四十八、小型モンスターのちょっかいで乙るアレ。
王城を出てクラテルの自室に戻ってきた彼は、ドーリーの言っていた状態異常対策について考えを巡らせていた。
毒、麻痺、睡眠、混乱。以上四つが代表的な状態異常になるのだが、ドーリーの言い方からしてこういった基本的なものの対策だけでは足らないだろう。では、明日はどういった準備をして決闘に望めばいいのか。対策するように言ってきた本人に問いただすのが一番なのだが、当のドーリーはヴァイスと共に一階のホールを整えているために、わざわざ話を聞きにいくのも憚られた。
状態異常に対して耐性の補正がかかる職業で一番なのは、スキルで状態異常を扱う「月影胞」である。
「魔術兵」→「呪術兵」→「月影胞」と続くこの職業は、教会に侵入する時に一度成った職業であり、身近な知り合いとしては「呪術兵」のズーハンが該当する。
武器種も杖であり、隠そうと思えばどこにでも仕舞い込むことができるだろう。
状態異常耐性だけで考えればこれで決定なのだが、「月影胞」は状態異常を解除するようなスキルを持っていない。その点で考えれば、「衛生兵」派生の職業が安定するのだが、意表をつくとなれば効果は薄い。
「衛生兵」派生の武器種は槍と提灯であり、隠し持つことは難しいのだ。
攻撃を重視した槍を扱うか、回復を重視した提灯を使うか。
未知の状態異常対策となれば提灯を使うのが理想的であるものの、自分から攻撃する手段が少なく、距離を詰められれば弱いというのは朝一のヴァイス対エグバートを見ていれば明らかであった。
(というか神だったヴァイスがかかる状態異常を防ぐのは無理なのでは?)
武器のいくつかを手に持った状態で手詰まりを感じていた彼がこの答えに辿りつたのはクラテルに戻ってから数時間が経ったころであり、エボニーは今までの時間が無駄だったように感じて大きくため息をついた。
「そもそも状態異常ってなんだ……、神の力を奪うのって状態異常なのか?」
体力などを相手から吸収するようなドレイン系統のスキルはSSSでは出ることはなかったが、他のゲームをしていれば見覚えが全くない、ということはないだろう。
与えたダメージの何割かを回復。割合で一定時間毎に相手から体力を奪う。それらをどう例えればいいのか。状態異常と言えば状態異常の枠組みに入るのかもしれないが、状態異常かと問われると微妙に違う。
「どちらかと言えば回復系だよなぁ…………」
そう言って彼が手に取ったのは、魔導書。「月影胞」と同じく「魔術兵」から派生する最終職である。
SSSはモンスターと戦うことを主目的としたゲームであり、相手の体力回復を阻害するようなスキルは存在しない。では何故か魔導書を手に取ったのか。答えは、魔導書を装備することで使えるようになるスキルにあった。
魔導書を使う職業は状態異常攻撃を主眼に置いた「月影胞」とは違い、魔術による攻撃を主とする職業だ。
状態異常耐性は「月影胞」に次いで二番目で申し分なく、スキルの発生速度も早い部類に入る。状態異常を解除するようなスキルを使うことは出来ないが、似たような効果を持つスキルを持っていることを思い出したのだった。
SSSでよく使われる場面では発揮されない効果であったためにすぐには思い出せなかったが、状況をひっくり返すほどに強力なのは間違いない。
しかして、使いどころが難しいスキルであることも彼は知っている。どれだけ早い時間でモンスターを狩れるかを競うTAにも使われるため、目にする機会自体は多いものの、中途半端な実力でそのスキルを使用して戦う戦闘スタイルの名前を聞けば、一言目に「えっ、本気ですか?」と笑われるのは間違い。
動画投稿サイトで狩りが上手いことで有名なSSS実況者でも失敗することがあるほどに難しいのだが、エボニーは今回はどうにかなるような気がしていた。
僅かなミスと運の悪さが負けを生む戦うスキルであるが、相手は冒険者の何倍もの体力を持つモンスターではなく、たった一人の人間である。
長期戦になる可能性は低く、相手の職業は「歩兵」派生の「星翠戒」で、武器は西洋剣。攻撃の起点は剣からであり、武器の振りからどのスキルを使うのかの想像も容易い。遠距離職あるあるの低い機動力を補うための策も考えてある。
職業、スキル選択、戦い方。ここまで決まってしまえば、後は簡単である。
特定のスキルのために用意されている防具の数が多いわけもなく、選択肢はぐっと狭まるが、特化した防具が弱いはずもない。
「後は、言葉に出さずにスキルが使えるかどうか」
使わない武器、防具を一旦片付けた彼が次に考えるのは、どのような状況でもスキルを使えるかどうかだ。
麻痺していれば言葉を発することはできないし、眠っていても同様である。件の状態異常がヴァイスを捉えていた繭と似たような何かだと仮定した場合、動きを封じられる可能性十分にあった。
もし何かあった時のため、できることは試しておいた方がいい。明日の昼まで時間があるのだからと、エボニーは魔導書をもって一階へと向かった。
ドーリーとヴァイスが模擬戦の相手になってくれるのなら申し分ないだろう。




