五十一、唐突な死。
エボニー、ドーリー、ヴァイスが訓練場に入って少し。ハンターギルドの中では多くの冒険者が耳を澄ませて訓練場で何が起こっているのかをうかがっていた。
破裂音。爆発音。轟音。何がどうなればそんな音がするのだろうかと、最終職の居ないギルド内では想像することしかできない。普段であれば誰かが訓練場を使っていても様子を見ることが出来るのだが、今日はエボニーの貸し切りである。
訓練の様子を見られるのを嫌う冒険者が殆どであるのと同時に、貸し切りともなればのこのこと何が起こっているかも分からない場所に行く理由にはならなかった。相手は教会と争おうと言うのだから、無駄な飛び火は避けるべきだ。
だが、エボニーの知り合いとなれば答えは別だ。
例えば、決闘の前に訓練場が壊れるのではないかと視線を彷徨わせるギルド職員であったり、偶然にもこの世界にやってきてすぐのエボニーに声をかけ、強くなるきっかけを与えられた冒険者たちであったり。
妙に静まり返ったハンターギルドの中でそんな両者が目立たないわけもなく、自然とお互いの視線は重なり合い、無言の頷きとなって訓練所へと脚を伸ばすのも仕方のないことなのかもしれない。
「何が起こっているのでしょか。見たことのない方々と一緒でしたが……」
「えっ、ジュリアさんも知らないんですか!?」
「ですがエボニーさんと一緒に訓練できるのぐらいの強さはあるということですよね。少なくとも一等星級の冒険者ですか」
「あぁー見たくない。見る方が後学になるのは分かってても見たくない」
ジュリア、ルイーズ、アイネス、ノアはそれぞれに言葉を発しながら訓練場へと続く扉の前で一度止まり、それぞれが呼吸を整えたタイミングで一気に扉を開いた。その瞬間、彼女たちが目にしたのは、エボニーの顔面をドーリーが木剣で思いっきりしばいている場面だった。
「…………エボニー、さん?」
「ジュリアさん。部屋、間違えましたか?」
「あー、えー、間違えて、ないですね。はい」
ピュアホワイトの鎧が甲高くも重厚な音を奏で、SSSでキャラメイクされた筋肉質の大の男が地面へと崩れ落ちていく様に、頭が処理を拒んだのだろう。表情の一切をなくしたルイーズに続き、ノアがジュリアへと部屋の確認を促し、アイネスは一人、黙祷を捧げる始末。
三人組の冒険者が教えを乞うた星の民は、一瞬こらえるような動きを見せたものの、その甲斐むなしく大地へ倒れ込んだ。
エボニーとドーリーから離れた位置で一部始終を見ていたヴァイスは当然、訓練場に入ってきたジュリアたちに気が付いていたが、特に言葉をかけることもなかった。壁に背中を預けたままで蘇生スキルを唱える彼女は、飛び上がるように起き上がったエボニーに対してだけ言葉を紡ぐ。
「回避が遅すぎね。一発受けたら駄目なんだからもっと距離取りなさいよ。あとスキル発動までの時間把握が甘いんじゃない。使う種類を絞るなりなんなり纏めとかないと勝てないと思うんだけど」
「…………っー、分かった。コンボスキルだけにした方がいいか。ドーリーは?」
「弧からとなると……、間に攻撃を挟もうとし過ぎなのかなと。騎兵銃の間で攻撃を振っているので被弾が増えているのでしょうね」
「うーん、なぁ。分かってはいるけど、なかなか」
最終職に就くためには各神の幻影を倒さなければならないため、エボニーは魔導書が使えないというわけではない。けれども、普段からその武器種に慣れ親しんだ人たちからすると見劣りするのは当然であり、神を相手に戦うレベルに達していないのはこの場の全員が分かっている。
だからこそまずはエグバートに勝てるようにと訓練をしているのだが、いざ戦いとなるとつい熱が入ってしまう。お互いに相手を害する能力があるのが分かっているからこそ、本気を知っているからこそ、物足りない。
「もう一回頼むよ」と魔導書を構えるエボニーにドーリーが頷き、ジュリアたちそっちのけで訓練は再開されたのである。
そして彼女たちは、エボニーから放たれるスキル群をドーリーが対処することであの爆音が鳴っていたのだなと思うのであった。その後、どのタイミングでエボニーに声をかけたものかと考えること数度。結局、集中力が切れたことで観客の存在に気がついたエボニーから声をかけられたのだ。




