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四十二、星のリーンズ。

 視界が燃える。体が燃える。空気が燃える。感覚が燃える。世界が燃える。


 だが、心だけは冷静であった。


 まるで存在そのものが炎にでもなったのかと錯覚してしまいそうになるほど、獄炎は燃え盛っている。しかしてワルツはその中で強力な力場を生成することで、己から炎を引きはがした。

 彼を中心として球体状に広がる膜は、魔術で張っていたバリアにも似ていたが、強度も何もかもがそれとはけた違いだ。今の彼の手札は魔術だけではなく、神の肉体とリーンズの魔法が加わっている。対抗する手段はいくらでもあった。


 ワルツの耳は機能を止めて音を聞くことを拒んでいたが、自身の腕を一瞥すれば、今なお体が焼けているのが確認できた。そこで彼は鼻もいかれてしまったのだと理解して、杖を構える。

 神になるまでほとんど魔法の使い方を知らなかった彼だが、神となった今は違った。「神になるための魔法」を使うにあたって普通であれば知っている事前知識、経験を補うかのように、脳裏に知識が溢れ、肉体は熟練工のように当たり前に動くのだ。歪な知識しか持っていなかったワルツは、正解を理解しているパズルのピースを一つづつ嵌める感覚を抱いていた。


「ふっ…………!」


 息が吐けているのかも彼は分からなかったが、きっと熱いものだったに違いなく、僅かな呼吸と裏腹に、リーンズへと構えられた杖はお返しとばかりに光を放った。

 光の濁流の軌道はほとんど真っ直ぐであったものの、勢いそのまま気持ち悪くぐにゃりと地面にぶつかって跳ねた。横に長いスーパーボールでも見ているかのような攻撃をリーンズは避けようとするが、その巨躯が邪魔をする。


 空に飛び上がる前に光が当たってしまい、悲痛な叫びが辺り一帯に響いた。

 しかしてそれすらも、ワルツには聞こえていない。


 表情を変えずに次の魔法を放とうとしているワルツを見てリーンズは更に感情をたけらせるものの、このまま戦っても負けることも分かっていた。本来は魔法を主体とする戦い方をするため、魔法を殆ど奪われた彼が出来ることは多くない。

 地を裂き、空を駆けたとしても、彼の魔術師は何の障害もなく己の元までやってくる。考えるまでもない。自分が出来たことだ。相手が出来ない筈もない。


『他力本願で本心ではないが……』


 リーンズは言葉にしてから聞こえていないか、と全身に力を巡らせる。

 これから起こるのは魔法を失った今のリーンズが行える最後の策。神殺しを成すための存在を呼ぶものだ。


 ワルツから放たれる魔法の数々を無視するリーンズは止まらない。

 巨躯の中に秘められたエネルギーを全身に巡らせ、ぴっしりと生えそろっていた甲殻が突き出るようにバラバラに隆起し、大きく広げられた両翼はゆっくりと振動を始める。


『レゾナンティア・マリス・ステラ…………!』


 龍神は大きく震えて音を出しているはずなのに、誰の耳にも届くことはない。この世界ではない、どこか遠くの存在へ向けて、リーンズは音を奏でる。


 ──ワルツの杖が揺れるのをリーンズは理解していながら、もうどうすることもできない。

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