四十七、手紙の内容。
エグバートの使者が王城の門番に手紙を渡し、門番が下男に渡してエボニーの元まで届いた手紙はリッジ家の蜜蝋がされていた。
「ここで開けても?」というエボニーの言葉に法務官と護民官は一つ頷く。
「じゃあ、失礼して。………………あー、エグバートは教会の代表として戦うみたいですね。教会の肩を持つ貴族代表みたいな」
「それはまた。どうあがくつもりでしょうか」
「まぁまぁ、続きを聞きましょう」
「場所はハンターギルドの訓練場で、相手を殺さない以外は何をしてもいいのかな。この書き方だと」
「四肢ぐらい折ってもあたしが許すわよ」
「それはまずいだろ。次期当主らしいし」
「治せばいいのよ」得意げに言う彼女を信じるわけではないが、決闘の後に治してしまえばいいと言われればそうだ。倫理観が許すのであれば、だが。
「それで条件はどうなっているのでしょう。教会側として出てくるなら勝つつもりでしょうし……、弧としてはヴァイスの力がどこに消えたのかも気になるところですが」
「条件は箇条書きか……えーと、一対一で、俺とエグバートが戦うこと。武器、アイテムは無制限。制限時間はなくて、決闘の決着は審判の判断か自己申告か。審判は審判官を何人か呼ぶみたい」
審判官は平民から選ばれる者、貴族から選ばれる者、国が指定する者など存在するので、その中から招集するようだった。
「エグバートが勝ったら、教会側が提示する金額を支払って事実を認めるのと、教会から連れ去った人物の返還が書かれてますね」
「墓荒らしの噂とヴァイス様のことでしょうか。その程度であれば妥当な所でしょうか」
「べつに連れ去られてないけど、構わないわ。あのエグバートとかいう奴程度ならあんたの方が強いのは分かるし」
「ありがたいけど、やってみないと分からないよ」
法務官のお墨付きをもらったところで口を挟むヴァイスを軽く流して、エボニーは次の項目に目を通す。
決闘を行う日程についてだ。
「明日の正午ちょうどから決闘を行うのか……。それまでにこちらから決闘で勝った時に求めることを決めてリッジ家まで届けるようにとのことです」
「それじゃ、とりあえずは教会の偉い奴を上から十人、いや十五人殴るわ。これは絶対よ」
「えーっと、これは条件に入れても大丈夫なんですか?」
「裁判によって教会側が悪かったと認められれば、被害者の報復もある程度認められます。ある程度ですが、……ヴァイス様が望まれているのであれば仕方ありません。書き方には注意しなければなりませんがね」
「うーん。それなら嘘偽りのない事情聴取と、裁判を受けること。結果としてヴァイスが殴ってもいいってなったら大人しく受け入れることぐらいかな?」
「はい。被害者の求めている罪の償い方をすること。と書くのがいいかもしれません。力の返還もありますから」
「それもあったわね」
(力を返してもらうことより殴りたいのかよ)
会話を重ねるごとにヴァイスが本当に神であるのか疑わしくなっていくエボニーであるが、何度見てもSSSで戦った彼女の外見となんら変わりはない。ドーリーも彼女を知っているはずなので間違っているはずもないのだが、あまりにも暴力的なので心配になってきていた。力が返ってくれば何か変わるのだろうかと思いつつ、ほとんど口を開かないドーリーを見やれば、彼女は自分を見ているエボニーに気が付いたのかにこりとほほ笑んだ。
「どうかいたしましたか?」
「いいや、何でもないよ」
ドーリーの瞳が淡く光を放っていた気がしたが、エボニーが瞬きをした次の瞬間には普段通りの彼女の姿があって、彼は笑って誤魔化す。エボニーは彼女の全てを知っているわけではないが、性格からしてあまり話さないたちなのだろう。
いまだ繋がったままの視線の彼女はもう一つ笑ってからエボニーと距離を詰め、彼にだけ聞こえるように耳打ちを行った。
「貴方様の手持ちのアイテムの中で状態異常を完全に防ぐものをお持ちでしょうか」
質問の意図は分からないが、エボニーの声も自然と落ちる。
「状態異常の無効化?」
「はい。一時的でも、かかったものを一瞬で治すのでも構いませんが……」
「状態異常の対策は難しいんだよな……それこそ職業の耐性補正と防具で対策するぐらいか」
「明日の決闘で、相手に分からないようにその対策を行うことは可能ですか?」
「え?相手に分からないようになぁ…………。職業切り替えと外套で防具を隠すとかすれば、ぱっと見では分からないかも」
「ではお願いしますね。弧も貴方様の勝利をお祈りいたします」
ドーリーからの不思議なお願いは、ヴァイスの「なにいちゃついてるのよ」という声に終わりを迎え、エボニーは釈然としない気持ちで装備を考え始めた。




