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二十三、牛頭馬頭のその次。

 エルフもダークエルフも。一部モンスターをも含めて、人の形をしているものは、全て人間をベースに作られている。メインストーリーでもその事は触れられ、物語の全ての始まりと言っても過言ではないほどの重要事項であった。


 故に秘匿され、知らないのだろうか。そうエボニーは考えてみるものの、空白の二十年がある彼に答えなんて分かるはずもない。


 今はただ、モンスターを軽く見ているような節のあるズーハンをひたすらに無視し、馬を走らせることしかできなかった。


 冒険者の序列をエボニーを除いて考えた時、ズーハンと彼女の所属しているクランは上から二番目にある。つまりは「使命と剣の賛歌」の一つ下であり、五番目に位置しているルイーズたちより格上の存在になる。


 モンスターの恐ろしさを理解しているはずだが、彼からすればどこかモンスターを下に見ている気がしたのだ。


 職業が全ての人間に振り分けられた、というのも一つの影響なのだろう。だが一番は、SSSで存在していた一等星クエストの殆どが受けられないからではないか、と彼は思い至った。教会がドラゴン種を狩るのを禁じている影響で、一等星のクエストの数は少ない。


 しかして、ギルドが定める規定さえクリアしてしまえば、一等星の冒険者になることが出来る。定員なんて区切りがあるわでもないのだ。大きいクランに所属していれば、周囲が手伝ってくれることもあるだろう。

 大人数で戦えば戦うほどに、戦闘は楽になっていく。ゲームのように、モンスターの体力調整が入ることなんてないのだ。

 安全に狩るのであればそれでもいいのだが、果たして、それが自らの実力になっているかどうかは怪しいところだった。


 ゴールドバレーへと戻ってきたエボニーはキリを帰還させ、ハンターギルドへと走った。


 彼からすれば人々の通行の邪魔にならない程度の速度でも、その後ろにズーハンの姿はない。彼女はエボニーの速度に着いて行けず、早々にリタイアして後ろの方でわめいていたのだった。

 そんなことなどつゆ知らず、エボニーは颯爽とギルドへと続く垂れ幕を潜って受付へと進んで行く。

 彼が牛頭馬頭のクエストに出発してから四時間ほどが経った頃だった。


 ギルドの中は相も変わらず冒険者たちが立てる音に満ちていて、ハンターギルドの空気感を好ましいものにしている。賛歌所属のファハドとの会話もあり、他の冒険者から攻撃的な視線を向けられることもない。誰の邪魔も入ることはなく、彼はいつも通りの笑顔を浮かべているジュリアへと声をかけた。


「急用なんだけど、大丈夫?」

「ええ、構いませんよ。今回はどうされました?」


「これなんだけど」そう言ってエボニーはアイテムポーチから一通の手紙を差し出した。ハンターギルドの印が入ったそれは無事に彼女の手に渡り、彼へと束の間の休息の時間を与えたのだ。

 一方のジュリアは手紙の重要性をよく理解しており、眠気と戦っていた頭を働かせて手紙を開いた。


「ここのベースキャンプは……結構上にある場所ですね」

「俺がただ見かけただけだから、変に騒がないでもらえると助かるんだけど」

「ええ、もちろんです。ギルドマスターにも確認していただく必要がありますし、調査隊の編成も必要ですね。それから近隣の村への注意喚起に、物資の確保……」

「人が必要ならズーハンって冒険者使ってやってくれ。変に張り切ってるから」

「彼女も一等星の冒険者ですが、いつの間にお知り合いに……?」

「牛頭馬頭倒してキャンプに戻ったら居たんだよ」


 災難とも何とも言わずとも、ジュリアの表情から何かを読み取ったエボニーは自然と苦笑いを浮かべてしまう。彼はこれから忙しくなるだろう彼女に対して牛頭馬頭の精算をしてもらうのをためらっていたが、ジュリアの後ろから目ざとく彼の様子を見ていた別の受付嬢が声をかけた。


 ポニーテールを揺らす彼女は身長が低く、一見すれば少女がバイトでもしているかのように見えた。


「ジュリア先輩、クエストの対応しておきましょうか」

「あー……それなら、これをギルドマスターの所までお願いできるかな。エボニー様は私が対応するようになってるから」

「そうだったんですね、分かりました。それならギルドマスターのところに行ってきますね」


 落ち着いた声ではあるが、彼女の語気は楽しそうに感じられた。だが、エボニーは彼女に対してあまりいい印象を受けることはなかった。

 ルイーズであったり、ズーハンであったり。ああいった女性に振り回されることが多いからであろうか。


「専属だったんですね」とエボニーが言えば、ジュリアは軽く笑いながら「実は……」と呟いた。


「エボニーさんは星の民ですから、一応は年長である私が全てを対応するように、と」

「しばらくは通うと思うんで、またお願いします」

「あ、いえいえ。こちらこそよろしくお願いします。それで、牛頭馬頭の報告でしたね」


 クエストの依頼書を準備し始めたジュリアを見て、エボニーも牛頭馬頭の狩猟証明部位を取り出した。

 今回の依頼書の内容だと狩猟証明部位の他にもいくつか必要そうなものがあり、念のために、とバラして持ち帰っている。それらは僅かに血の滲んでいる袋であったり、角や蹄、血の入った瓶などだ。


 カウンターに並んで行くのを見ると、まるでマッドサイエンティストの実験材料のようにも見えてきてしまうが、ジュリアは何も言わずに一つ一つを丁寧に調べ始めた。


「依頼書に血が必要みたいなことが書いてあったから色々と取ってきたけど、もう少し綺麗にしておけばよかったな」


 思わず、エボニーの口から言葉が漏れる。彼自身、自分が気にならない程度には綺麗してきたつもりではあったが、落ち着いて見てみるとどうしても雑な部分が目立ってしまう。


 血抜きの知識がないものだから仕方のない部分もあるのだろうが、冒険者稼業を仕事として考えている彼としては、雑な仕事をしたように感じていた。


「大丈夫ですよ」と、彼女は笑って見せたが、そこには「仕事ですから」という枕言葉があったような気がした。

 血の入った小瓶を小さな光源に透かしながらジュリアは目を細めた。エボニーは何を確認しているのか分からないものの、魔力か何かで確認しているのだろう。


 視線を上げていたジュリアは目ざとくエボニーの鎧が凹んでいるのに気が付いたのか、持ち上げていた小瓶を下ろした。


「それよりも、肩、大丈夫ですか?凹んでいるみたいですけれど……」

「かすり傷みたいなもんですよ」

「お大事になさってくださいね」

「ありがとうございます」


 簡単な会話だったのですぐに終わり、エボニーは自らの右腕を抑えて、凹んでいる部分に指を這わせた。ピュアホワイトのよりも劣るとはいえ、最終強化まで行っているのもあり、愛着もある。

 裏から叩いて直るのならそれでいいが、そんな簡単に直っていいものかと思ってしまう彼もいた。


 それから少しばかりして確認が終わったのだろう、彼女は依頼書に判子をしてからエボニーへと向き直った。


「はい、すみません。お待たせしました。「混ざり血の牛人」「混ざり血の馬人」の同時狩猟、無事達成です。合わせて、こちらが前回の「針葉の巨人」狩猟の報酬になります。結構な額、色付けしてくれているみたいですよ」


 手渡された袋の見た目以上にそれは重たく彼の手のひらにかかった。ここに来てから受けてきたクエストの報酬を集めても、「針葉の巨人」の報酬には遠く及ばないほどだった。金持ちは居るところには居るもんだな、と彼は思いながら袋をアイテムポーチへと仕舞い込んだ。


「牛頭馬頭もまた後日取りにくればいいですかね」

「いえ、今回は依頼主の方から先にお渡しするように言い使ってますから……はい、こちらですね」

「これはまた……結構な。これだけあればしばらく働かなくてもいいかな」


 続けて出されたのは「針葉の巨人」の報酬が霞んで見えるほどの大きな袋で、サンタクロースが小脇に抱えそうなほどの大きさだった。さすがにこれは持って帰れないのでギルドに預けることとなり、カウンターの裏に消えていく袋をエボニーは眺めていた。ふと、どうやってあの量を一瞬で準備したのか疑問に思ってしまったのだ。


 それはさておき、彼はぱっと見の金額でだけで働かなくてもいいとは言ったものの、いよいよ明日からは五柱の神に会いに行く予定である。休む暇など無く、むしろこれからが本番と言っても過言ではない。

 ジュリアからは明日以降のクエストをどうするか聞かれたが、エボニーはやんわりと断ってハンターギルドの外に出た。ギルドの外の空気は少しばかり肌寒く、雲は街の彼方に重くかかっていた。

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