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百一、クランハウス。

 そのままの足取りでエボニーたちは大通りから、神殿の前を通過する通りに出た。不自然にならない程度にゆったりとしたスピードで神殿を横目に進んで行くと、ひと目で分かる変化がいくつかあった。


 一般の参拝者を中に入れないよう、分かりやすい立ち入り禁止の絵が描かれた立札。

 その立札の前で膝をつき、祈りを捧げている信者たち。

 統一された武器と防具に身を包んだ無数の騎士。


 エボニーがかつて見た神殿前の光景とはその一切が変わっていたものの、場所と神聖さは変わっていない。

 変わっていないからこそ周囲の風景と合わせて滑稽に見えるのだろうかと、彼は思う。


(装備を統一してるのは国の軍隊か……?あれは「使命と剣の賛歌」の装備じゃないし、ハンターギルドのトップはズーハンのクランだもんな。他に人が出せるクランがあれば耳に入ってきそうだけど。……国が調査中ってところか)


 誰も中に入れずに国が調査しているのなら、そこはもう信じるしかない。そう割り切ったエボニーは視線を神殿から正面へと戻し、頭の中で今後の行動を考える。

 神殿の調査を国がしてくれているのなら、調査結果はノア・ブラフナーを通して教えてくれそうではある。ならば、他に調べられそうなところを見ておいた方が効率がいい。


(とはいえ国が本当に動いてるとは思ってなかったな。俺が下手に手を出してこじれてもあれだし)


 内心でエボニーが唸っていると、「どう見えましたか」と隣に並んだフルが尋ねてきた。

 言葉に出した方が整理もつくだろうと、国が動いているという推測と、自分が今は動くべきではないという考えを話した。とはいってもフルは彼の事情を知らないし、エボニー自身、フルに詳しく話すつもりもなかった。


 結果としては互いに要領を得ないものになってしまったが、その全てが無駄になったわけではない。二人きりで話すことが殆どなかったために少し遅れた形ではあるが、空気感を確認しあうには十分な時間であった。

 教会の話が長く続くはずもなく、早々に切り上げてフルの目にとまったお店を冷やかしていれば時間の経過はすぐだったのである。


 適当に街を見終わった二人がクラテルに戻ると、ホールではズーハンとヘンリーが話しているところだった。エボニーの耳に届いた限りでは会話の内容は最終職になったことで変わった事について話しているようだった。

 この世界では確認できないが、SSSではどのレベルになるとどのステータスが上がる等が視覚化されていた。それらの違いがどのように肉体に反映されるのかはエボニーの知るところではないものの、自身の感覚と照らし合わせれば、意識すれば確かに力を感じるのだろう。


「魔術兵」から派生する「月影胞ヘカモール」になったのを考えると、上昇したステータスは魔力だろうとエボニーが当りをつけたところで、主役であるズーハンは待ちきれないとばかりに声を張った。


「ご飯に!行きましょう!!」と。


 元よりそのために時間を潰していたのだし、彼女の言葉を起きてから何も食べていないエボニーたちが断ることもない。

 クラテルに戻ってきたエボニーとフルはUターンをして外に出ると、ズーハンとヘンリーも間もなく外に出てきた。準備は万端らしい。


「飲む場所は決めてるのか?俺は店とか知らないけど」

「そこは任せてくれ。祝いの席は決まってるんだ」

「そんな立派なものではないんだけどね……。まぁギルドの近くだからさ。そんなに時間はかからないと思うよ」


 真っ先に歩き出したヘンリーには心当たりがあるようで、ズーハンも彼が言っている場所を知っているようだった。立派ではないと言いつつもそわそわ・・・・とした様子を隠しきれない彼女から、思い入れのある場所なのだろうとエボニーは感じた。

 実際のところは(ギルドの近くの酒場だと変な外野が多そうで嫌だなぁ)というのがエボニーの正直な感想だったものの、やって来た場所は彼の思っていたようなお店ではなく、何十人もが余裕で住めるような大きな建物だった。


 木造の建物は何度も増築を繰り返したのか、材木の色や細かい意匠が少しずつ異なっていたが、決して見かけ倒し的な貧相さを感じさせはしない。真っ先に浮かんでくるのは安心感や懐かしさで、とても飲み屋には見えなかった。


 エボニーは思わず「本当にここであってるのか?」と聞いたが、ズーハンから返ってくるのは苦笑だけで視線を合わせようともしない。どうしたものかとヘンリーを見やれば彼もまた苦笑いを浮かべるのだが、答えは聞くことができた。


「エボニーさんの白い塔と比べたら大したことないけど、ここが俺たち「ボトムライト」のクランハウスなんだ。今は皆ハクザンに行ってて、雇ってるハウスキーパーしか居ないけどな」

「……ここがそうなのか」

「「使命と剣の賛歌」みたいに一等地にあるわけでもなし。少しずつ土地を買って増改築していってるから不格好だろう?」

「いや、そんなことないよ。想いが詰まった最高のクランハウスだと思う」

「だってよ、マスター」


 ヘンリーの視線の先には顔を赤くしたズーハンが居たが、彼女は「ボトムライト」のクランマスターらしく歓迎の口上を述べた。


「ようこそ、「底の光ボトムライト」へ。クランマスターとしてエボニーさん、貴方を歓迎します。そして、ありがとうございました。貴方の助力を得られたことをここに感謝します」

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