四十三、神の敵。
純白のスケイルメイルに身を包み、消費したアイテムを補充した彼は、収まらぬ胸騒ぎを覚えながら階段を降りていく。
まるで見知った建物であるかのように意気揚々と歩くヴァイスのどこから自信が溢れてくるのか。エボニーは全くもって分からなかったが、振り返って見たドーリーが何の心配もしていない様子だったために言葉を出すのも憚られた。
それに彼が何を言ったところで、ドーリーとは「貴方様が居るのですから」といったようなやり取りをするのを想像出来たのだ。
わざとらしく小気味よい足音を立てて降りる段差に合わせてヴァイスの腰元で揺れる提灯を見ながら、エボニーは(なんでそっちを選んだんだろ)と考えていた。
「杯と純潔のヴァイス」は「衛生兵」系統の神であるため、武器の選択は槍か提灯か、ということになる。
攻撃力だけで考えれば断然槍の方が強いため、彼女の性格からして槍を選ぶだろうと思っていたのだ。「一発殴っておかないと」みたいな発言のこともある。
それでいいなら、と彼は何も言わないが、神の怒りとやらがどれほどのものなのか、見てみたい気もしていた。
今のヴァイスからは神らしさを感じられないが、黙っていれば相応に見えなくもない。SSSで戦った彼女と、姿を重ねてしまっているのかもしれない。
そう考えるとBGMの効果は偉大である。お手軽威厳セットがあるのなら、間違いなく含まれているに違いない。
なんて考えながら、エボニーたちは自動で開かれるクラテルの扉から差し込む朝日に目を細めつつ外へ出た。
クラテルの前は普段であればちょっとした広場であり、そこにいくつかの大きな道が繋がっているようなつくりになっている。朝早い時間であってもある程度の人通りがあるのだが、今日は普段とは雰囲気が異なっていた。
「朝早くからご苦労なことね」
「いやまじかよ」
「なによ、ビビッてんの?」
「そうじゃないけど、さすがにこれは……」
物々しい、ではなく、完全に戦うことを前提に集められた集団がそこには居た。統一された防具を身につけている彼らもエボニーたちがクラテルから出てきたとこで緊張を感じているらしく、両者にひりついた空気が流れる。
装備に刻まれた紋章は教会と、いくつかの貴族たちの物であった。そういった情報をドーリーから教えてもらいつつ、エボニーは見知った顔を探すが、姿をぱっと見つけることは出来なかった。
(ラウラとかファハドとか居ると思ったけど見つからないな。まぁ、もう一度戦えと言われるのも面倒だけど)
ラウラ・デルソルとファハド、両者ともに最終職に就いており、相応にステータスも高い。貴族の中でも教会と関わりが深そうで、戦闘力も高い。昨日戦ったこともあって、この場には来ていると思った方がよさそうだった。
教会の騎士たちは十五人ほど。貴族の騎士たちも合わせると三十人ほどの集団である。後方まで見通すことはできない。
そんな時、「星の民」と、どうしたものかと困っているエボニーに声をかけたのはクラテルを護っている兵士だった。昨日の夜に共に戦った人物とは別人であったが、話の伝達はされているようだ。
「神殿の霊廟への侵入、墓荒らし。教会は好き放題に貴方様のよからぬ噂を広めています。ここに集まっているのは先走って貴方様を討とうとしている者たちですが、止めに来ている者が居ないということは……、つまりそういうことかと」
「行動が早すぎないか、昨日の今日だぞ」
「幸いなことに噂を言いふらしている者たちが現れてからあまり時間が経っていません。我々の別部隊が対応を始めていますし、教会にも昨夜の戦闘にてドラゴン種の外套を使っていた者たちについての抗議文を送るようになっています。ここで戦いを行うのはあまりよろしくないかと……」
国と教会が真正面からぶつかり合うような恰好に、エボニーは頭の中でヨセフ・ブラフナーを思い出す。これが彼にとって追い風になるか、ならないか。定かではないが、色々と苦労させてしまっているのだけは分かった。
「こんな雑魚と戦っても無意味なのは確かだし、とっとと本命に行きましょ。地位の高い奴なんてどうせ神殿の安全なところでぬくぬくとしてるに決まってんのよ」
「通してくれるかなぁ……」
「いざとなればドーリーが焼肉にしてくれるわ。そうよね?」
「弧は構いませんが、ヴァイス、焼くからには食べるのでしょうね」
「食べるのはこいつよ。あたしは遠慮しておくわ。あいつらの肉苦そうだし」
「俺も嫌に決まってるだろ」
彼らの軽口は神殿騎士たちにも聞こえていたが、それで反応しているのは貴族の騎士たちであり、今にも飛びかかってきそうな形相であった。エボニーも(そりゃ怒るよなぁ)と思いつつも、自力でどうにかできる気がしたため、あまり焦りは感じていなかった。
距離が開いている状況で近距離職と戦おうと言うのだ。ヴァイスとドーリーが居るのも心強かった。
実際のところ戦おう戦おうという気概があるだけで、武器を抜くまでには発展しておらず、ヴァイスも彼らを気にせずに進もうとしていた。ただ、それが彼らの怒りに触れたのだろう。いいや、決心がついたと言うべきだろうか。
先頭を歩いていたヴァイスの行く先を塞ぐように掲げられた剣を見て、エボニーは一つ息を吐いた。
最初に口を開いたのはヴァイスだ。
「これ、なんなのか分かってんの?戦っても勝てるわけないのにさ」
「神敵をこのまま通すわけにはいかない」
「神敵って、それマジで言ってるんだったら、あんたらここで殺してやるぞ」
ヴァイスの表情はあっという間に陰り、腰に吊るしていた提灯を手に取った。
仕方なく武器を構えたエボニーの行動を皮切りに、騎士たちも各々の武器を抜き放つ。
「先に武器を取ったのはそっちだってこと。しっかり覚えといてよね」
バックステップを一つ挟み、ヴァイスが提灯を掲げた。




