十四、不足は驕りか。
「間違いなく彼は一人ですよ」ジュリアは呟いた。ルイーズのパーティーと交友はあるものの、一緒に狩りをしている様子ではなかった。あれは手伝いだとか、荷物持ちだとか。そういった表現の方が正しい。
だが、そんなことを言ったってムスッとした彼は納得してはくれない。
「いや……」
ファハドは納得出来ないようだったが、話が進まないと思ったのか、一旦飲み込んで「それなら」と続ける。
「ギルドから何かできないのか。このままだと体裁が悪い」
「素直な謝罪と蘇生費を払えば解決するかと思いますが。ごねるよりはいいでしょう」
「相手は一等星だろう?たった一人の一等星にそれでは……」
「譲れませんよ」
「それはギルド全体の判断ということでいいのか?」
きた、とジュリアは表情を崩さずに生唾を飲み込んだ。エボニーが預けていた金銭についてギルドマスターに確認した時から、彼女は星の民関連の,
ある程度の裁量権をもらっている。今頃根回しで忙しいだろうギルドマスターの代わりではあるものの、両者の考え方は一致していた。
──星の民が一方的に悪い場合を除き、何があっても星の民を守る。
「そうですね……、これはギルドの判断です」
これが星の民と共に大きくなったハンターギルドの意思だ。胸に手を当て、ジュリアは答えた。
その答えを聞いたファハドは大きなため息をつく。先の脅しは本気ではなかったようだ。やれやれと腕を振る彼は、どうしても冒険者にはなりきれない。だからこそ、話が分かる。
「へいへい、わかった、わかった。菓子折り持って行くとするよ」
「申し訳ないですが、よろしくお願いします」
「ギルドが俺たちのクランよりも優先する個人なんてどんな人物なのやら」
「…………」
「おいおい、そんなに睨まないでくれよ」
ジュリアから見て、ファハドはふざけているようにも、脅しているようにも見えた。そのどちらもが本気ではないのは彼女も分かっているものの、対応しないわけにもいかないのが貴族である。
「一つ言わせていただくと……彼はこのギルドで一番強いですから、穏便に済ませていただければと思います」
「三対一で勝てるんだから強いんだろうがな。最終職にはどうしたって勝てないぜ」
「……」
「ははっ、拗ねるなよ。自慢の冒険者なんだろうが、今は狩りだけが全てじゃない」
彼女の沈黙をファハドは違う意味で受け取ったようだった。彼女が黙っていたのはエボニーが最終職であるのを理解しているからであり、最終職に到達しているのが一つではないのを察しているからであった。実際のところは全ての職業を埋めているのだが、それを知っている者は多くない。
「星の民が消えてから冒険者の数は増えた。冒険者は技術じゃなく量で戦うし、人間関係だって大事になってくる。どうせなら、その自慢の冒険者君に教えてやるんだな。「使命と剣の賛歌」ってクランがあるぞってな」
そう言ってファハドはクランメンバーの元へと去っていく。その背中を見つめつつ、ジュリアは張り詰めていた四肢から力を抜いた。
彼女の「だから貴方達は星の民になれないのですよ……」だなんて言葉は宙に消えていった。ファハドの言う事は全てがエボニーの逆であり、そこが明確な差になっているのではないだろうかと、彼女は思うのだった。
そうして始まった事情聴取は、案外簡単に進んでいく。「使命と剣の賛歌」が目撃者を引き止めていたというのもあり、走り回るという事態は避けられていた。情報が揃ってきて分かるのは、やはりエボニーに非はないということだ。
「自分の馬がギルド前で襲われるなんて思いませんよね……」
ジュリアは手にしたメモ帳を見ながら呟くが、これはエボニーが甘いというだけであり、彼女の思い違いであった。
彼女からすればエボニーは星の民であり、そこに本物も偽物もない。ギルドで活躍した彼が……なんて考えるのは仕方がないものの、エボニーからすればそれは勘違いでしかない。
いくつもの武器を使いまわしながら、憂さ晴らししているエボニーが大きなくしゃみをしているだなんて知りもしない彼女は、自らの星の民像を膨らませながらゆっくりといつも通りの業務へと戻っていくのだった。




