三十八、夜に立つ。
エボニー、ドーリーが堂々とクラテルの前に出ていったことでクラテル前の兵士が姿勢を正すのと同じにして、彼らは何者かが動いているのを感じとった。
「思っていたよりもヒトは夜に潜むのが好きなようで……」
目を細めるドーリーにエボニーは良くない予感を覚えて、抱えていたヴァイスを押し付けた。両手はふさがったが、それでも彼女がその気になれば攻撃を繰り出すことができるのを彼は知っているものの、「活躍次第で」という言質はすでに取ってある。こうしておけば少しくらいは落ち着いてくれるだろうという考えがあった。
突然短弓を構えたエボニーに兵士二人は驚きながらも武器を構えたが、彼が狙っているのはまた別の人物である。視界を確保するために四方に放り投げた「魔光石」が照らし出すのは、「夜の外套」に身を包んだ男たちだった。
(西洋剣と騎兵銃が二人ずつ。にしても「夜の外套」はドラゴン装備だぞ、教えはどうなってるんだ)
「夜の外套」に余程の自信があったのだろう。謎の人物四人はお互いを確認し、瞬時に状況を把握した。しかして、その頃には兵士も事情が分からないなりに戦闘態勢に入っており、エボニーとドーリーの近くまで走ってきていた。
「どういうことですか」と油断なく相手を睨む兵士に、エボニーは答える。
「あーっと、教会と戦うことになった。とりあえずはそれだけで」
「分かりました。では、一先ず自分の意思で判断をすることにしましょう」
「ははは、星の民と共闘とはまさに夢のようです」
「巻き込んで申し訳ない」
「構いませんとも。それにあれは……ドラゴン素材の装備でしょう?ならば理由は十分です」
「そもそも現状だけでも我々の判断は変わりませんよ」
夜だと言うのに快活に笑う二人の兵士はドーリーの腕の中で眠るヴァイスをしっかりと見ていて、ある程度、自分の中で推測を立てているようだった。
だが、その判断は星の民を信頼するという前提があるような気がして、彼は強く武器を握った。悪いことをしているという自覚があるだけに、彼らの信頼が心に刺さったのである。
「ふふ」とヴァイスを抱えながら口元を隠して笑うドーリーがどう思っているのか。考えずとも感じ取れそうなものであるが、彼女は静かに喜んでいたのである。
戦いへ。死へと立ち向かう彼の背中は戦士のそれに間違いなく、ドーリーにとって好ましいものだったからだ。
(お手並み拝見といきましょうか)と彼女が思うと同時に、戦闘開始を告げるスキル詠唱が耳に届いた。
「「召喚:クロウ/黒駒」」
武器種から「騎兵」の召喚スキルを使うことは分かっていたエボニーの動きは早く、自らがよく使うスキルであるからこそ欠点もよく知っている。
この場合、スキル使用者を殴っても意味は無い。攻撃すべきは地面で輝く召喚陣だ。
一気に走り出したエボニーに続くように兵士の一人が駆け、もう一人はドーリーの前へと着いた。だがエボニーもドーリーも、共闘者をかえりみることはない。
「スリーギフト!」
エボニーの唱えた三連速射のスキルは一射目、二射目と召喚陣を居抜き、最後の三射目は一番距離の近かった相手の武器とかち合って不協和音を出した。それは「属性付与」の乗ったスキル攻撃とまともに打ち合えたかに思えたが、このスキルはただの三連射ではない。
着弾から少し遅れて起こるのは人の半身ほどの爆発であり、召喚陣は砕け、刺客の武器を大きく弾き飛ばしたのだ。
ゲームであればプレイヤーが戦闘中に武器を手放すなんて有り得なかったが、生身となればそうはいかない。爆発の瞬間に咄嗟に距離を取ったようでダメージは少ないものの、スキルでの防御や回避を考えなくてよくなったのは大きかった。
SSSでのスキルは主に二種類。常にプレイヤーに効果をもたらすパッシブスキルと、発声することで効果を発揮するアクティブスキルである。
アクティブスキルは武器を構えている事を前提としたスキルであり、一部の例外を除いて、無手で発動出来るものでは無い。
力が「職業」に縛られているこの世界であるからこそ、武器を手放すことは大きな意味を持つ。
そしてスキルの使用で一度足を止めたエボニーに追いついた兵士と、エボニーのスキルの標的にならなかった刺客との戦闘が始まった。
武器はお互いに西洋剣であり、職業は「勲騎士」だ。
「「サザンクロス!!」」
二人のスキル詠唱が重なる。「勲騎士」が覚えるスキル群の中で一番火力が出て、隙が少なく、最終職の条件にもその名前が出てくる十字の太刀筋は、一撃目で鍔迫り合いを起こした。
実力はほぼ互角だろうか。耳障りな音を立て拮抗した両者の剣は、エボニーの加勢で形勢を変えた。
兵士と刺客とを一直線上におかないように移動した彼が放つ魔力の矢は、刺客の「夜の外套」を簡単に貫いてみせた。
大きく体勢を崩した勢いのままに兵士のスキルに押され、追撃として蹴りをもくらって地面に倒れたのを戦闘不能と見なしたエボニーは、騎兵銃を持った「竜騎兵」二人へと一旦目を向け、隠し持っていた小振りの西洋剣を持って外套の能力を使って近づいて来ていたもう一人の「勲騎士」へとスキルを使った。
「ベリアル」と呟き、見事に動きを封じられた「勲騎士」の手の中から優しく西洋剣を抜き取り、彼は口を開いた。
「第三者が見てるのに「夜の外套」が使えるわけないだろ。さて、ジョブチェンジだ」
武器種は弓から西洋剣へ。職業は「勲騎士」から就ける最終職「星翠戒」へと変わる。




