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四十一、悲願叶う日。

 ──高く、高く。ついに、男の悲願が叶う。

 天高く積まれた粘土板の数々は幾多の術式が刻まれ、古くからある神を超えるために淡く燐光を放っていた。

 拓かれた地に満ちる魔術式たちは星々の輝きと同様に、広域に拡がって河を作ろうとしていた。


 男の名はワルツ。

 未だ職業の加護が無く、彼が「夢と簒奪」の名を冠していなかった頃の話である。


 深く、力の操作に意識を裂いていたワルツはゆっくりと目を開き、何事かを呟いて立ち上がった。

 その瞬間に届くのは、大きな質量を伴った攻撃を防いで生じた爆音だった。ワルツが見上げる先、半球状のバリアの先にあるのは、人の何倍もある龍の鉤爪だ。


「魔法の大半を失ったにも関わらず、強大な存在だな」

『ヒトには過ぎたる力だ。返してもらおうか』

「神は神か。だが、そこに我々も加わるのだ」


 ワルツを追って現れた龍は「星と魔法のリーンズ」であり、リーンズの尾っぽが(したた)かにバリアを叩いた。割れることはなかったが、大きく揺れ、亀裂が入った。


「悠久を生き、自然の具現とも思える神とは何か。少なくとも、自然そのものではない。貴方がそうであるように」


 再びリーンズの攻撃が迫る。ワルツはついに割れてしまったバリアの残滓を眺めながら続けた。


「神とは絶対的な存在であるが、複数存在する。貴方やドーリーがいい例だな。だが、決して同じ種族ではない。神族とくくるには、あまりにも雑過ぎると思わないか」

『黙れっ!』


 ワルツが放った魔法がリーンズの鉤爪を盛大に弾き、勢いそのままに龍の巨体が倒れる。

 腹に響く龍の声と、目を開けているのも辛くなるような土埃。だが、それを気にもせずに彼はまっすぐ進んで行く。ヒトが持ち合わせた力で神になることは出来ない。それは彼がよく分かっている。永遠の命を手に入れる事も。世界を変えるだけの力を代償なしに使う事も。魔術・・では不可能だった。

 魔術でできるのは精々が結果に対して動こうとする力をサポートする程度であり、悠々と歩を進める彼の後ろで燐光を放つ粘土板の数々であった。


 自身の身長を余裕で超える一本の杖を構えるワルツが何故、神になりたがるのか。彼はこの場でリーンズに語ることはなかった。ワルツの話しは冗長であるように思えるものの、時間稼ぎであることを考えれば何ら問題はない。

 彼が神にしたいのは自分ではなく、自身の病弱な娘であるからだ。


 魔術を極めたと言っても過言ではないほどにワルツは習熟している。だが、それで病人が救えるわけがない。彼は職業も何も持たない、ヒトでしかないのだから。

 いくら力を持っていたとして、巨人や牛頭馬頭に何度も挑んで無傷で済むのは難しい。それが娘の病気を治すための薬の素材になるのだとしても、己が死ねば誰が娘の治療費を稼ぐのか。


 魔術の腕は上がっていくが、年々衰えていく体はどうすることもできない。

 だからこそ神になるのだ。神にするのだ。必死に足掻けば、手に入るうちに。


「──我々は、神になるのだ」


 ワルツが振るった杖は流れ星のように闇夜に筋を描き、背後で弱光の群れが一気に閃光を放つ。

 リーンズから奪った魔法が、彼が積み上げた魔術の粋が、願いを叶えるために光となって世界に広がっていく。

 地を這って連続して円状に広がっていく光輪。


(これで娘も……)


 ワルツは光の行方を目を細めて眺め、己の身の変化について思考を巡らせる。


 作り変えられていく体の感触は不思議なものであったが、それ以上に溢れてくる力が彼の心を凪いで、身構えていた四肢から力を抜かせるのだ。


「…………」


 今までに感じたことのない感情であった。きわめて冷静である、というよりも、冷静であることを強いられている、と言う方が正しいのだろうか。常に感情が更新されているのではと思うほどの力がそうさせているのかもしれない。


 今、杖を振るえば見える限りを攻撃できるのかもしれない。リーンズと戦っても勝てるのかもしれない。


 神の事は詳しく分からなかったが、神になる方法は分かっていた。

 いざ神になれば、たしかに相応しい力を持っているし、冴えわたる思考は何もかもをクリアしてくれている。


 しかして、戦おうなどと言う気持ちが一切湧いてこないのである。まるで戦意という機能を失ったかのように。


「……これは、どういうことだ」

『あぁ手遅れだ。あぁおしまいだ。神が、私から神が生まれてしまうとは』

「っ……!」


 慣れぬ感覚に呆然と問いかけたワルツに、リーンズの頭突きが勢いよく彼を吹き飛ばした。何とか防御の姿勢を取れたのは神故の反応速度によるものだった。


 ゆらりと立ち上がって立ちはだかるリーンズの影は、当たり前のことであるがヒトをベースとして神になったワルツよりも遥かに大きい。


 対格差は依然変わっておらず、力に関しても先ほど以上に身につけている。バリアを張って防いでいたリーンズの攻撃に、純粋な肉体の能力だけで対応することが出来ているのだ。

 現に、ごろごろと転がっていたワルツは立ち上がってダメージが殆どない事に気がついた。


 気づきとリーンズの追撃とはほとんど同時だった。

 夜空に輝く十字の(きら)めきが、ワルツの目の前で爆ぜる。


 エボニーが何度も死んで対応策を考えた大技が、新たな神に届く。

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