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十三、黒い冒険貴族。

 ここはハンターギルドの受付の一つ。「二等星・一等星」を受け持つその場所で、一人の受付嬢が書類の整理を進めていた。

 毎回エボニーのクエスト受注を受け持つ彼女の名前は、ジュリア・メークピース。受付嬢の中でそこそこのベテランの彼女は冒険者同士の揉め事の仲介にも慣れており、この日もまた、にわかに騒がしくなっていくギルドの中でそういった気配を感じていた。


(今度は誰が馬鹿やったんだろ)


 手の中でまとめた書類を引き出しにしまい込み、彼女は立ち上がる。厄介ごとに対応するのが年上の役目であり、高い給料を貰い、暇な受付に座っているのだから、これくらいはやるべきだろう。そう彼女は思っているものの、いざ対応する段となってみると溜め息が出てしまう。


 顔を真っ青にしてジュリアの元へ走ってくる冒険者は揉め事に慣れているのか、こういう場合に頼る相手を理解していて、彼女も表情を整えて対応を始めた。まずは近くにいた用心棒に声をかけ、そこから息も絶え絶えの冒険者の話に耳を傾ける。


「それで、どうされましたか。随分と騒がしいみたいですが」

「「使命と剣の賛歌」が死んで生き返って!なんだっ、あーあー」

「落ち着いてください。死んで生き返った……となると、モンスターにやられたのですか?」

「そうじゃなくて冒険者に!誰か知らないが、一等星の……そうだ!昨日まで白かった奴!」


 昨日まで白かった奴と聞いて、ジュリアの頭の中に浮かぶのは一人しか居ない。考えは「エボニー様でしょうか」と言葉になって漏れ出たが、それはとても小さなもので、てんやわんやしている冒険者の男には届かなかった。これ幸いにと、彼女は男に続きを促した。


「その方でしたら対応したことがありますよ」

「そいつの馬に武器が載せてあって賛歌の奴らが取ろうとして、蹴り上げられて、頭が破裂したんだ!」

「いいですか、落ち着いてください。まずは現場に向かいましょうか」


 ここで話していてもラチがあかないと思ったジュリアは脳内で話を整理しつつ、ギルドが雇っている用心棒の男に追加で人員を頼んだ。「使命と剣の賛歌」はハンターギルドに所属しているクランの一つであり、トップクランとして有名であった。流石に用心棒一人でどうこうなる相手ではないのは彼女にも分かっていたのだ。

 ギルドの外に向かうすがらも、彼女たちの会話は続く。


「「使命と剣の賛歌」の冒険者が白かった冒険者の馬を襲おうとして、返り討ちにあったということでよろしいでしょうか」

「あ、あぁそうだっ!うんうん!信じられるか……!?馬の蹴りで人の頭が破裂するなんて、俺は夢でも見てたんじゃないのか…………」

「私たちの理外に居るのが彼らですから……そういったこともあるのでしょうね」

「それは「騎兵」から「衛生兵」に変われるのか!?あぁ駄目だ、本当に夢じゃないのか!騎兵銃は「騎兵」しか使えない!そうだろ!?なぁ……ジュリアさん」

「そういったことも……ある、かも…………」


 尻すぼみになっていくジュリアに冒険者の男はもう一度「夢であってくれ」と呟き、しまいには指で聖印をきり始めた。ジュリアは周囲よりも星の民について知っているものの、それでも、星の民についての資料は完全ではない。記録の中にある彼らはいつだって絵本の中でしか出来ないような活躍をして、困っている人々を救うのだ。この国で生きていて、彼らを嫌う者は多くない。


 星の民が居なくなってから長い年月が経った。その中で唯一やって来たのがエボニーであることを、ハンターギルドの情報収集部によってジュリアは既に聞き及んでいる。不可能という言葉から一番遠いところに居る彼らならと、彼女は幼い頃に読み聞かせてもらった本の内容を思い出しながら、どう対応するべきかを考えていた。


 ギルドの外ではエボニーが立ち去ったにもかかわらず、多くの人の声が入り乱れていた。人数で言えばエボニーと「使命と剣の賛歌」の冒険者が言い争っていた時よりも多く、ジュリアは目を細めながら周囲を見渡した。


(賛歌のクランメンバーの方が結構居ますね。もし報復なんて動きにでもなったら、ギルドはどちらを…………いいえ、きっとエボニー様が選ばれるのでしょうね)


 彼女が探すのは「使命と剣の賛歌」のクランマスター。もしくはそれに準ずる役職か、顔の知れている冒険者だ。と、そこで彼女は一つ思い出したように、知らせに来てくれた冒険者に声をかけた。


「先に手を出したのは賛歌で間違いありませんよね?」

「あ、あぁ。白い奴の馬に載った武器を取ろうとしたのかなんか知らないが、そっから……」

「分かりました、ありがとうございます。」

「な、ギルドは俺を守ってくれるん、だよな……?トップギルトと一等星のいざこざに巻き込まれるなんて御免だぜ。そもそも俺は白いのに言われたから報告しただけで、関係ないってのに」

「ええ、分かっています。心配ならもう離れても構いませんよ」


「あぁ!そうか、あぁ!助かる!」男は喜びか恐れかも分からぬ表情で振り返るや否や走り出し、雑踏の中に素早く溶け込んでいった。こういうところは冒険者らしいよなぁ、とジュリアは内心で思いつつ、あの小物ぶりはどうにかならないのか、とも思う。あれでも腕は確かな冒険者であるのを彼女は知っていたからだ。


 それはともかくとして、次第に増えていく人混みの中で、彼女は目的の人物を見つけることができた。光を反射する黒い革鎧は、鋼色の防具を身につけた集団の中でよく目立った。


 ジュリアは普段出さない大きな声を意識して叫ぶ。「ファハドさーん」

 黒い革鎧を身につけた男──ファハドは声がした方向へ人の壁を避けるように頭を動かすと、周囲の人間に一声かけてからジュリアの元へと駆けつけた。


 ファハドはエボニーと同じく一等星の冒険者であり、「使命と剣の賛歌」の副マスターである。それと合わせて貴族家の末っ子でもあり、話の分かる人物であるといえた。


「いつもより早い到着じゃないか、どうしたんだ?」

「当事者がギルドにぶん投げたので連絡が来たんです」

「俺はその当事者を探してるんだが、どこに行ったか知らないのか」

「今頃は狩りでもしてるでしょうね」


 そこで彼女は振り返り、ギルドの入り口に目をやった。ジュリアはエボニーが受けたクエストの数を思い出そうとしての行動だったが、数の揃った用心棒たちがタイミングよく出て来たことで、彼女の視線につられてギルドを見ていたファハドにもその様子が窺えた。軽い調子で口笛を吹く彼は、呆れるように口を開く。


「あれは当事者を連れ戻しにいくのか?それなら俺たちも手を貸すぜ。面目を潰されて黙ってるわけにはいかねぇ」


 エボニーが星の民であるというのは秘匿性の高い情報であるために仕方がないのだが、ジュリアはどう説明したものかとゆっくりと息を吐いた。だがそれは彼から見れば溜め息に見え、ファハドはすっと黙り込んで彼女に視線を合わす。

 それはどういう意味だ。言外にそう言っているのだと理解した彼女は、吐く息一つでも邪推する彼に嫌気を感じつつ、今回の件について話し出した。


「私はそちらのクランメンバーが、一等星冒険者の所有する馬にちょっかいを出して殺され、挙句、その冒険者に蘇生されたと聞いています。詳しい事は分かりませんが、これは間違いのない情報のはずです。狩りに出ているところを連れ戻すようなことはしませんよ。その冒険者は確かにギルドにぶん投げましたが、ぶん投げて逃げたわけではありません。彼の事はあまり知りませんが、きっと、面倒だから自分の用事を優先したのでしょう」


 一気に言い切ったジュリアは、眉間にしわを寄せるファハドの様子を伺った。彼がこの問題を冒険者として対応するのなら構わないが、彼が貴族として調査するのなら、ギルド側はどうしても動かざるを得ないからだ。当のファハドは表情こそ変えないが、情報を整理しつつ、一つずつ区切るように話す。


「そちらの言い分は理解した。だが、俺たちはまがりなりにもトップクランだ。このままというわけにはいかない」

「ではどうしろと……?」

「それはクランマスターの判断次第だ。情報が出揃ってない。俺は、その冒険者は騎兵銃を使ったと聞いてる。鎧にも跡があるし、まぁ間違いないだろう。こちらから剣を抜いたとも聞いた。だが、蘇生をしただって?あり得ないだろう。そいつは一人で、職業は「竜騎兵」だ」


 ファハドは教育を受けているため、どの武器を使うかで職業が分かれていることをきちんと理解している。「騎兵」系職業の三段階目が失われた事も知っているからこそ、エボニーの職業を二段階目の「竜騎兵」だと言った。だが、真実を知っているジュリアからしてみれば、それはまったくもって笑えない。


 話を聞く限り、エボニーは悪くない。一つあげるとしても、キリをギルドの外で待たせた事だけであり、ギルドとしては、彼に何かを求めるわけにはいかないのだ。「職業が変えられるのか」だなんて、職業に縛られている今日において、とても言えるものではない。


 悪いのは「使命と剣の賛歌」だ。そう言って、相手に受け入れられたらどんなに楽だろうか。ここから先、彼女の中で上手い言葉は生まれなかった。出てくるのは曖昧な表現と、先送りされた祈りばかりだ。

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