四十九、未読のメッセージがあります。
わいのわいのとクラテルのホールを飾っていたドーリーとヴァイスを連れてハンターギルドに向かうエボニーは、道中で彼女の言う状態異常対策の結果として出た答えを聞いていた。
「やってみなければ、というのが弧の正直な答えになってしまうのを申し訳なく思います。弧が考える中で状態異常に一番近いと思いましたのでお伝えしたのですが……」
「うーん、まぁ、いざとなったらドーリーが助けてくれればいいよ。っていうか、どうしてそんなことを知ってるんだ?」
「教会の中に居る偉い信者を脅しつけて少し」
「ふふふ」と笑うドーリーに寒気を覚えつつ、神託的な何かで裏で暗躍してくれている彼女への感謝も忘れることはない。
決闘はまだ行われていないが、彼女の言葉によって相手側の動きがある程度割れるのは大きかった。偉い信者と言っても知れる情報はたかが知れているものの、あるのとないのとでは安心感が違う。
「ヴァイスはどう思う?」
「まぁいいんじゃない。無策で挑まなければあたしはなんでもいいわよ。あんたは神ってわけでもないし、奪われる力なんてないでしょ」
「まぁたしかに」
「でもどうやって勝つつもりかは知りたいわね。蘇生させるのを前提として、殺してもいいならどの職業でも星の民が勝つんでしょうけど」
「そういえば」と彼は、ヴァイスの言葉で蘇生のスキルについてのいざこざを思い出した。
エボニーの愛馬であるキリが殺した冒険者を彼は蘇生させたが、冒険者たちはモンスター相手に死ななければ蘇生はできないと言っていた件である。
「そりゃあ、あたしが不在なのに強力なスキルが本来の力で使えるわけないじゃない。あたしたちの力を人の身で使えるようにしたのが職業やスキルなんだから、大元が絶たれれば後はお察しよね。あんたが使えたのは星の加護でもあったんじゃないの?」
彼女の口から出た「星の加護」という言葉に、エボニーは思わずドーリーに視線を向けた。彼女と初めて会った時、雨に濡れている彼に対して彼女が口にしたのも同じ言葉だったからだ。ただ違うとすれば、彼女は「星の加護はもうない」と言っていたことか。
ドーリーはエボニーの視線に気がついて彼と目を合わせたが、困ったようにほほ笑むだけで、何か言葉を発することはしない。何かを知っているのに、あえてそれを黙っている。分かりやすい取り繕い方ではあるが、聞くべきではないと思わせる力があった。
「ドーリーと何を話したかは知らないけど、加護なんていくつも種類があるんだから謎の意思疎通辞めなさいよね、ほんと。見ててイライラするわ」
「仲間に入れてほしいなら言えばいいのですよ」
「ちっ……うっさいわね」
神がしてはいけない舌打ちの音が聞こえたような気がしたが、エボニーは心を無にして聞こえないふりをするのだった。
「分からないを覚えている。貴方様、ヴァイスは今そういう感覚なのですよ」
そう言ってヴァイスからの蹴りを受け入れているドーリーが、何故力を失ったヴァイスの気持ちが分かるのか。彼は咄嗟に頭が回らなかったことを喜ぶべきかもしれない。心配する相手というのは、少ないに越したことはないのだから。
「あまり考え込まないほうが上手く働くこともあるのですよ、ヴァイス。スキルが弱くなったのは神の不調、異変なのは間違いありませんが、元に戻りつつあると考えれば、考え方も変わってはきませんか?」
「……それは、あたしたちの変化を考慮していないじゃない。そんなの嫌よ」
「ですが、いつかはやってくる結末です」
「まだ受けいれられないわ。少なくとも、このままで終わりは……」
「それを解決するために弧と貴女はこの場に居るのでしょう?」
「そうね……」
急にしんみりとしだした会話にエボニーはついていけていないものの、話の流れであまり良い話ではないのは理解した。星の民だけでなく、誰にでも職業があることが異常なのだと、だから戻ることは正しいのだと。
彼女たちの元とは、いったいどこの地点を指しているのだろう。
星の民がいなくなる前か。
星の民がやってくる前か。
ワルツとリーンズが戦う前か。
神の感覚が人のそれと同じであるはずがない。こうして彼の目の前で息をしていて、一緒に同じ道を歩いていたとしても、同じ生き物ではないのだ。
分かるようで分からないという複雑な感情の中で、彼はふと、ヘレナ・クーターから預かった手紙を読んでいないことを思い出した。
神の不調、異変でスキルの力が弱くなるのであれば、最終職にはなれない可能性があるのではないかという考えがよぎったものの、この世界に来てから最終職と戦ったことがあるのも事実。少なくとも、「歩兵」と「衛生兵」の最終職は居るのだ。
手紙に何か悪いことが書かれている気がしてならないのは、睡眠時間があまり取れていないからだと結論付けた彼は小さく息を吐いて、気持ちを切り替える。
(ハンターギルドに着くし、まずは明日のための練習に集中しないと)
……元の世界に帰れれば悩む必要もない。
心のどこかでそう思っている自分が居ることを彼は否定はしない。しかして、自身の目の前に写る世界を嘘だと言ってしまうこともできない。
専用のホルスターに収められた魔導書を撫でて、彼は一瞬だけ目を閉じた。




