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十五、突撃、隣の単眼さん。

 ジュリアがエボニーの後始末に追われている頃、彼は西洋剣を持ってモンスターと対峙していた。

 検証のために戦う二体目を前にエボニーの心は凪いで、体を慣らしながら戦う。職業によって武器は制限がかかるものの、防具は基本的に全部の職業で扱う事ができる。

 今彼が纏っている防具はピュアホワイトの鎧より格の落ちる防具ではあるものの、総合的な強さを見ればあまり変わりはなかった。


 SSSでプレイヤーの強さを測る要素は三つに分かれている。それは武具、職業、レベルになる。

 武器が強くなれば狩る速度は早くなり、防具が強くなれば受けるダメージも減る。職業を伸ばしていけば新しいスキルや戦い方も見えてくる。そしてレベルを上げれば、純粋にステータスが上がる。


 目には見えない、所謂隠しステータスではあるが、体感できるほどにその差は大きい。そしてこの世界において、ジョブチェンジというシステムが完全に排除されたのなら、エボニーに身体能力で勝る者はいないだろう。


 レベルは職業毎に分けて設定されているため、一つの系統──三職しか極められない人間と、五つの系統+分岐を含めた二十五職を極めたエボニーとではとても勝負にならないのである。


「ふっ!」と、エボニーの振るう剣がモンスターの額を切り裂く。今のところ、ジョブチェンジは問題なく行えているし、スキルの発動も問題なくできていた。クラスが「騎兵」系から変わったことでキリとの繋がりは切れた感触があったものの、キリが戦いに参加しないだけで特に問題もなかった。


「騎兵」系の職業追加と共にプレイヤーたちに贈られた、馬を召喚するアイテムを使用しているような感覚に近く、馬は移動にしか使う事ができない。騎兵系の移動速度に着いて行きつつも、戦闘になると「騎兵」系の強さを潰さない。そういった状態になっているのだろうと、エボニーは検討をつけていた。


「お前が消えたら荷物はどこに行くんだろうな……」


 一狩り終わってキリの頭を撫でたエボニーは西洋剣をキリの背に仕舞い込み、続けて短弓を取り出した。クラスチェンジの検証も次で三回目。「歩兵」系二種を終え、「弓兵」系に移った。元の世界で弓なんて使ったことのないエボニーは立ち木に向かって数度試し打ちを行ってから、勢いよくキリに跨った。


「弓兵」系の職業は周回性能が高く、立ち回りとしては騎兵銃とも似ている部分が多い。彼は一つ弦を弾いて駆け出した。


深きに眠る豚の王オークキング」「大鳥の翁にわとり」の二頭はすでに狩猟を済ませているため、彼が向かうのは最後の一頭、「単眼の巨匠サイクロプス」の住処である。


 巨匠の名の通りサイクロプスは体躯が大きく、手先が器用で大きな住処を作っている。人間らしい装飾こそありはしないものの、丁寧に作られたそれらは破壊可能オブジェクトとして設定されている事が多い。


 今回エボニーが見つけたのは破壊可能なものの一つであり、木を加工して組み合わせたログハウス風の住処であった。ログハウスと言っても、とても人間が住めるものではなさそうだ。


 サイクロプスに合わせて作られているのだから当たり前なのだが、壊せると分かっていれば、人の物であろうとモンスターの物であろうと、そこに大きな差はない。


 エボニーはサイクロプスがログハウスの中に居るのを確認し、設置型のスキルを発動して一本の矢を取り出した。それは騎兵銃でもお世話になった属性弾の矢バージョンである属性矢であり、「針葉の巨人」と同じく、火属性が込められたものだ。


(SSSなら一発で簡単に壊れたけどどうかな)


 弦を引き絞り、エボニーは矢を放つ。それは騎兵銃での攻撃ほど早いものではなかったが、それでもサイクロプスの住処の壁を貫通するのに問題はなかった。


 半ばまで突き刺さった矢に驚いたのだろう。ログハウスの中ではサイクロプスが暴れているのか、どったんばったんと大きな音が鳴り響く。

 その様子を眺めながら首を傾げるエボニーは、突き立った矢を見て一人で納得したように呟いた。


「あー、属性弾と同じようには使えないんだな」


 属性弾は着弾と共に込められた属性が暴れるように解放されていたが、属性矢は突き刺さった部分とその周囲の木材だけが焼け焦げていた。解放のされ方が違うのは一目瞭然であり、ピンポイントで攻撃を行うのなら属性矢の方が良いように思えた。


 エボニーがのんびりともう一矢を番えたところでサイクロプスは姿を表したが、サイクロプスの弱点なんて分かりきったもので、威嚇をしている最中に一つしかない大きな瞳に属性矢を受け、なすすべもなく沈黙するのだった。

 サイクロプスが地面に倒れる振動もどこか虚しく、むしろ申し訳ない気もし始めていた。


「こんな楽でいいのかなぁ……」とエボニーはボヤきつつ、周囲を確認して狩猟証明部位の切り取りに向かう。


(まぁそりゃ脳内まで攻撃が届いてれば即死するのは分かるけど、これじゃあ近接武器持つ意味ないんじゃないか。……俺だって体力ゲージなんて便利なものがあるわけじゃないから、普通に骨折もするんだろうな。それならやっぱり、初めて狩りをするってなった時に近接武器なんて持たないよなぁ。設置型のスキルまで誘導しなくても終わるってどうよ)


 彼の中でもう一人の自分が遠距離職最強と叫び始めているものの、その感情を素直に表に出せないのには理由があった。それは、ゴールドバレーで剣士系の職業が一番だと思われている、もしくはそういう風に宣伝されているからだ。貴族が動いているのは間違いがないだろうが、いざ自分でモンスターを狩るとなった時、足が竦まないだろうか、と彼は思う。


 VRゲームは従来の据え置きゲームとは違って、よりリアルに世界を体験してゲームを進めて行くことになるが、それを楽しめるのはゲームであると理解しているからであり、痛くもなければ死にもしないからだ。

 果たして、何の土台もない人間が冷静にモンスターの攻撃を避けて攻撃できるだろうか。


 疑問は違和感となってエボニーの心の片隅に居座っていた。


 そんな疑問を流し去るように、エボニーとキリは風を切ってベースキャンプに向かう。ベースキャンプは狩場の中継地点となり、物資の補給や休憩をする事が出来る。SSSだと一つのマップに三つほど設置されていたが、マップという区切りが無い現状だともう少し設置されているようだった。


 ギルド職員が各キャンプに一人は居るらしく、彼が足を運んだ先にも職員が常駐していた。エボニーが立てた物音に気が付いたのだろう。大きな天幕の中で人の影が動いた。


「いらっしゃい、まぁゆっくりしていきなよ」そう言ってキャンプに招き入れてくれたのはまだ若い男で、腰には刀をさしていた。刀を使うのは歩兵から分岐する「武芸者」であり、ルイーズと同じ職業になる。


「ベースキャンプを使うのは久しぶりなんだ」

「なら尚更さ」


 エボニーの声に男は笑って答えた。彼は一つ一つを指さして、丁寧に説明を始める。


「一通りの使い方は分かるだろ?仮眠用の布団と食事。食事は有料だが、味は保証するよ。それから買取りボックス。僕の目での査定になるし、換金だって限度があるけど荷物を減らしたいなら役に立てると思う」

「そっか、ありがとう。今日は様子を見せに来ただけだから、特に用事とかはないんだ」

「なるほどね。とりあえずギルドカードの提示だけいいかな。一応規則でね。……っと、これが僕のギルド職員証明書」

「いいや、確認はいいよ。信頼できる受付嬢に教えてもらったから、そこは信頼してる。はい、ギルドカード」


 男の提示した証明書は何やら几帳面な文字でつづられ、蜜蝋が何個も押されていて、エボニーはとても見る気が起きなかった。ジュリアに教えられてもらったのもあり、疑う必要もないかと思った彼は、手早く自身のギルドカードを取り出して男に差し出した。


 何の気なしにカードを受け取ったのだろう彼は「ほーん」だなんて間の抜けた返事をしていたが、それが一等星のものであると分かると、あたふたとしてスープをお椀によそい始めた。


「一等星の方だったんですね。一等星冒険者には別にお金とか貰ってないから、言ってもらえればよかったのに」

「別に気にしなくてもいいよ。一等星なんて珍しくもない」

「いやいやいや、いいからもらってください。後で上から言われるんですよ」

「まぁそういうことなら」


 男から手渡されたお椀の中に入ったスープには大きめに切られた野菜と、小さく切られたベーコンが入っていた。スープはコンソメ風味で、エボニーの胃に優しく届く。野菜は大きめではあるものの、よく煮込まれているのか、すぐに口の中で解けた。


「これ自分で作ってるのか?」

「ええ、まあ。決められた時間まで一人ですから。今日はクエストでここまで来られたんですか?」

「それもあるけど、明日、牛頭馬頭のクエスト受けようと思ってるんだ」

「あーなるほど。それなら、ここが一番近いベースキャンプですか」

「そうなんだよ。それで……」


 エボニーと男との会話は長く続いた。周辺の地理や、危険な場所。どんなモンスターが出てくるのか。エボニーは多くのことを聞き、男はそれにすらすらと答えた。冒険者よりもギルド職員の方が冒険者に向いているのではないか、とエボニーは思ったが、楽しい会話に水を差すような気がして、それを言葉にすることはなかった。

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