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十一、馬鹿の鳴き声。

 太陽は中天を過ぎ、エボニーはピュアホワイトの鎧からレベルの落ちる防具へと着替えてハンターギルドへの道のりを進んでいた。

 彼の隣に並ぶキリの背には、午後からの試みのために複数の武器が載せられているものの、そんなものは気にならないとばかりに、堂々とした佇まいで手綱を引かれていた。


 彼が自分で言ったのだから仕方ないのだが、時間は一週間しかなく、できる限り効率的に動く必要がある。ゲームであった時と同じように動ければまた違うのだが、そんなことが出来ないのは彼も承知している。そして、悩んだ結果がキリの背に載せられた武器たちであった。


(失敗なら失敗で気にする必要はないけど、試しておかない理由もないしな)


 エボニーが試そうとしているのはジョブチェンジであり、現職業の「魔竜鼎レヴィテックス」から別の最終職へ変われないかと考えたのだ。

 ゲームであればマイルームなりギルドの準備場なりで簡単に変えられたものの、メニュー画面が出てこない以上は自分でどうにかしてみるしかない。


 他の職業の専用武器を何事もなく持てたことで少しばかり弱気になっている彼だが、「持つ」と「装備」に明確な差があるのだとすれば、それはやはり戦闘が関わっていると思ったのだ。


 そして、彼が戦闘の中で試したい事は他にもある。

「針葉の巨人」の狩猟でも使った「パワーショット」などのスキルもそうであるし、エボニーとして、どこまでの動きが出来るのかも調べる必要があった。思いっきりジャンプすればどこまで飛べるのか。思いっきり剣を振ればどれほどの威力が出るのか。レベルを上げる事で高められた身体能力で、何が出来て何が出来ないのか。


 ゲームと違って、決められた行動をして来るわけではないモンスターたちに対応するには、無茶な動作をとることもあるだろう。その時になって慌てないように、冷静でいられるような思考作りを進めていかなければならない。


 焦り、怒り、欲張り。そのどれもに足を掬われたことがあるエボニーだからこそ、慎重になっていたのである。


(ギルドに着いたらベースキャンプがあるのか確認して、クエストは……報酬が美味しいやつからかな。あ、そうだ。ルイーズたちに言伝もしておかないと。あとなんだ、キャンプに必要な道具とか聞くぐらいか?)


 エボニーが考えれば考えるほどに、彼の頭の中には必要そうなことが溢れて来る。どれが必要で、どれが要らないのか。取り敢えずは先立つ物を手に入れてからだ、と彼は頭を上げてキリの首筋を撫でた。

 ハンターギルドまでの道のりはもう少しばかり続く。


「絡まれたら戦ってもいいけど、ちょっと待っててくれな」それからまもなく、ギルドにやって来たエボニーはキリに声をかけた。愛馬からの鼻を鳴らしての良い返事に、自然と笑顔が浮かんで来て、彼はキリの頭を抱き寄せるのだった。


 さて、ギルドに入っていつもの受付へと向かうエボニーだったが、彼の視線は教会関係者を探すように動いていて、逆に目立ってしまっていた。それでも絡んで来る冒険者が居ないのは、彼がルイーズたちと話していたのを知っている冒険者が多いからだ。彼自身も受付時は「二等星・一等星」の受付に行くので、余計にである。


 現在、冒険者たちの中で中堅の辺りにつけているのは何の教育も受けていない者たちであり、「職業」を与えられてからギルドに登録した者たちだ。そういった者たちは実力至上主義とまではいかないでも、それに近しい考えを持っている事が多い。


 これがもう少し彼の情報が出ていれば違ったのかもしれないが、彼はつい先日この世界にやってきたばかりであり、周囲からすれば、謎の高ランク冒険者なのである。触らぬ神に祟りなし。多くの冒険者たちは、狩りの中で大事な事をしっかりと学んでいた。


 やはり「二等星・一等星」の受付カウンターは人が並んでおらず、エボニーはお世話になっている受付嬢に声をかけた。彼女はエボニーの装備が変わっているのに気が付いたが、色々と察したのか苦笑いを浮かべるだけに留めた。


「お待ちしていました、エボニー様。クエストを受けられますか?」

「そのつもりなんですけどね、場所が比較的近くて報酬がいいやつから受けようかと思って」

「そうですね……そうなると、この辺りでしょうか」


 受付嬢は朝にも見たリストから抜粋して、彼の前に五枚の紙を並べた。その中にはブラフナー家、クーター家と思わしきクエストも当たり前のように入ってきていて、貴族の金回りの良さを痛感せずにはいられなかった。


 エボニーが依頼書と睨めっこをしている横で、受付嬢がもう一枚の依頼書を目に見える位置に並べたものだから、彼が「これは?」と尋ねると、彼女は「もちろん、お断りしても大丈夫ですが」と前置きをして話し始めた。


「「針葉の巨人」の素材を頼まれていたお方からの指名依頼になります。巨人の葉の事は諦めていたようでして……、それはもうお喜びに。巨人の分の報酬は、数日中に支払うと伝言を受けていますし、信用に足る人物であるのはギルドが保証いたしますので、こちらも御一考いただければと思いまして」


 六枚目の依頼書の目標モンスターは「混ざり血の牛人」「混ざり血の馬人」であり、見た目は毛深い牛頭馬頭ごずめずである。これは二等星から一等星に上がるためのクエストとしても有名な、二頭同時狩猟の組み合わせだった。


「牛頭馬頭か……」

「どういたしましょう」

「これって昇進クエストだろ?他の冒険者だって狩るんじゃないのか」

「現在の昇進クエストは別のものになっていまして、この二頭を好んで狩る方は居ないんです」

「あー……変わったんだ。ならどうしようかな。報酬が良いしやってもいいけど」


 指名依頼と二頭同時狩猟が合わさり、報酬は他のクエストとは頭一つ抜けている。その分、狩猟中に気をつける事は増えるものの、言い換えれば二頭同時に狩れて効率が良いという事だ。しかして牛頭馬頭と出会うことができるフィールドは巨人を狩った場所よりも奥地にあり、岩場も多くて進みにくい。馬なら余計にだろう。

 クラスチェンジが可能であれば一発で解決する問題ではあるので、エボニーは受付嬢に保留の意を伝えた。


「今日は試したい事があるので、また明日の返事でもいいですかね」

「お早目のお返事を、とのことでしたが、明日中であれば問題ないかと思います」

「んじゃ、それでお願いします。午後からはこの三つを受けるんで」


 エボニーは六枚の中から三枚を引き抜いて渡し、受付嬢に手渡した。残った三枚も回収した彼女が作業をする前で、彼は三体のモンスターの出現位置を頭の中で想像していた。


「はい、準備出来ましたよ。エボニー様」

「ありがとうございます。それと、あの辺りにベースキャンプありましたっけ」

「ええありますよ。地図をお持ちであれば印をお描きしますが」

「じゃあお願いします。あともう一ついいですか?狩猟照明部位なんですけど……」

「そちらも合わせて、ですね」


「すみません」とエボニーが謝罪をするも、受付嬢は屈託のない笑顔で「構いませんよ」と答えた。その様子を見ていた彼は、彼女のプロ意識の高さに心の中で脱帽するのだった。


 今回の狩猟で、彼が選んだクエストは三つ。

 それぞれのモンスターの名前は「深きに眠る豚の王」「大鳥の翁」「単眼の巨匠」などと幾ばくか堅苦しいが、プレイヤーからはオークキング、鶏、サイクロプスとしか呼ばれない悲しいモンスターたちである。


「ご武運を」


 受付嬢の言葉に彼は頷いて、ハンターギルドの出口に向かっていった。すると、ギルドの外からにわか(・・・)に騒ぎ声がエボニーの耳に届いた。人の声と馬の声が合わせて聞こえてきたものだから、彼の足は人混みを縫ってギルドの外へと飛び出した。


 エボニーは運がいいのか悪いのか、ここまで宗教と何からの関係にある者と出会ってこなかった。だから、頭ではある程度分かっていたが、本当に理解はしていなかったのだ。権力と暴力を手に入れた馬鹿がどういった行動を取るか。


 果たして、彼が目にしたのは頭が破裂した二つの死体と、周囲へと怒気を撒き散らすキリの姿だった。一先ずキリが無事な様子に安堵したエボニーが現場に近づくと、真っ先にキリが気がついて走り寄ってきた。それを見た周囲の人間は慌てて距離を取ったが、その先にエボニーが居るのを確認して困惑の表情を浮かべるのだ。


 もちろん、そんな視線を抜けられるエボニー自身も何が何やら分かっていないので、落ち着くようにキリの首筋を撫でるのだが、随分と興奮しているキリはそう簡単に大人しくはならない。


 エボニーが「落ち着け」と、身を寄せて強めの口調で言ってからようやく落ち着いたが、周りの人間から話を聞こうにもそういう雰囲気ではなかった。


 どうしたものかとエボニーが困っていると、頭爆散死体の()れらしき人物が大声を出して注目を集めた。


「こんっちきしょうめぇ!!俺たちは一等星の冒険者だぞ!分かってんのかぁ!あぁ!?」

「俺も一等星だけど、お前誰だよ」


 今度はエボニーに視線が集まった。

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