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三十、それぞれの神。

 エボニーはアノアの反応を見て、外套が持つ力が本物であると確信できた。そして、その恐ろしさも同時に察したのである。


「……どう使うのはあえて聞かないでおこう。「夜の外套」だな、これは」

「よく分かったな」

「当然だ」


 外套の名前は「夜の外套」。防具効果は「フィールドが明方、夕方、夜の間、非戦闘状態が維持される」というものであり、主に採取クエストで採用されることが多い防具である。大型、小型モンスターを問わずに効力を発揮するし、SSSの公式生放送で語られた内容がこの世界でも通用するのであれば、闇の中で彼を見つけるのは難しいだろう。


(非戦闘フィードでのプレイヤーの状態は「待機状態」。だけど「夜の外套」を装備していれば相手の目の前に飛び出るとかしないかぎり「非戦闘状態」になる。小型モンスターに見つからないのなら、人にだって見つかる道理はない)


 使い手によっては最悪の状況を引き起こすことが出来るが、今回の目的はあくまでも神に会う事である。

「ドーリーに誓って悪用はしないさ」エボニーはしっかりとその旨をアノアに伝えて、外套を纏ってみた。


「……っと、どうだ?」

「ワシが見てる前でやっても意味がないだろう」

「そりゃそうか。ちょっと目瞑ってもらっていい?」


「ああ」と静かにアノアが目を閉じたのを確認したエボニーは、彼の正面から真横へと素早く移動した。

 アノアの弟子は一部始終を見ていたのでエボニーの位置を把握しているが、はたしてこれでアノアがエボニーを見つける事が出来るかどうか。


 彼は「あけるぞ」と前置きしてから目を開いた。

 アノアは眼前からエボニーが消えていたので一瞬驚いた表情を見せたが、首を振ることで簡単にエボニーを見つけたのだった。


「そこじゃろう。というか、普通に見えておるわ」


「あれ」と思うものの現在時刻は昼頃であり、そもそもとして外套が効果を発揮するような時刻ではない。


「変なとこで抜けとるな。ワシらも昼にしようか。ついでだ、一緒に食ってくといい」

「それは助かるよ、ありがとう」

「気にせんでいい。それと外套だが、間違いなく望み通りの力を持っているだろうさ。見ただけで分かる」

「流石だな」


 エボニーは外套の留め具を外して、アイテムポーチを止めているベルトの隙間へと挟み込んだ。

 SSSでは「夜の外套」は一つで胴装備として設定されているが、ここでは良くも悪くも特別な外套でしかない。下に防具を着用できるというのは大きな強みであった。

 とは言っても、外套を着ている間は下に着用している防具効果が発揮されないのはエボニーも確認済みである。使い時は見極めなければならなかった。


 火事場を出て三人が向かったのは先日も彼らが会話を交わした部屋であり、アノアの弟子は入ってきた扉とは別の扉を開けて出て行った。何かしら作業をしているような音だけが、小気味よくエボニーらの耳に届く。

 彼が料理をしているのはすぐに分かった。異世界でも弟子が身の回りの世話をするものなのだろうかと、興味深そうに音のする方へと顔を向けるエボニーにアノアは何を思ったのか、「心配せんでも、不味くはないぞ」と語った。


「あぁいや、興味があるだけで味は別に心配してない」

「なんだ、料理はしないのか」

「できなくはないよ」

「なんでもそうだが、時間を置けば鈍るものだ。ワシより生きているあんたに言うのもなんだがな」


 含蓄のある彼の言葉に、エボニーはしみじみとした雰囲気を出すことしかできない。歳を誤魔化すのに申し訳のなさを感じているのだ。だが、アノアの言葉はエボニー自身も思い当たる部分もある。

 それは連休明けの仕事であったりとスケールは小さめだが、今は頷いておくのが重要であった。


 そこでエボニーは思い出したようにアノアへと口を開いた。話題は、防具についてである。


「ドラゴン種の武器防具は一目で分かるものなのか?俺なんかは素材見れば分かるけど、そういうのではなく……何て言うんだろ、雰囲気?」

「雰囲気。まぁ間違いではないな。皆、恐れているのだ」

「恐れてるってそんな、素材になっても怖いものか?」

「人間とドラゴンとの戦いは星の民が現れる以前から歴史も長いが、種族としての優劣が根底にあるのさ」

「ふーん、そんなもんか」

「所詮はいちドワーフと星の民でしかない我らには分からないのだ」


 アノアはエボニーを指さす。


「ドラゴンを討つ者としてある星の民」


 次に、己を指した。


「杯を造り、純潔を守る武具を造るドワーフ」


 指を一つ曲げ、裏手で節と床とを叩き合わせるように往復させる眼前のドワーフの話しは続く。

 黙って話しを聞くエボニーの脳裏に浮かぶのは、SSSでの設定であった。


「炎の様に生き、旅路を往く人間とは、似ているようでまた違うのだからな」


「夢と簒奪のワルツ」を除く四柱の神は、それぞれがこの世界に生きる種族に対応している。

 アノアが言ったように「炎と旅路のドーリー」が人間であれば、「杯と純潔のヴァイス」はドワーフであり、「星と魔法のリーンズ」はドラゴンだ。

 数ある種族に優劣があるのは、エボニーも理解している。ただ急に出てきた話に、少しばかり整理がついていないだけなのだ。落ち着いて考えれば、SSSでのストーリーを思い起こせば、この手にいくらかは乗れるのだ。


 彼の頭の中にあるのは、お前さんとこの神に「夜の外套」を使って会いに行くから防具見てくれない?と言っているのと同義の行動を、どう説明するかという事である。

 冗談でもドーリーに誓ってしまったせいで何とも言えないのも、また辛いところであった。


「小難しい話をしてわるかったな」とアノアが言ってくれたことでどうにか逃げ道を見つけられたものの、今回の一件は、エボニーに勉強のし直しを決めさせるのだった。

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