百三十七、めでたし。
『さて、ここに五柱の神の力と、星の民とが揃った』
「龍の台地」に残された龍神と星の民は静かに対峙する。
『望むならすぐにでも帰れるぞ』
「そうか……そうだな……」
悲願を前にして何を躊躇することがあるのか。エボニーは己の心にそう問いつつも、首から下げた灰袋に手を添えて目をつむった。
終わってしまう。
この夢のような、SSSと酷似した世界から出ていかなければならない。
それは一度感じたことのある感覚と似ていて、その時と同じように、彼は地面に身体を預けて空を仰ぎ見た。背中に当たる石の感触が心地良かった。
けれど、いつまでもそうしているわけにはいかない。SSSの終了を受け入れたのだ。いつまでも夢に浸っていては本来の心が腐ってしまう。
上半身に力を入れて立ち上がったエボニーは、リーンズに向き直る。
別れの言葉は「頼む」と短く。されど、この世界で出会った人々への感謝は深く。
深く息を吸い込んで──
「ありがとう、リーンズ」
笑みを浮かべて、エボニーは感謝の言葉を口にした。
さぁ、別れの時だ。
『アヴェ・マリス・ステラ────めでたし、海の星』
それは感嘆の唄だった。
龍神は大きく震えて音を出しているはずなのに、誰の耳にも届くことはない。この世界の、たった一人へとむけて、リーンズは音を奏でる。
それに合わせて、エボニーの見ている光景が震え、曲がり、切り替わる。身体から染み出した蒼い靄と細かな輝きが、彼を中心に回っていく。星々を背負ったエボニーの胸の上下はその間隔を次第に長くしていき、彼の身体から神の力が溢れ出す。
腹の底から込み上げてくるのは「炎と旅路のドーリー」「命と調和のコスモス」「杯と純潔のヴァイス」の力。そこに混ざる、「夢と簒奪のワルツ」と──「星と魔法のリーンズ」の力。
五柱の神力がエボニーを包み、世界を渡る一人の英雄の道筋を導く。
次に彼が目を覚ましたのは星空のロビーだった。
幾度となく見た光景。SSSのオープニングロビーだ。
「────…………」
かくして彼は目を覚ます。
エボニーだった人物。星の民と呼ばれた男はいつも通りにVRヘッドセットを取り外し、静かにまばたきを行った。
男はゆっくりと周囲を見渡して、そこが己の部屋であるこを確認すると大きく息を吐いた。
首に下げた灰袋に手を伸ばした男は目をつむり、ここではないどこかの人々に「みんな、無事に帰れたよ」と呟いた。
Sea of StarS-星の離れたちにて- 完
完結までお付き合いいただきありがとうございました。
2022年4月4日から連載を始め、完結まで運ぶのに2年以上かかってしまいました。
あぁしたらよかったなとか、こうしたらよかったな、みたいなのは活動報告でやる予定なので、時間があったら覗いてみてください。
完結したので、というわけではありませんが、感想、ブックマーク、作品評価をしていただけると嬉しいです。
感想は小説家になろうにログインしなくても書けるようにしています。
現状、感想は一件もないのでほしいです(直球)。
また次の作品がある程度書き溜め出来たら投稿すると思うので、その時はまたよろしくお願いいたします。




