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三話「もふもふ護衛ペットを貰いに行きます!」④


「しょ、少々お待ち下さい。今コーヒーをお淹れします!」



 ここら一帯に住む亜人にとっての王様なのだろう、ヤタベエは柄にもなく大慌てし急いでコーヒーを用意しようとする。


 それをキバはスッと手を挙げ優しい声と共に制止した。



「構わずとも大丈夫です、今日は査察ではないので……評判はしっかり私の耳に届いておりますよヤタベエさん」


「も、もったいないお言葉」



 お褒めの言葉をいただきヤタベエはペコペコ頭を下げている。



(そういえばキバ様が亜人の店とかを全て取り仕切っている設定だったわね)



 マリアはゲームで描写されない一幕を感慨深げに見つめていた。


 そんな彼女の方にキバが振り向くと黒髪をかき分けマリアの抱き抱えるモフ丸を見やる。



「どんなモンスターをご所望か少々気になってはいたのですが、なるほどこの子はコボルトでしょうか?」


「ワフゥ!」



 キバを見て嬉しそうに尻尾を振りまくるモフ丸。


 マリアは尻尾の往復ビンタを顔に受け「あわわ」と声を上げた。



「ちょっとちょっと、モフ丸! キミ好奇心旺盛すぎ!」


「ワフッ!」


「誉めてないっての」



 モフ丸との会話が成立しているマリア。


 その様子を見てキバは無表情ながらどこか楽しげな雰囲気を醸し出していた。


 しかし、そんな彼をみて動揺している男が一人――



「き、キバ様の纏う雰囲気がいつもと違う……」



 もちろんヤタベエである。


 こんな表情など見たことがないヤタベエは「どういう関係だ?」と狼狽えマリアとキバを交互に見やり続けていた。


 キバは無表情のまま手をさしのべるとモフ丸は毛むくじゃらの頭部をすり寄せご満悦の表情である。



「ワッフウ!」


「元気な子ですね。この子に決めたのですか?」



 キバの問いにマリアは満面の笑みで答える。



「はい! この子なら私の護衛にぴったりかと!」


「護衛?」



 不穏な単語を耳にしたキバは少し怪訝な顔をし「何か知っていますか?」とヤタベエの方を向いた。



「このお嬢さんはですね――」



 ハセマリがここに来た経緯を教えるヤタベエ。


 全てを聞いたキバは得心したように頷いた。



「なるほど、護衛としてモンスターを望んでいたのですか。それならば納得がいきますね」



 そしてキバはマリアに尋ねる。



「しかし、いきなり護衛をお探しになるとは……なにかマリア様の身に危険が迫ることでも起こるのですか?」


「え、あ、いやぁ……」



 ゲーム内転生や死亡フラグの件は説明できないマリアは上手く誤魔化そうとしてうろたえてしまう。


 その動揺を見てキバはよけい心配になったようで深く追求してきた。



「言えないほどの危険が訪れるということでしょうか?」


「あ、いや……」



 言葉に詰まるマリア。


 そしてキバはしばしの間考え込む。



「…………ふむ」



 頷くキバ。


 そして次の瞬間、彼はおもむろにシャツのボタンを外し胸元を露わにする。


 いきなりのサービスタイムにさすがのマリアも狼狽えた。



「ど、どうしたんですか急に! ……え?」



 何事かと思いきや……刹那、キバの雄々しい胸板を突如として鱗状の物が覆い始める。


 それは爬虫類のような肌だった。


 鱗に覆われた胸板を見せるとキバはいつもの表情でマリアにこう提案した。



「どうでしょう、この前の料理のお返しではありませんが、この「竜族の力」で私が貴方をお守りするというのは?」



 竜の力なのか、騒がしかったモンスターの檻が静まり辺りは静寂に包まれる。


 マリアもまた、急な提案に驚き言葉を失う。


 そしてヤタベエもマリアやモンスター同様に絶句していた。



「め……滅多に見せない竜族の力に加え、アネデパミ卿が自ら護衛を申し出るだって? いったい何者なんだマリアちゃんは?」



 普段人間にあまり興味を示さないキバがここまで入れ込むマリアをヤタベエは驚愕のまなざしで見やる。


 そのマリアはキバの姿を見て何とも言えない表情を浮かべている。


 どことなく申し訳ない、そんな気配さえ感じ取れる表情だった。


 しばし無言のマリアに不安になったのかキバが尋ねる。



「あの、どうかしましたか?」


「……えっと」


「竜族の力ならあなたのことをお守りできるかと思いますが」



 確かに命を守るなら「ドラゴン」は申し分ない戦力であろう。


 だがしかしマリア・シャンデラは「もふもふ好きでモンスターテイマーを目指している」という設定のキャラ。


 毛がほとんど生えていないであろうドラゴンはさすがに「もふもふ」にカテゴライズはできないだろう。


 くわえて本編の重要キャラであるキバが関係の薄いマリアの護衛になるとすれば……



(ゲームストーリーに影響が出てしまう可能性は大よね、モフ丸を護衛として育てる前に命を狙われたらひとたまりもないわ、ていうか――)



 マリアはキバの方を見やる。


 黒髪に端正な顔立ちの美男子。


 一般人から貴族まで、男女問わずファン多しという設定に恥じないイケメンである。


 そんな彼を護衛として独り占めしてしまったら……



(貴族の女性ファンから何されるか分からないわね)



 新たな命の危機……その懸念を払拭したいマリアはおずおずとこう言った。



「なんで私なんかの護衛をキバ様ともあろうお方が申し出たのかわかりませんが……その――」



 そして深々と頭を下げる。 



「ごめんなさい」



 断られたキバは真顔のまま首を傾げた。


 まさか断られるとは思ってもいなかったのだろう、控えめに食い下がる。



「なぜですか? 竜族の力ですよ」


「そういうわけではありませんが……あの、せめて毛が生えていないとちょっと」


「…………毛?」



 突拍子もない条件にキバは思わず聞き返す。


 が、詳しく言えないマリアは困って口ごもり、そして――



「えっと、ヤタベエさんキバ様、モフ丸をありがとうございました。では!」


「わふ!」



 居心地の悪くなったマリアはキバとヤタベエに礼を言ってモフ丸を抱きかかえモンスター研究施設を逃げるように去っていったのだった。



「イケメンが護衛してくれるのは嬉しいけど……申し訳ないけど!」



 そして取り残されたキバは――



「………毛?」



 「毛」という単語を連呼していた。


 端正な美男子、その風貌が台無しになるほど哀愁が漂っている。


 かける言葉もなく困り果てるヤタベエ。


 そんな彼にキバは真剣な眼差しで尋ねだす。



「毛ってなんだと思いますヤタベエさん? カツラではないのですが」


「あ、アネデパミ卿……」



 カツラ云々と言われ、かける言葉がないヤタベエは狼狽えるしかなかった。



「さぁ気を取り直して! 育てるわよモフ丸!」


「わっふ~ん!」



 今日を期に、心を閉ざしたクール系竜族の王子が天然キャラにジョブチェンジしたなど……マリアの知る由では無かった。



 ※次回も明日19時頃投稿します


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