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五つ、すっからぴん。

 冒険者は「武芸者」「猟兵」「魔導兵」の職業に着いた三人組であり、冒険者歴は今年で四年になるようだった。性別はそれぞれ女、男、女の構成で、エボニーからすれば心配してしまうような組み合わせだ。

 ゲームをしていればどうしても男女比というのは偏るため、そういった不祥事を目にすることは多かったのである。


(現実ならお互いに空気を読んで上手くやるんだろうか)


 四年も活動していれば折り合いはつけているだろうと結論を出した彼は、一度飛んでいた思考を三人の会話へと戻した。


 もっぱら話しかけてくるのは「武芸者」の女であり、名前はルイーズというようだった。そんな彼女をなだめるのが「猟兵」のノアで、「魔導兵」のアイネスは少し離れて二人のやり取りを見ている。そんな三人組の冒険者であるが、今回、ノアはルイーズを積極的に止めようとはしなかった。

 それだけ、ピュアホワイトのスケイルメイルを着けた彼の姿は目立っていたのだ。


「ねー、エボニーさんは今までどこで活動してたの?」

「ずっとノトの国だよ。基本はゴールドバレーにいたし」

「えーっ、ほんと?あ、じゃあよっぽど活動してなかったとか」

「まぁそんなもんかな。俺の名前なんて知らなくて当然だよ」


 彼女たちが生まれてくる前に活動していました、と言ったところで、それが全て信じられることはないだろう。エボニーは王城の磨かれた壁に映った自分を見て、SSSのキャラクリが反映されているのを確認している。誰が見たって三十歳より若い見た目をしているのだから、信じろという方が無理ではあるのだが。


「それでランクは?四年もやってればそれなりになるだろ」

「ワタシら三等星だよ!ゴールドバレーでも五本の指に入ってるんだから!」

「そりゃ凄い」

「へへっ、ありがとね!」


 太陽のようにはにかみながら笑うルイーズを見て、エボニーは少し白けた感情を覚えた。ギルドランクは一等星から六等星まで存在し、数字が小さくなるにつれて等級は上がっていく。当然、彼は一等星であり、三等星は二つ下になる。ゲームと同じように考えるのは間違っていると分かっていても、がっかりしてしまうのも無理はなかった。

 アイネスはエボニーのあまり気持ちの籠っていない言葉に気が付いたのか、付け足すように口を開いた。


「五本と言ってもギリギリなんです。だからエボニーさんのランク次第では、十まで数えないといけなくなりますね」

「ちょっとアイネス!そんなことは言わなくていいの。いつかは天辺まで登りつめるんだから!」

「いや、三人じゃ厳しいよ。個人の限界じゃないかな」

「ノアもそんなこと言わないでよー……。エボニーさんはどう思う?やっぱりクラン組まないと駄目かな」


「そんなことないよ」と、三人の会話を聞いていたエボニーはちょっと考えて答えた。SSSでは俗に言うクラン、ギルドといったシステムは存在しなかったが、ゲームをしていれば耳に入る単語であるため、すんなりと言葉は出た。


 要は同じ目的を持っていたり、気の会う仲間たちで組むグループの事で、それらはパーティーより人数が多い事の方が多い。今回の場合は、ハンターギルドで上位帯に行く事を目的に組まれる大人数グループのことになるだろうか。


「俺もたまに手伝ってもらったりはしたけど基本は一人だったしね」

「だよね!……って、エボニーさん、絶対私たちより上じゃん!?もう勘弁してよ……!」

「まぁぼちぼちやってりゃ勝手に上がるよ」

「ぜったいうそ!!」

「本当だよ」


 なんて話しつつ、四人はハンターギルドに到着した。それはエボニーが知るハンターギルドより大きく、人の出入りも多い。利用者が増えたことで増築を繰り返したのか、ところどころ建築の様式が異なっており、職人の仕事の良さが伺えるそれは、二本の交差した剣が目印の建物だった。


 正面入り口は上から吊られた二枚の布で仕切られていて、チラチラと隙間から見える内部は随分と賑やかに見える。今も鎧を身に纏った一団が賑わいながら中に入っていき、周囲の雰囲気もつられて明るくなっていった。エボニーたちも後を追うように進んでいると、先の集団が見えなくなってからルイーズが口を開いた。


「あれが今、一番上のクランの奴ら」

「時間的に一狩りしてきたんだろうな。皆同じ装備だから狩りの効率は悪そうだけど」

「あいつら同じような装備ばっかでつまんねぇよなー」

「あんま大声で言うなよ、ここで目をつけられたらたまったもんじゃない」

「本当ですよ。誰が後始末すると思ってるんですか」

「暴れ終わると寝ちゃうんだから仕方ないじゃん!」


 身振り手振りでなんとか弁解しようとするルイーズの隣で、エボニーは大きな欠伸をして頭の後ろで両手を組んだ。ノアとアイネスの表情を見る限りでは、アイネスは結構な問題児であるらしい。


(これで五本の指に入れるんだから、ろくな奴いなさそうだなぁ……)


 彼からすれば、問題を起こすというのはそれだけでマイナスの判断材料である。酒場で大喧嘩だなんて、憧れる要素もない。面倒くさいからといって案内を頼むのは間違いだったかもしれない。そうエボニーは思うものの、すでに手遅れの感は否めない。


 ハンターギルドの内部は広いだけあって全体的に暗く、それを補うようにロウソクがぽつぽつと立っていた。高い天井には冒険者たちの笑い声が響き、エボニーたちを出迎えたのだった。


「んじゃ、俺は受付に用事あるから」

「えー、せっかくだし一緒に行こうよ」

「嫌だよ」

「ほらルイーズ。すみませんエボニーさん、お邪魔しました」

「はいはい」


 ノアに引きづられていくルイーズにエボニーは手のひらを軽く振って応え、一礼してから仲間二人の後を追ったアイネスには目礼を返す。そこでようやくエボニーは肩の荷が降りたような感覚を覚えて息をつく。どうしても真っ先にSSS基準で考えてしまう彼にとって、どうもこの世界は居心地が悪かった。

 それならば比べる対象が少ない一人の方が楽だと思ってしまうのも仕方ないだろう。


(この世界にはタイムアタックとか、総狩猟数を競ったりとか、そんなのないんだろうな…………)


 胸に気持ちの悪さを抱えて歩くエボニーだったが、受付の場所はすぐに分かった。改装、増築されているとはいえ、何度も見てきたギルドと大きく異なってはなかったのだ。

 受付の数自体は多くあったが、色で分けられているために彼の足取りは真っ直ぐに進む。「六等・五等」の受付を通り過ぎ、「四等・三等」も過ぎていく。そして最後。「二等・一等」の受付の前で彼の足は止まり、暇そうな受付嬢に声をかけた。


「あーすみません。ちょっといいですか」

「はい、ハンターギルドへようこそ。ご用件をお伺いします」

「ギルドに来るの久しぶりなんですけど、ギルドってお金預けたりとか出来ましたっけ」

「金銭の預かりでしたら行っていますよ。もし預けられているのでしたら、ギルドカードで残高の確認ができますけど、どういたしましょうか」


 ギルドカードはゲーム内での個人的な記録が記されており、プレイヤー同士の交流に使われるのが常である。SSSでは特定アクションでしか取り出すことが出来ず、彼は内心で焦っていた。だが(ギルドカード来い!ギルドカード来い!)と念じていると、特定アクションでは鞄から取り出していたのを思い出したのだ。


「あ、お願いします」

「ではお預かりしますね」


 一等星を示す金色の縁のギルドカードは新品と変わらないように綺麗で、受付嬢はまずそこに驚き、遅れてギルドカードが一等星の枠だというのに驚いた。ノトの国のハンターギルドで上から五番目のルイーズたちで三等星なのだから、見慣れない一等星が急に現れたら驚くのも無理はない。


 それでも、大慌てした様子を見せなかったのはプロなのだろう、手際よく作業は進んでいく。だが、いよいよ預金残高を確認するという段になって彼女の視線と表情が固まり、錆びたロボットのようなぎこちなさでエボニーの顔を見た。先ほどとは打って変わって震えるような声で、彼女は言葉を絞り出す。


「あ、あのー…………すみません、もしかして星の民様でしょうか……」

「そうですね。で、いくらありました?ないならないでいいんですけど」

「そうですね、えー…………申し上げにくいのですが、お預かりしてから三年以内に取引がない場合はギルドに全額入るようになっていまして……」

「さすがに時間経ち過ぎですかね。ちなみにギルドに入ったお金って、何に使われたかってわかりますか?」

「……おそらくギルドホールの増改築に使われたかと」

「…………まぁそれならいいですけどね」


 別段使う予定のないお金が多少なくなったところで、所詮はゲーム内通貨だ。一瞬走ったこの考えに、エボニーは僅かに顔を歪めた。この世界で過ごしているうちに考え方も変わるのだろうか、と思うと同時に、それまでには帰りたいな、とも彼は思う。

 固くなった表情をほぐすように頰を伸ばしたエボニーは、気を改めて受付嬢に尋ねる。


「それじゃあ適当に狩れそうなモンスターって居ます?」

「そうですね……、どの辺りが適当かと言われるとちょっと…………」

「あーなるほど。それならまた明日来ますよ」

「ご手数おかけします。冒険者の数も増えましたので、もしかしたら難しい依頼ばかりの紹介になるかもしれませんが」

「肩慣らし程度でお願いします。ブランクがあるんで」

「かしこまりました」


 受付嬢からカードを返却してもらい、エボニーはギルドを後にしようと振り返って歩き出した。その時の周囲からの視線は気持ちのいいものではなく、部外者である自分を排除しようとしているのではないかと思わせるものだった。それは彼の気の所為でしかないのだが、誰もそのことを教えてはくれない。


 星の民を縛ることはできない。……彼の知る自由は、どこにも見当たらなかった。

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