリアは明日の準備であったりと仕事が残っているためにこの場には居ないものの、機会があれば是非に、との返事をもらっている。ヴァイスが決闘の祝賀会だなんて決まってもいない予定について語り始めたのを急いで止めたエボニーを見て笑う彼女へと、彼は「明日はよろしくお願いします」と言葉を残したのだった。
「最後の方は結構戦えてたんじゃない?」と、訓練場での戦いを総括したヴァイスの言葉から始まった帰り道は、基本的に彼女とドーリー、そしてエボニーの三人の会話だけで成り立っていた。
ルイーズ、ノア、アイネスの三人からしてみれば、メイン武器ではないと言ってもエボニーに勝てるドーリーは恐ろしいし、若干のオラついた雰囲気をかもしているヴァイスにも同じ事が言えた。かといって訓練でズタボロにされたエボニーに話しかけるのも無神経なような気もしていて、お互いが視線を合わせながらタイミングを見計らっているのだ。
それならば一緒に行動しなければいいのだが、そこはヴァイスからの「せっかくだしあんたも来なさいよ」という圧に負けた彼女たちの責任だろう。
そんなこんなでクラテルへと戻ってきた彼らを出迎えたのは、ドーリーとヴァイスが装飾した一階部分のホールである。
綺麗だとか、整っているというよりも前に猟奇的であり、これから何かの儀式が行われるのではないかと思うような様子にルイーズたちはぎょっとして足を止めた。
ドラゴン種の素材で作られたと思われる装飾品の数々は元々マイルームに飾るためのもので、それらに囲まれてこの世界での日々を過ごしているエボニーからしてみれば特に驚くことはないのだが、この世界の住人である三人からすると、ものすごいハンティングトロフィーを大量に飾っているようなものだ。
「あー、まぁ入りなよ」というエボニーの言葉で恐る恐る中へと入ったものの、どうにも落ち着かないというのが本音だった。
「荷物とかそこら辺のラックに置いといてもらっていいから」
「ここに置くだけで武器が強くなりそうなんだが……」
「これ何の素材で出来てるのかアイネス分かったりしない?」
「残念ですが……。もう触るのすら嫌です。私の武器が小さくて助かりましたね」
「それは何だったかな。木製のやつは巨人の何かだったと思うけど」
綺麗に手入れをされ、使用痕すらない武器ラックに自分たちの貧相な武器を置くことを拒むのを笑ってから、エボニーは適当なテーブルに魔導書を置いた。ピュアホワイトの鎧も合わせて脱いでいく途中で、彼は武器ラックが何のモンスター由来であるかを思い出したのだが、あえて何かを言うことはなかった。
(イベントクエストは正直規模が違うから刺激が強いだろうなぁ……)
オンラインでの協力プレイでしか受注できない特別なクエストを懐かしみつつ、かつて一緒に遊んだ仲間たちが居ればと、心に影を落とす。
上手いだとか、下手だとか、そういったことを関係なしにクエストを受けては笑っていた頃があったのは良い思い出である。
脱いだ鎧を自室へと運ぶためにホールを抜けて階段を登っていくエボニーに、ヴァイスが適当に食べ物を頼めば、彼は(何かあったかな)と独り言ちて足を進める。
ぱっと思い浮かぶのはバフがかかるような食べ物たちで、使わずにため込んでいるものがあった。だがそれが何年前のものかも分からないとなれば、おいそれと手を出すのも気が引けた。では何があるのかと言うと何もなく、部屋に入って確認したアイテムボックスの中はいつも通り素材の山があった。
「そもそも肉が入ってないしな。魚はあるけど……スキルで焼くか?」
クラテルは謎素材で出来ているために火事を気にする必要はなさそうだが、室内で焼くとなれば煙と匂いの対策は必須だろう。エボニーは一応アイテムボックスから取り出して手にとっては見たものの、一階には窓も換気扇もない。
頭の中で広がっていくドラゴンステーキの幻想をエボニーはどうにか振り払い、手ぶらで階下へと降りていくしかなかった。
VRゲームでの食事事情は大変難しく度々議論に上がることもあり、そういったアイテムが必要最低限しか登場しないのは彼も理解している。三人称でも一人称でもない、本当に目の前に広がる食事を前にした時、彼を含めた多くのプレイヤーは面倒だと思ったものだ。
一定の間隔でしか飲食できない。
食事中に視界が埋まってしまう。
不自然に消える食べ物に違和感を覚える。
モニターで見ているわけではなく、ヘッドセットを通してみると分かる、ありえないが没入感を消してしまう。
SSSのオンラインプレイで火力が低くとも、スキルで回復が行える「衛生兵」がありがたがられる理由の一つがここにあり、初心者がメインストーリー進行中に躓く要因でもある。
自分にもそんな時期があったと懐かしむ彼がホールに戻った瞬間、観音開きの入口からノック音がした。




