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魔法学園のために学校説明会を頑張ります⑧

 説明会が終わり、しばらく経った会場の外にて。


 黒服の男を引きずりながらイゾルデはひぃひぃ言っている。



「ま、まさかキバ……様が本物だったなんて。最初から勝ち目がなかったんじゃないか、大失態、大失態だ……」



 嘆くイゾルデ。


 そんな彼に引きずられている黒服が目を覚ました。



「いってぇ……」



 イゾルデは彼に向かって声を荒らげる。



「キミぃ! 何とかしてくれ! 大金払っているんだ! このままじゃ父に出資してもらったデルフィニウム高校に誰も入学しなくなるぞ!」


「うるせぇなぁ……痛いし騒がしいし最悪だ」


「え?」



 いきなりの暴言に理解が追い付かずキョトンとするイゾルデ。


 黒服は骨折の痛みをこらえ彼を突き飛ばすと恨み節と共に言葉を続けた。



「資格関係の優遇処置や組織に多額の投資をさせた時点でお前なんて用済みなんだよ……まだ利用価値があるかもと付き合ってやったがもう『切り』だ」


「な、何を! 金払っているのは誰だと思っているんだ! 契約しているのはこっちなんだぞ!」


「お前のような考え無しのアホに付き合って痛い目見たんだ、偉そうなこと言える立場か⁉」



 イゾルデはファッサーと前髪をかきあげながら憤慨する。



「き、キミぃ! さっきから雇用関係というものがわかっていないようだ……ぎゃぁ⁉」



 ザン! と、黒服は懐から取り出した刃物でイゾルデの前髪を切りつけた。


 イゾルデ自慢の前髪はパラリ宙を舞い風に吹き飛ばされる。



「あ、あわわ」



 雇用主だと先ほどまで強気だった態度はどこへやら、イゾルデは腰を抜かしてしまった。


 黒服はこの手の脅しに慣れているのか顔色一つ変えず続ける。



「上から言われているんだよ、用済みのお前は処分していいって」


「う、うぇえ? 処分って⁉」


「その辺は俺の裁量に任されているんでな、前髪だけじゃなく首根っこも切り飛ばされたくないなら今後は俺の言いなりになれ。それならば処分は ―」



 ガサッ ―



「誰だ!」


「きゃ!」



 足音のする方を鬼の形相で振り向く黒服。


 そこにいたのはなんとミリィだった。



「なんだいお嬢さん、こんな人気のないところを歩くなんて散歩かな?」



 友達のいないミリィ、一人になれる道を歩いていて不運にも鉢合わせしてしまったようである。


 イゾルデは僥倖とミリィに助けを求める。



「た、助けてくれ! 誰か呼んできてくれ! 頼むっ……ぎゃふん!」



 叫ぶイゾルデを黒服は蹴飛ばし黙らせる。



「おっと、そういうわけにはいかないな。運が悪かったなお嬢さん、ちょっと口をきけなくなってもらうぜ」



 そう言うと黒服は何やら呪文を唱え始める。


 禍々しい気配にミリィは後ずさり涙目になった。



「い、いや……」



 動揺し声も出せないミリィ。


 そこに一人の少年が駆けつけた。



「何していやがる!」


「ぐへっ!」



 飛び蹴りをかましたのはなんとジャンだった。



「あなたは隣のクラスの……」


「いくら自信を無くしていてもこんなの見過ごすわけにはいかねぇんだよ!」



 マリアのスピーチでちょっぴり元気になったのか「らしさ」を取り戻すジャン。


 黒服は泥を払い睨みつける。



「このガキィ……」


「悪いけど今はやる気に満ちているんでね、誰かのために頑張りたいと体が疼いてやがるんだ」


「正義漢ごっこか? 痛い目見てもらうぞ! 恨むなら自分の出しゃばりを ―」



 苛立つ黒服。


 そんな彼の言葉を制し新たな人影が現れた。




「あいや待たれよ、我はお主に恨みがありますぞ」




「え? 霧が……」



 驚くミリィたちの周囲に、どこからともなく霧が立ち込め、そして妖艶な声が響き渡る。



「神聖なる学び舎で刃傷沙汰……さっきの愚行と合わせて償ってもらいましょうぞ」


「次から次へと何だってんだ!」



 スッ ―



 霧の中から現れたのは濃い目のアイシャドウと墨で描いた傷跡、哀愁漂う顔つきのギンタローだった。



「貴様のせいで出番を失いし美少年! 参上!」


「出番って何だ⁉ 美少年⁉ どこがだよ!」


「だまらっしゃい! 今の暴言でさらに罪を重ねた! 美少年は怒りましたぞ!」



 マジ泣きするギンタロー、涙でアイシャドウが溶け出し奇怪な面構えになった。ホラーの権化である。



「多少遅くなっても待っていてもらえると思ったのが運の尽き、『りありてぃ』を追求しているさなか、まさか我より先にキバに襲い掛かる輩がいたとは我の目を以っても見抜けなんだ……」


「さっきから何言っているんだよ⁉」



 自分のいない間に話が進み、結果自分がいなくてもいい感じでマリアの評価が高まり、疎外感に苛まれているギンタロー。


 そんなことなど知る由もない黒服のいうことももっともである。



「我の悲しみわかるか黒づくめ!」


「わからねぇよ! まずはお前に我が組織に伝わる秘術をくらわしてやるぜ!」



 また再度呪文らしき言葉を唱えだす黒服。


 その仕草に見覚えのあるギンタローは待ったをかけた。



「ん? 組織? そしてその術は……もしや幻術ではあるまいか?」


「へっ! なんかそんなこと上は言っていたな! 何でもロクの地ってところで盗んだ秘術だってよ!」



 ギンタローは扇子を取り出し口元を隠すと鋭い目つきで黒服を睨んだ。



「ロクの地とな……」


「あぁ、地元の人間を騙して奪ったんだよ、言い伝えやら何やら使えるものは根こそぎ……」



 話している最中、トン、と黒服の額にギンタローの扇子が当たる。


 次の瞬間、恐ろしい量の火花が黒服の体中から発せられる……どうやら大量の電流が彼の体を駆け巡ったようだ。



「アババババ!」


「主の組織か……我がロクの地を……我の仲間を……」


「な、なんだ! 黙って俺の幻術を食らいやがれ ―」


「幻術返しじゃ」


「おぼ⁉」



 冷たい眼差しでギンタローは黒服を見やる。



「付け焼刃程度の幻術も返せねばロクの地の妖狐は務まらん」


「おぼ、ぼ」



 口がきけなくなるほどの恐怖に取り憑かれたのであろう、黒服は怯え逃げ出そうとした。



「こりゃ待たぬか、主には聞きたいことが山ほど ―あ、しまった時間が!」



 ボフン……



 先ほどからずっと大人化していたからであろう、ギンタローは元のちんちくりんキツネに戻ってしまった。



「む、無念! 『たいむりみっと』とは!」


「しゃ、しゃべるキツネ⁉」



 いきなり謎の男がキツネへと姿を変えジャンたちはひどく驚いた。



「……お、ぼ……逃げなきゃ」



 呆気にとられているジャンや腰を抜かしているイゾルデを後目に、這々の体で逃げ出す黒服。


 ここまできて逃がすまいとギンタローも追っかけようと試みるもアイシャドウが目に入り始め痛さで苦悶の表情になっていた。



「くわぁ! 目が! 目が!」



 策士、策におぼれる……自爆とも言うがのたうち回る子ギツネ。


 実にカオスな状況。


 そこにギンタローの絶叫交じりの悲鳴を聞きつけたマリアたちが現れた。



「何があったの……ミリィちゃんにジャン君、ってギンタローが黒い涙を⁉」


「その顔どうしたんですかギンタロー、まさか敵の攻撃で今まで動けなかったのですか⁉」


「わっふ⁉」



 自爆した自覚のある子ギツネは心配するモフ丸たちにバツが悪いようで口ごもる。



「いえ、これは敵の目潰し攻撃ではありません……『くおりてぃ』を求めた故の悲劇でございます」



 何のクオリティだかさっぱりわからないマリアはひとまず状況を整理することにした。



「あの、本当に何があったの?」



 ジャンに問いかけるマリア。



「えっと黒い服のやつが……そう言えばなんで襲ってきたんだ?」



 咄嗟にミリィを助けたジャンも状況があまり掴めず……というかヒッシと腕にしがみつくミリィをなだめるのに精一杯のようである。


 そこに助け船を出したのは ―



「それについてはボクが説明しましょう」



 腰を抜かしていたイゾルデである。



「イゾルデさん?」


「すべてはボクの慢心、そしてふがいなさが招いた不測の事態です」



 人が変わったようなイゾルデにモフ丸が疑問を呈した。



「わふ?」


「『何か変なものを食べたのか?』ですか? そうではないと思いますが……」



 イゾルデの心変わり、それはおそらく今し方殺されかけたからであろう。温室育ちのお坊ちゃんには十分な衝撃であろう。


 彼は隠すことなく自らの部下の裏切りを懺悔とともに説明し始める。



「 ―と、いうわけです。本当に申し訳ありませんでした」



 陳謝するイゾルデをミリィは許す素振りを見せる。



「頭を上げてください、イゾルデさんは悪くありませんよ。たまたまイゾルデさんが危ないときに私が通りすがっただけです。そのとき、ジャン君が助けてくれたんです」


「ジャン君が」



 あれだけ落ち込んでいたジャンがすぐに助けた ―


 根っからの主人公なんだなと感心するマリア。


 そんな微笑んでいる彼女にジャンはグワッと頭を下げる。



「マリア先輩!」


「え、あ、はい」



 いきなり大きな声で先輩と言われてたじろぐマリア。


 そんなことなど意に介さずジャンは思いの丈をぶつけた。



「俺……今まで何でもそれなりにできて、慢心していたんです!」


「は、はい」


「でも、親友のウルフに追い抜かれて……魔法でも負けて、やけになってずーっとウジウジしていました」



 その様子を出会ってから現在まで見せられていたマリアは今の快活なジャンに驚きを隠せないのであった。



(そうそう、こういうキャラでもあったのよね。ゲームじゃ正直なところのある熱血漢。忘れていたわ)



 逡巡するマリアをよそに彼は言葉を続けた。



「ぬか漬けの話を聞いて、俺、今まで両親に大切に漬け込んでもらったおかげで強くなれたのに、それを全部自分の力と過信していて、それでちょっと抜かされたから落ち込んで情けない限りです」



 伏し目がちに語る彼だったが、顔を上げ生気の宿った瞳を向けこう続けた。



「でも、先輩のスピーチを聞いて吹っ切れました! 今、同級生のミリィを助けることができたのも先輩のおかげです」


「ジャン君の力でもあるのよ、もっと自信もって。魔法学園で待っているから」



 落ち込まないようにそれとなく魔法学園入学を誘導するマリア。


 ジャンは子犬のように喜んだ。



「先輩あざっす! こんな俺ですが! 魔法学園に入学できるよう一生懸命頑張ります!」



 その言葉を受けウルフリックがジャンの肩を組み満面の笑みを浮かべる。



「ジャンが行くなら俺も行くぜ! ガキの頃からの付き合いで家族同然の親友だ! よろしく頼むぜ先輩!」


「しゃおら、優秀な人材ゲットぉぉ!」



 ウルフリックも入学すると聞きロゼッタは大いに喜ぶ……が、あまりに露骨に喜びすぎなのでサリーがそれを諫めた。



「会長、露骨に喜びすぎです。あれ見てください」


「んだよサリーちゃん、アレって……おぉう」



 サリーの指さす方を見てロゼッタは口元をヒクつかせた。



「俺なんてどーせ……」



 あまりに差のある喜びようにまたジャンが落ち込んでいたのだ。



「大丈夫ですよジャン君、私を助けてくれた時カッコよかったですから」


「カッコイイ? だよな! 落ち込んでいられないぜ!」


 ミリィのフォローにすぐさま調子を取り戻すジャン。


 その様子を見てマリアは何とも言えない表情だった。



(なんていうか情緒不安定キャラになっちゃったけどまぁいいか、うちに入学してくれるなら万々歳よ。なんかミリィちゃんと仲良さげだしジャン君たちを誘ってパーティすれば自然に来てくれそうね)



 とにかく最悪の事態は免れそう、あとはミリィの悪霊を払うだけ。


 ただ彼女は知らなかった、もうすでに彼女の中の悪霊は力を弱めていたことを。


 その原因は魂のこもった自分のスピーチにあったなんて知る由もなかったのである。


※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。


 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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[一言] やべぇ、ギンタローが面白不憫可愛すぎるwww
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