四十六、神とはパワー!ヤー!。
護民官:平民だけが就ける公職。平民の生命、財産を護るための官職。
詳しくはWikipediaを参照してください。
王城までやって来たエボニー一行であるが、特に誰かに会うためにやってきたわけではない。ただなんとなく、説明するならここなのかなぁと、ある意味軽い気持ちで門を叩いたのだった。
「昨日の説明に来たんだけど」
門番らしき兵士の一人を捕まえてそう訊ねれば、「確認してきますので、少々お待ちください」と事務的な答えが返ってくる。どこそこの誰かにアポイントを予約しているわけではないので時間がかかるだろうなと思っていると、案外すぐに城内へと通された。
(これは部屋の中で待つパターンかな)
行動の早さからそう思って兵士の背中を追っていると、一つの部屋に案内された。ゴールドバレーにやってきた最初の日に使った部屋よりも入口から近い部屋であったが、扉の装飾から格式だけでみればこちらの方が上であることが窺えた。
扉の前で佇む兵士に言伝を頼み、待つこと少し。了承が得られたのか、エボニーたちへ向けて扉が開かれた。
「法務官様、護民官様、星の民とお連れの方が来られました」
「あぁ、朝早くからすみません。お疲れでしょうが席へどうぞ」
「教会にも困ったものです。まぁいつものことと言われればそうですがね」
明らかに偉い役職に就いている二人はエボニーたちを歓迎し、席に着くように促した。
両者はあまり堅苦しく会話を進める気はないようで、軽口を交えながら飲み物の準備を進めていく。部屋には下仕えは居らず、法務官、護民官、書記官とエボニーたちの六人だけだった。
「忙しいでしょうにすみません」とエボニーがたまらず声をかければ、彼らは「いえいえ」と首を振って事のあらましを教えてくれた。
「昨夜、急に応援を求められた時は何事かと思いましたが、エボニー様と共に戦った者が「夜の外套」と捕虜を伴って現れ、説明はまた改めて行うと伺っていましたから。こうしてお待ちしていたわけです」
「まぁ、詰めるところは詰めるのが我々の仕事ですが、あくまでも中立ですので」
昨夜共に戦った兵士が上手くやってくれていたため、急な来訪ではなかったということに一先ずは安堵の息を漏らしたエボニーであるが、今回の出来事を話すのであれば、まずは自らの非を告げなければならない。ゆっくりと息を整えて語りだす彼は、「教会の言ってることは完全に嘘ではない」という前置きを忘れはしなかった。
「俺はどうしてここに居るのかを知るために神を探しているんだけど、ヴァイスが居るのは神殿の地下……、教会がどうやっても許可を出さないのは何となく分かっていたから、「夜の外套」を使って忍び込んだんだ」
「……なるほど。確かに彼らは地下墓地へと行くことを拒んだでしょうね」
「それとこれとはまた別問題なのでは?不法に侵入しているのは間違いありませんよ」
「それはもちろん。続きを聞きましょうか」
法務官と護民官は自分たちでもメモを取りながらも、並行して器用に会話を行う。エボニーからすれば肩身が狭いが、ここで嘘を言うわけにもいかない。
「それで、地下のヴァイスが本来居るはずの場所の天井には大きな繭があって、その中にヴァイスは捕らわれていた」
「捕らわれていたというと、その……蜘蛛の巣にかかった虫のような?」
「だいたいそんな感じで間違いないです」
「お手数ですが、絵を描いてもらっても?その方がお互いに分かりやすいでしょう」
用紙を一枚受け取って、エボニーは筆を走らせる。羽ペンであるために修正が簡単にできないので、なるべく簡単に、それでいて分かりやすいように書く必要があった。
とはいってもそれほど難しい形をしているわけでもない。天井に張り付いている楕円形の繭なんて、絵にしてしまえばただの丸だ。
「人一人が問題なく入るぐらいの大きさで、場所は丁度部屋の真ん中かな?」
「なるほど、ある程度想像はできました」
「で、そんな見慣れない繭があればモンスターかもって疑うし、とりあえず攻撃したんだけど、中からヴァイスが出てきてって感じで……」
「武器は何を?」
「その時は短弓を」
「クラテルでしたか、その時には今のお三方で、と聞いてますが、神殿にはお一人で?できればもうちょっと細部まで教えてもらえれば助かりますが」
「あぁ……、最初は神殿の中で時間を潰してて……──」
エボニーは自身が覚えている限りの話を行った。
鍛冶師のアノアに「夜の外套」を「ドーリーに誓って悪用はしない」と言った手前、話している途中で悪い気はしたものの、本来の目的はあの時と何も変わっていない。神殿でヴァイスに会う。それだけであればここまで大事にもならなかっただろうし、エボニーの予想外の出来事が起きているのは確かだ。
話し終えてしまえば、相手が客観的に判断をしてくれる。後は待つだけだ。
◇
「大まかには分かりました」とエボニーの話した内容をまとめた二人がペンを置いたのは昼前だった。
そろそろエグバートの使者がやってきてもよさそうな時間であるが、まずは国がどう判断するか、二人の決定を聞くべく、エボニーは少しだけ身を乗り出した。
「まず、教会に潜伏したことは大きな問題です。そして、警邏にあたっていた冒険者への攻撃。直接的な怪我を負わせたわけではないので罪としては大きくありませんが、罪は罪です。次に本来立ち入りが許されていない地下墓地への侵入。これは教会への潜伏と合わせて考えることになります。現時点で、国としてはそれなりの金額を請求することが出来ます。国への手数料と教会、冒険者ギルドに支払われる分ですね」
「えっ、お金だけで解決できるのか」
「今お伝えした分はそうですね。星の民は狩猟の腕がたしかであり、純粋な労働力としても期待ができますから、そういった働きで返していただくこともできますよ。これは国としての判断ですから、教会の判断とはまた別です。別件で何かを問われる可能性があることをお忘れなく」
国としてはどれだけ金額を吹っ掛けられようが、返済能力が伴っているのであれば問題ないということで、地獄の沙汰も金次第とはよく言ったものである。
「教会としての過失ですが、「杯と純潔のヴァイス」の拘束。何かしらの技術によって力を奪ったことになります。結果として星の民がこれを見つけ、救出に成功。ここまで間違いないですよね?ヴァイス様」
「ええ。あたしはもうほとんど力を持ってないわ。癪だけどね」
「何度も聞いて申し訳ありません。これも仕事でして……」
この場に居るヴァイスが本物であるのか、その証明はドーリーが行った。ドーリーが本物であるかどうかは、さすがに神の力を持っているので間違えるはずもないという判断である。
神パワーにより、見る者によって着衣や雰囲気をある程度変えられるという、エボニーが知らない情報が出たものの、そこは彼らもプロ。とてつもなく長い、間延びした声を出してはいたが、少し時間をおいて受け入れたようだった。
「で、「使命と剣の賛歌」のファハド……この場合は貴族ではなく冒険者として処理しますが、彼をいなし、クラテル前でドーリー様と合流。「夜の外套」を着た刺客たちに襲われ、これを兵士と共に撃退と」
「まぁ過失相殺しても教会を潰すぐらいは可能ですね。これだけ証拠があれば」
「そうですねー……神からの証言を疑うなんてもってのほかですし。決闘をするようですから、転ぶとすればそこでしょうか」
「それも勝てば問題ないんでしょう?はっきり言って余裕ね」
「それはそうなんですがね」
苦笑いをする法務官につられて護民官も苦笑いである。
「教会側からも一応話を聞かねばなりませんから」
現地に居た神に情報提供してもらっているのでほぼ間違いはないのだが、立場上どうしても相手側の意見も聞かねばならないのが仕事である。エボニーたちは人数も少ないので簡単だったが、教会側は雇っている冒険者たちからも話を聞かなければならい。これからの手間を考えると一日では終わらないだろう。
お互いに飲み物に口をつけて一息ついた時、エグバートからの使者がやってきた。
それは彼が貴族としてではなく、教会代表として戦うことを告げる内容だった。




