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四話「コボルトの赤ちゃんを鍛えます!」①

※すいません、本日19時投稿の予定でしたが文字数が増えたので前半部分を先行して投稿します

 続きは予定通り本日19時に投稿します


 ある日、お母さん系女子高生「長谷川麻里亜はせがわまりあ」ことハセマリは交通事故で命を落としてしまう。


 しかし性格が良く大勢の神様に好かれていた麻里亜は生き返るチャンスをもらった。


 その条件とは「転生したゲームの世界で生き延びる」こと。


 遊戯の神イシュタルによってファンタジーRPG「ワールドナイン」の世界に転生することになった彼女は同名のゲームキャラクター、マリア・シャンデラとなって過ごしていた。


 ゲーム本編開始一年前に記憶を取り戻した彼女は自分の転生したキャラが「ゲーム序盤の死体役な悪役令嬢」だった事を思い出す。



「これってマズくない?」



 転生した世界は途中までしかやっていない友人から借りたゲーム。


 しかもハセマリはゲーム初心者、死亡フラグ回避の引き出しは皆無に等しい。


 彼女は「モフモフしたモンスターが好き」というマリア・シャンデラの設定を遵守し生き延びるため可愛いモンスターを護衛にして生き延びようと試みだす。



「ストーリーの流れを変えないよう悪役令嬢のキャラは守らないと」



 殺される時期が早まりモフモフ護衛モンスターを揃える前に命を狙われたらひとたまりもない。


 そのため、ゲーム本編の流れを変えないよう「悪役令嬢マリア・シャンデラ」に徹する覚悟のハセマリ。


 すべては生き延びるため――


 しかし彼女は知らなかった。


 モフモフモンスターを手に入れるため交渉した「竜族の王子」に手料理を振るい、彼の胃袋を鷲掴みにしたこと。


 そのせいでゲーム重要キャラである彼に興味を持たれたなど……


 そんなことも知らず「長谷川麻里亜」改めマリアは今日も元気に「彼女なり」の悪役令嬢キャラを貫くことに邁進するのだった。





「おはようございますお父様! お母様!」



 父ガンドルと母シンディの寝室に勢いよく入室しカーテンを開けるマリア。


 降り注ぐ朝日に顔をしかめガンドルは寝ぼけ眼をこすり彼女の顔を見やる。



「ま、マリア……おはよう」



 起き抜けのかすれた声で挨拶をするガンドル。


 マリアは腰に手を当てハキハキした声を両親にかけた。



「昨日七時に起きると言ってたではないですか、もう起きる時間ですよ」


「え、もうそんな時間なの……」


 ぼさぼさになった髪の毛を手櫛で整えながら時計の方を見やるシンディ。




 ――時刻は六時四十五分を指したばかりだった。




「……………………」



 チュン……チュチュン……



 穏やかな小鳥のさえずりだけが寝室を支配していた。


 まだ七時になっていないじゃない――


 そんな視線を娘マリアに向けるガンドルとシンディ。



「えっと、七時に起こしてと――」



 しかしマリアは聞く耳持たずティーカップとポットを準備している。



「朝は忙しいんですから! 一分一秒が大事ですよ! ほらもう四十七分! 起きてください!」


「お、おいマリア……寒っ!」



 バサッ! っとガンドルとシンディの毛布を順番に剥いでいくマリア。


 いきなり温もりの残る毛布をはぎ取られ二人はベッドの上でうずくまった。


 そんな彼らの前にマリアはお湯を注いだカップを差し出す。



「これは? ただのお湯みたいだけど?」


「はい、お湯ですよ」



 シンディの問いにマリアはさらりと答えた。


 お湯ですが何か……お茶ですらない物を出されガンドルとシンディは顔を見合わせた。



「え? お湯だけ?」



 ガンドルの問いにシンディは優しく微笑んだ。



「そうですよ、起き抜けの御白湯おさゆは体にいいんですから。ちゃんと飲んでくださいね」


「え、体にいいからって……」



 砂糖にミルクたっぷりの紅茶かコーヒーが大好きな母シンディはそっちの方を要求しようとするが……



 「さぁどうぞ」(ニコニコ)



 優しく微笑むマリアに何も言えず黙って御白湯を口にした。



「しみこむでしょ、体にいいんですからね」



 なおも微笑むマリアにガンドルとシンディは苦笑する。



「確かに、温まるな」


「ですわね」



 ポカポカしたのはお湯だけのせいじゃない……


 娘のお節介に微笑ましいと思った二人は顔を見合わせて笑い合ったのだった。



「さぁもう五十分ですよ! 今日はご公務があるんですよね、しっかり朝ごはん食べて頑張りましょう! ……手伝てくれてありがとうリン、お湯の入ったポットを片付けておいて」


「かしこまりました」



 快活な笑顔を両親に向けて寝室をを出たあと、侍女のリンにちゃんとお礼するマリア。


 そんな彼女に付き添っていたリンは聞こえない程度の声でこうつぶやいた。



「完全にお母さんやん」



 「もう時間よ」と言いながら起きる時間より微妙に早く起こしてくる行為。


 健康を心配するあまり「体にいい」と聞いたら即実行、強引にそれを家族に推し進める行動力。



 まさに母……いや、もはや「おかん」の領域。



 このお嬢様らしからぬ行動に侍女であるリンは困り果てていた。


 いや、むしろつい最近まで早起きとは無縁の自堕落なご令嬢だったはずなのに……と終始困惑している表情だった。



「どういうことでしょう、時間通りに起こしても八つ当たりしてくるマリアお嬢様が両親を起こして健康まで気遣うなんて……」



 その困惑は侍女のリンだけではなく他の使用人も同じように困惑していた。


 なんせ先日までワガママ自堕落なお嬢様が家事や掃除を率先してやるようになり、さらに放漫浪費を繰り返していたのに「もったいない」と質素倹約に勤しむようになったのだ。


 他の使用人も口々にこう語る。



「どういう風の吹き回しだ……あのお嬢様が……」



 「何かの前触れか?」「フリ? フリなの?」と恐れる人間も少なくないありさまだった。



 彼らは知る由もなかった。



 彼女がマリア・シャンデラの「悪役令嬢キャラ」を遵守するためには「とにかくワガママを言って自分のやりたいことをやらせてもらう」ことが第一と考えて行動していることなど。


 そして……マリア本人も気が付いていなかった。


 彼女のやっている「ワガママ(家事全般)」が「悪役令嬢」というキャラかけ離れているどころか真逆であるという事など……



 彼女なりの「悪役令嬢的ワガママ」のつもりだろうが、どこをどう切り取っても「健康を考え、かつ家計のためもったいない精神を貫くおかん」でしかない。


 そんなことなど知りもしないマリア。


 悪役令嬢のワガママ(笑)をやり切った彼女はいい笑顔で額の汗をぬぐう。



「私、悪役令嬢の素質あるかもねっ!」



 そして、一通りのワガママ(笑)を終えたマリアは次の作業に移行する。



「おっはよー! 今日もいい天気ねモフ丸」


「わっふ!」



 先日、護衛として迎え入れたコボルトの子供であろうモンスター「モフ丸」の育成である。


 「意外に可愛い物好き」「密かな夢はモンスターテイマーになること」というマリア・シャンデラの設定を遵守しつつ身を守るならばコボルトはマスト中のマストと考えるマリア。


 一歩前進に浮かれる彼女は早速立派な護衛に育てるための訓練に勤しもうとした。



「よーし、じゃあ今日もトレーニング開始よ!」


「わっふ!」


「と言ってもまずはランニングという名の散歩だけどね。よしよし」


「わっふ~ん」



 マリアはじゃれ付いてくるモフ丸に優しくリードを付けてあげ独り言ちる。



「モフ丸を飼うことを快く了承してくれたお父様お母様に感謝ね、ありがたやありがたや」


「わふわふ……」



 お屋敷に向かって手を合わせるマリアと仕草を真似るモフ丸。


 そんな彼女を侍女であるリンが困り顔で見ていた。



「あの、モフ丸君のお世話は本当にお嬢様がするんですか?」


「自分から言い出したことだし責任持つわよ。ワガママ言わせてもらってゴメンだけど」



 ワガママというよりか、どこかお母さんのような優しさからくる責任感。


 すぐに飽きてこっちに押しつける……そんな悪意が全く無くなっていることにリンは目を丸くするしかない。


 その懐疑的な視線にマリアは気が付き首を傾げる。



「どうしたのリン?」


「いえ、お嬢様何か変わられたな、と」


「え? そ、そう?」



 露骨に挙動不審になるマリアにリンは呆れ顔キープで言葉を続ける。



「いつもだったらゴメンとか絶対言いませんし……アネデパミ卿とお会いした日くらいから変わられた気がします」


「か、変わった? そそそ、そんなことないわよ! さ、さぁ散歩よ散歩よ! モフ丸!」


「わっふ~ん」



 誤魔化すようにモフ丸を抱くと頬ずりを始めるマリア。


 いきなりモフられモフ丸はくすぐったそうにしていた。


 ジト目でその様子を見ているリン。


 マリアは汗を垂らしながら彼女の鋭さに舌を巻いていた。



(さすがマリア・シャンデラと付き合い長い設定なだけあるわ。でもこっちは命がかかっているから全力で誤魔化すわよ)



 どちらかと言うとリンが鋭いというよりマリアの行動が悪役令嬢らしくないからなのだが……根っからの善人であるマリアは気が付かないのであった。


 マリア・シャンデラ殺害事件まであと一年。


 そして、自分の命を奪う悪しき精霊に憑かれた少女ミリィがシャンデラ家の養子として迎え入れられるまで数ヶ月……



(私の命を狙う義理の妹ミリィが来る前にある程度鍛えて、エックスデーに備え死を回避してみせるわ!)



 その日まで悪役令嬢を貫き護衛を鍛えると息を撒くマリア。


 彼女はモフ丸を育てるべくリードをつけ散歩に向かおうとした。



「さーてまずは軽くランニングがてらの散歩ね。有酸素運動よモフ丸!」


「んわっふ!」



 このままどこか遠くに行ってしまいそうな勢いのマリアとモフ丸にリンは釘を刺す。



「マリアお嬢様、あまり遠くへは……え?」


「わかっているわよリン……あら?」



 いざ散歩に出陣。そんなマリアの前に――



 ――カッ……カッ……



 黒髪で浅黒い肌の美男子が優雅に歩いて現れた。



 ※次回も予定通り本日19時頃投稿します


 ブクマ・評価などをいただけますととっても嬉しいです。励みになります。

 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 

 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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