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魔法学園のために学校説明会を頑張ります⑤

「おや、これはこれは……魔法学園生徒会のお二人ではないですか」


「あ、あなたは?」



 ニヤリ笑ってソファーでふんぞり返りながら足組する不遜な男子。


 デルフィニウム高校生徒会長、イゾルデ・デルフィニウムであった。



「お初にお目にかかりますマリア・シャンデラ。新進気鋭の貴族、イゾルデ・デルフィニウムと申します。デルフィニウム高校の生徒会長を務めさせていただいておりまして、魔法学園さんとは追いつけ追い越せ、そして突き放せの関係でやらせてもらっています」



 その慇懃無礼で煽ってさえいるようなイゾルデにロゼッタは思うところがあるのだろう、頬杖をついて半眼を向ける。



「なーにが新進気鋭だぁ、資格の利権で暴利をふんだくって金で称号を得たくせによぉ」



 マリアたちがいない間、ちょっとした舌戦でもあったのだろうか呆れ顔のロゼッタ。


 イゾルデは悦に浸った表情で髪の毛をファッサーとかきあげた。



「おやおや、事実を言ったまでですよ。新進気鋭……古くさい慣習に我々を無理矢理当てはめ、成り上がりの下級貴族と蔑みたいのでしょうが、それは嫉妬というものですよロゼッタ君」


「嫉妬なわけあるかい」



 足を組み替え自分に酔っているかのようにイゾルデは続ける。



「ボクはねぇこう考えているんですよ。家柄も大事だけど時代は力! 上級だの下級だの関係ない、今どれだけお金を稼げるかが大事じゃありませんか。家柄で人は豊かにはなりません、えぇ」



 んちゅっと宝石の填められた指輪にキスをするイゾルデ。


 さすがのマリアもその行動には顔をしかめてしまう。


 その態度が気にくわないのかイゾルデは乱暴気味に髪の毛をかきあげるとマリアに詰めてきた。



「ん~マリア君。なんだいその顔は? 資格免許を取り仕切るデルフィニウム家に対して良好な関係を築くのがご息女のつとめじゃないのかな? 何度か顔を合わせた間柄じゃないか」



 家の事情を引っ張り出してマウントをとってくるイゾルデ。確かに貿易関係の利権で財を成すシャンデラ家にとって関係が悪化して船舶などの免許が剥奪されたら困る間柄である。


 が、そんな家庭の事情など良く理解していない転生者のマリアは彼に対して素直に苦言を呈した。



「すいません、家柄のことはよくわかりませんが指輪に口を付けるのは衛生的に良くないですよ」


「なぁ⁉」


「手を洗うとき指輪は外していますか? あと、ちゃんと指輪自体消毒しないと……」



 発想が基本お母さんのマリア、お腹を壊すようなことをしてはいけませんとイゾルデに忠告したのだ。これにはロゼッタもサリーもついつい笑ってしまう。



「へへへ、お母さんかよ」


「そうですね……ふふ、衛生的にですね」



 優しさからくる苦言と笑われたことに対してイゾルデはわかりやすく憤慨した。



「ぼ、ボカァ綺麗好きで通っているんだ! 清潔感で右にでるものはいないと自負しているねっ!」



 往生際の悪い言いわけにマリアは彼……イゾルデのワルドナに置ける役回りを思いだした。



(あ……このキャラ、イゾルデ・デルフィニウムって確か……)



 マリア・シャンデラ殺害の疑いを晴らすべく世界を旅するワルドナの主人公ジャンとその仲間 ―



 その不祥事を大事にして魔法学園の名声を貶めようと躍起になっていたのが生徒会長イゾルデ率いるデルフィニウム高校である。


 彼は問題が解決しないよう行く先々で勝負を仕掛けたり家の力を駆使し鉄道といった交通機関を規制し移動を妨げたり邪魔をしてくる ―メタ的な視点で言えばRPGにおける移動制限の理由付けキャラでもある。


 そんな移動に困ったジャン一行に手を差し伸べるのが各国に顔が利き飛空挺を所持している竜族の王子キバなのだった。



(しかもこの人、中盤あたり部下に裏切られて失墜するんだっけ? 親に誉められようと黙って変な組織を雇って地上げに手を出して失敗して……)



 ゲームを途中までしかプレイしていないマリアはその後までは知らない。もしかしたら改心シーンっとか見せ場の一つでもあるのかも知れないが……現状では「さんざん邪魔して落ちぶれフェードアウトする不憫なキャラの一人」という認識だ。


 そう考えるとイヤミ全開のこの少年も可哀想としか思えないマリア。



(しかもシャンデラ家と何度か交流があったって言っているけど「マリア・シャンデラ」の記憶の片隅にもないってことは興味も持たれていなかったのよねこの子)



 こんなイヤミな男よりキバにお熱をあげるのは至極当然であろうと大納得のマリアだった。



「こらこら、さっきから何を黙っているのかな? いまさらお互いの家の利害関係に気が付いたのかい?」



 ファッサーと前髪をかきあげるイゾルデを見て「これが最後かきあげる前髪もお金もなくなるのか」と思うと不憫で仕方がないマリアはついついお節介なことを言ってしまうのだった。



「あの、イゾルデさん」


「なんだいマリア君、ゴメンナサイかな?」



 謝罪の言葉が聞けるのかと鼻を膨らませる彼にマリアは真剣な顔で忠告する。



「あの、ご両親に黙って資格管理の独占を広げようとしたり鉄道会社を私物化したりしちゃだめですよ」


「ぬな?」


「怪しい連中にそそのかされたんでしょうが、いつか痛い目見ますよ。もっと素性の明らかな人を頼った方が……」


「ぬなな⁉」



 ゲーム中盤までしかやっていないマリアはその組織がどんなものかはわからない。RPGをよくプレイする人間だったら深読み先読み、ちりばめられた伏線で察してある程度目星がつくのだが……



 「怪しい連中」と形容しイゾルデに忠告するお節介なマリア。


 極秘裏に進めていることがバレていたことにイゾルデはわかりやすく驚愕した。



「ど、どうしてそれを知っているんだ⁉ 鉄道関係はいくらシャンデラ家でも……父上にも母上にもバレていないはずなのに⁉」


「あ、やっべ」



 ゲームをプレイしてでしか知り得ない情報をついつい言ってしまったマリアは自責の念に駆られる。


 黙ってその話を聞いていたロゼッタは相手の痛いところを知りニンマリと笑った。



「へぇ、親に誉められたくて実績欲しさにそんなこと黙ってやっていたのかい? 鉄道会社の私物化って、もしかして非合法に片足突っ込んでいるとか? そいつはバレたら大変だよなぁ」



 脅し文句のようになじるロゼッタ。


 痛いところをつかれたイゾルデは動揺するしかない。震える手で前髪をファッサーとかきあげマリアの方に向き直り文句を言い出す。



「い、いいのかな? そんなことを言って……ならばボクぁ君らを告発するぞ」


「告発?」



 突飛なことを言い出したイゾルデに首をかしげる一同。


 そんな態度も今のうちだとイゾルデは豪語する。



「そうとも、そこの彼にまつわる話だよ!」



 ビッシィ! と彼の指さす先には口を挟まず一部始終をずっと見ていたキバの姿があった。



「キバ様にまつわる話?」


「ふふん、他の人間と違い僕の目は節穴ではないんでね、違いがわかる男なんでねっ!」


「あの……言っていることが要領を得ませんが」



 苦言を呈するサリーにイゾルデは「まだ白を切るのかな」とまくし立てる。



「魔法学園はキバ様と懇意……そう世間に思わせるため用意した偽物だってことがね!」



 キバ・イズフィールド・アネデパミ。


 次期亜人の王が一貴族の執事になるという作り話でもちゃんちゃらおかしい……小説だったら秒で編集からダメだしされるこの状況。


 イゾルデは人間側の政治に口を出さないキバを良いことによく似た人物を雇い入れウソを吐いていると考えているようだ。



「急に何を言い出すんですか?」


「ボカぁ知っているぞ! この前バルバトス様にお会いしに行ったとき、執事服を着て漬け物の壷を持ってペットの散歩に行こうとしていたぞ! 次期亜人の王がそんなことするかぁ⁉ 似ている竜族の使用人をキバ様に仕立て上げるなんて言語道断さ!」


「あぁ、なるほど……」



 サリーは「さもありなん」とイゾルデに同情する。


 実際、執事になったキバの経緯を知らなかったら、自分が同じ立場ならそう思っても仕方がないという共感を覚えた故の同情だった。


 イゾルデはそんな同情の眼差しなど意に介さず不敵に笑う。



「ふふん、説明会の日程がかぶるなんて運がいい。今日それをつまびらかにさせてもらおう。誠実なデルフィニウム校と君らとの差を明らかにしてみせるよ」



 彼は落ち着きを取り戻したのかゆっくりと前髪をファッサーとかきあげ応接室から出て行った。



「やれやれ、面倒な人が絡んできましたね」



 嘆息するサリーにロゼッタは「まぁそういうねぇ」とちょっぴりイゾルデを汲む態度を見せた。



「うざってぇヤツだけどよ……話を聞いたらアレじゃねぇか、あいつも学校の生徒会長として苦労しているから突っかかって来ているんだ。ちょっとだけ同情するぜ」


「はぁ、そういうものなんですね」



 色々あるんだなとマリア。ロゼッタは「そうなんだよ」と愚痴交じりで唸る。



「アイツは空回っちゃいるけど一人前と認められたいってのだけは理解できるぜ、それ以外は理解したくてもできないけどな。学生の資格を自分の学校で独占したりとか……あとあの前髪ちょん切ってやりたいぜ」


「アハハ、それ私も思いました」


「それにまぁキバ様が本物云々の件は疑うなってのが無理ってもんよ。普通なら執事になんて話、信じやしないって」


「アハハ、どっちも同感です……どうしてこうなったんだか」



 そのせいでややこしいことになっていると苦笑いするマリアはチラリ、キバの方を見やる。


 キバたちは先ほどのイゾルデのことなど気にも留めず、何やら作戦会議を始めていた。




「妙な邪魔が入りましたが作戦会議を続けましょう」


「わふ」


「然り、まずキバとマリア殿が壇上にいる時に我が変化の術で不審者となって登場、キバをこれでもかとぶん殴る」



 大振りでフックのジェスチャーをするギンタローにモフ丸が苦言を呈した。



「わっふ……」


「フリだけでいいとモフ丸君が申しておりますが」


「いえいえ、これは『りありてぃ』の追求ゆえ、多少の痛みは伴うものだと考えてですが……まぁモフ丸殿に免じてフリだけに留めましょう」



 やや不満気味のギンタローをスルーしてキバは淡々と会議を続ける。



「そして私が倒されたフリをした後、ギンタローはモフ丸君に倒される……マリア様がモフ丸君に上手に指示を出せる一流モンスターテイマーとして認知してもらう流れですね。モフ丸君、マリア様のためにギンタローをボコボコにしてください」


「わっふ……」


「フリだけでいいとモフ丸殿は申しておるぞ」


「マリア様の強さや素晴らしさを皆に知っていただくためなら流血の一つや二つ……一ガロンがダメなら1リットルでもと思っていましたが……まぁ床が汚れてしまうのは後々大変ですからね」


「不穏な単位が耳に飛び込んできたが……『がろん』とか余裕で失血死に至る量じゃぞ」



 ちなみにガロンは大体3・78リットル。体重50キロの人間の失血死量は約1・2リットルなのでリッターでも生命の危機といえるだろう。


 閑話休題。



「見事美麗な悪漢を倒したマリア殿、皆がほめたたえてマリア殿も魔法学園も評価は鰻登り」


「衆目の集まる中でモンスターテイマーの資質をイゾルデ某に見せつければテイマーの許可を認めずにいられないでしょう」


「わっふ!」


「その通りですモフ丸君、評価も資格も一挙両得ですよ」




  ―わふわふ、もふもふ、喧々諤々……




 なにやらヒソヒソ話し込んでいる彼らを白い目で見るマリア。



「変なことを企んでいなければいいのだけど」



 その眼差しは悪戯好きの甥っ子姪っ子をみる叔母の目であった。



「まぁいいじゃぁねぇか、それよかスピーチの件よろしく頼むぜ」


「う、はい……」



 キバたちの話も気になるが目下の問題はスピーチ。マリアは「カンペがあっても緊張するわ」と頭を抱えだしたのだった。






 一方、応接室を逃げ出したイゾルデは人目に付かない校舎の裏で黒服の男に神妙な顔でなにやら指示を出していた。



「予定通り作戦を決行する、段取りは覚えているだろうね」



 ガッシリとした体躯の強面……大統領のSPを彷彿とさせるような黒服男性は静かに頷く。



「はい、学校説明会中にキバの偽物に襲いかかり化けの皮を剥がす……ですね」


「あぁそうだ。ちょっと似ている色黒のカッコいい男を連れてきて『キバ様が執事に』だぁ? 冷たく人間に無関心と言われている竜族の王子の性格を逆手にとってシャンデラ家め……サイファー公国魔法学園もろとも名声を地に落としてくれる!」



 鼻の穴を広げて息巻くイゾルデは憤りそのままに黒服へ檄を飛ばす。



「君たちには法外なお金を払っているんだ、ミスは許されないからね。非合法な君らの組織がボクの後ろ盾を無くしたら明日から路頭に迷うことになるのを忘れずに」


「……はい」



 それだけ言い残すと前髪をファッサーかきあげこの場を去っていくイゾルデ。


 黒服の男は微動だにすることなく去りゆくイゾルデの背中を目で追っていた。


 姿が見えなくなると黒服の男は唾を吐き口元を歪める。



「成金のガキ風情め……自分が利用されているとも知らない頭お花畑のくせに……」



 悪態ついて舌打ちをした黒服は何を思うか悪い笑みを浮かべた。



「デルフィニウム高校に出資させた時点でもう用済み……利用価値が無くなったと判断したらいつでも『処分』していいとは言われていたな。今度偉そうなことを口走ったら教育してやるか、悪い大人を信じたら痛い目見るってな」



 なにやらイゾルデサイドはイゾルデサイドで不穏な空気を醸し出しているようで ―


 そしてまさかのキバ暴行かぶり……様々な思惑の交差した学校説明会が今始まろうとしていたのだった。

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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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