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百二、主役二人。

「ボトムライト」のクランハウスの中はハンターギルドを連想させるような広々とした空間で、一堂に(かい)せるような造りとなっていた。このあたりはクラテル一階のホール部とも似ているところだ。

 クランメンバーたちがハクザンに行っているために人気や生活感は殆どなく、たまたま広間に居た一人のハウスキーパーだけが、この場が生きているのだと感じさせた。


「ズーハンさん、戻られたんですか?」

「ちょっと野暮用でね。明日にはまたあっちの方に戻るよ。今夜は打ち上げでさ」

「あっそうなんですね」

「スートもどう?他の皆も呼んでさ」


 スートと呼ばれたハウスキーパーの他にも「ボトムライト」は使用人を雇っており、彼女はその中でも年若い方であった。彼女は噂好きで、ハクザン防衛、復興の立役者としてゴールドバレーに情報が入ってきているズーハンの話は聞きたくて仕方がなかったものの、「ボトムライト」に雇われているのは彼女だけではない。駆け足で仕事仲間を集めに走ったスートを見ていつものを調子を取り戻したズーハンに急かされ、宴の準備は素早く整っていった。


 クランハウスに着く前にヘンリーが店に声をかけていたのだろう。酒屋、居酒屋、詩人など、宴に必要なものが順次運び込まれ、揃っていく。

 祝いの言葉にビールの樽。退屈を覚えさせない音楽と口上に釣られるようにハウスキーパーたちも集まれば、間もなく主役からの挨拶が告げられた。


「この席はハクザンとは関係なくて、でもこれは「ボトムライト」や私にとっての新たな可能性、時代の変わり目の一歩で──」


 この場に集まった人数こそ少ないものの、それによってズーハンの気持ちが変わることもない。初めてエボニーと出会ってから振り回されっぱなしな彼女が言いたいことは多くあったが、それは一旦脇に置いておいて。ゴールドバレーのトップクランにこそ私たちは相応しいのだと言うように。繰り上がりで一番になったわけではないのだと言うようにして、彼女は杯を天に突き上げた。


「言いたいことはいっぱいあるけど、とりあえず、……最終職になれた私凄い!おめでとう!!ありがとう私!よし、乾杯っ!!」


 最終職という言葉を聞いて慌てる組と、素直に乾杯を楽しむ組に分かれた反応なんて知るものか。そう言わんばかりジョッキを仰いだズーハンを見て、エボニーもまた笑みを浮かべて不っいビールを流し込んだ。


「えっ!?」

「最終職になったの!?」

「おめでとうございます」

「これは明日から祭りだぞ……、新しい歌を作らねば」


 ズーハンを囲んでわちゃわちゃしている様子はまるでSNSでの賑わいを見ているようだった。

 ノア・ブラフナー子飼いの兵士が最終職になったのはエボニーも知るところであるが、ハウスキーパーや詩人の反応から、大っぴらにはされていないのは察せられた。となれば、一般的にはズーハンが初めて最終職になった人物として広まることになるだろう。


(ハクザン防衛を担当し、最終職になったクランマスターの後ろ盾がどこか。……名前が上がるのはクーター家かブラフナー家だろうな。うまいことやるよ。……俺の後ろ盾も同じだから何も言えないけど)


 リッジ家、デルソル家の勢いが止まった今、ゴールドバレーにおいてこの二家を止められる存在はいない。破竹の勢いで突き進んでいる彼らの背中を押すような形でズーハンの最終職の話が広がればなおさらだ。

 今後もお世話になる予定ではあるので望むところではあるのだが、エボニーが貴族怖いなぁ、と思ってしまうのは仕方がないところ。

 けれども、今は楽しい祝いの席。深く考える必要もないだろうと、適当な食事を摘まんで静かにしていれば、急に話の矛先がエボニーに向かった。


「だから、それもこれもエボニーさんのおかげなんだって」

「んっ!?」


 食事を少しばかり喉に引っ掛けて(むせ)た彼の元に周囲からの視線が集まる。元より、フルとエボニーは「ボトムライト」に所属していない、いわゆる部外者だ。どういった繋がりなのかは誰もが気になるところであった。そこに放たれたズーハンの言葉は、さぞ興味を引くものだったに違いない。


「その名前は……たしか、エグバート・リッジと決闘をした」

「……まぁ、その人本人だよ」

「おぉ!!それはまさしく星の民にして、ハクザン奪還の立役者!話題のスターがこの場に勢揃いとは!」

「今日はズーハンの最終職到達を祝うんだろ?」

「おっと失礼。私としたことが……」


 どうにか詩人を落ち着かせたエボニーではあるが、外野は彼だけではない。噂話が大好きな女性陣、ハウスキーパーからの視線が彼に刺さった。

 星の民とは昔話として語られる存在であり、ゴールドバレーの住人の誰もが一度は目にしたことがあるだろう建物に住んでいるというのは最近になって広まりきったところである。百年前の英雄が自身と大して変わらない年齢の見た目をしているのだから、何が無くとも質問が尽きることはない。


 ズーハンと初めて会った日のことや、ハクザンでどのような戦いをしたのか。ズーハンが転職を成功させた「月影胞ヘカモール」の特徴など、酔いと場の空気に乗せられて口は滑らかに滑る。

 せっかくなのだからとフルの紹介をすることも忘れずに、酩酊感と共に楽しい時間は過ぎていった。

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