魔法学園のために学校説明会を頑張ります③
サイファー公国第一中等学校。
ワルドナの世界でも私立や公立など区分けがされているがざっくり説明すると公立は「平民から貴族まで分け隔て無く通える学び舎」をうたい、私立は「一芸を極めたい専門的な学校」や「貴族のみの選ばれた人間が通う学校」との意味合いが強い。
一見「分け隔て無い学び舎」の公立の方が平和そうに思えるが「貴族に尽き従う小姓」「成り上がりを目論む平民」「下級貴族の称号を得たての商人の子」など人間関係がドロドロしていることも少なくはないという。
(ゲームじゃ小耳に挟む程度だけどこの世界で生きるとなると面倒な設定よね。貴族に合わせた食堂とか割高になりそう……だとしたら毎日お弁当確定よね)
転生してもお母さん気質のハセマリは人間関係よりお弁当事情の方が気になるのであった。
校舎に向かう道をキバたちと歩くマリア。
そんな彼女らの目に不思議な光景が飛び込んできた。
「なんでしょう……キバ様、あれ見えますか?」
「竜族の視力は伊達ではありません、少々お待ちください」
「いやはや覗きに役立つ眼じゃな」
「ギンタロー、お静かに」
皮肉を言うギンタローをたしなめながら軽く目を凝らすキバ。
「あれは横断幕ですね」
「なんて書いてあるのでしょうか?」
「…………えっとですね」
言いにくいことが書かれているのか、少し口ごもった後、キバは横断幕に書かれてある文句を告げる。
「歓迎キバ様ご一行WITH生徒会様……と書いてあります」
「あ、そっすか、ごめんなさい」
あまりに露骨な文章とそれをキバ本人に読ませたこと……マリアは聞くんじゃなかったと後悔した。
「なんて言うか、完全にキバ様のオマケですね生徒会」
「あぁ、ちぃとばかりキバ様の人気を侮っていたぜ」
ここまで露骨かとマリアだけでなく後からきたサリーとロゼッタも放心状態である。
(旅館とかの看板で「歓迎○○様、他」の他で纏められた気分ね)
改めてキバという存在がチートじみているんだなと実感するマリアだった。
さて、完全にキバメイン……マリア、ひいてはサイファー公国魔法学園のアピールどころかキバしか記憶に残らないのではと危惧し始めるロゼッタたち。
一方でこの状況で俄然やる気を見せるのはキバたちだった。
「ふむ、まだマリア様の素晴らしさが世に浸透していないようですね」
「そうであろう、自分のことをひけらかさない美徳の持ち主でもあるからな」
「わふ」
「モフ丸殿の言うとおりですな、我々がマリア殿の魅力を伝えねばなりますまい」
「イゾルデ何某にモンスターテイマーの資格を認めさせるため、腕が鳴ります」
「わっふり」
「何か企てているのが逆に怖いんだけど」
変に気合いの入っているキバたちを見て無性に心配になるマリアだった。
近づくにつれ横断幕の「キバ様」のフォントが気合いの入った達筆であることにさらに不安を覚えつつも中等学校に向かう生徒会一行。
その横断幕の下で手を振っているのは先日出会ったウルフリックだった。
「お? おぉ⁉」
見知った顔を見かけドスドス笑顔で駆け寄る少年。まるで人懐こい大型犬である。
そしてガッシリとキバの肩を掴んで歓迎するウルフリック。まるで捕食するかのような勢いなのは否めない、小さな女の子だったら泣いてもおかしくないだろう。
しかし見知った間柄だからかキバは驚く様子も見せず、むしろうっすら微笑みを浮かべていた。
「お元気そうですねウルフ君」
「おう、キバさんも飯食ってっか⁉」
「えぇ、マリア様の美味しい料理を毎日いただいておりますよ」
さて、キバを歓迎しに並んでいた他の学生面々はこのやり取りを見て大いにたまげることになる。
「う、ウルフの奴、キバ様とあんな親し気に……」
例えるなら政治家とマブダチのような振る舞いを平然としてみせたウルフリック。
周囲が羨望を通り越し畏怖交じりの眼差しで見てしまうのは仕方のないことだろう。
この様子に驚きを隠せないのはマリアである。
(えーちょっとちょっと、ゲームの中じゃ見たことない光景よ)
ワルドナに触れた彼女にとってあり得ない光景だった。
ウルフリックは大きく分けるとボケの役回りでありギャグ寄りのムード&トラブルメーカーとして描かれている。
が、それが今では大物キャラとマブの関係……周囲の扱いの変わりようを目の前にして驚くマリアだった。
(まぁ有名人と知り合いってだけで学生だったら羨望の的だもんね。妙にリアルというか、ウルフ君がマウント取るタイプじゃなくてよかったわ……あら?)
羨望の眼差しを送る学生の中、しゃがみ込んでいる学生が一人。
「……俺なんてどーせ」
ワルドナの純正主人公ジャンである。
(ってジャァァン! まだ尾を引いているの⁉ 引きすぎじゃない⁉ あなた主人公でしょ⁉ そんなキャラだっけ?)
実は打たれ弱かったのかと目からうろこのマリアだった。
この状態で大精霊の導き手になれるのか……ちょっぴり不安になってきたところにヒロインのジルが登場する。
「こらウルフ! いきなり走ってびっくりするでしょ!」
「おぉ、そうか! 次は宣言してから走るぜ!」
「走るなっての!」
しっかり者の彼女だけは変わらずにいてくれてマリアは安堵の息を漏らした。
そしてしゃがみ込むジャンを流れで叱責する。
「ほらジャンも立ってシャキッとして! せっかく学校説明会にきてくれたんだし」
「いいんだ、俺なんてどーせ、どの学校に受かっても要らない子扱いされるんだ……」
「そんなのわからないでしょ! 魔法学園がダメならデルフィニウム高校だってあるでしょ、あそこ資格が強いから就職に困らないわよ」
(いやそれは勘弁して! とりあえずウチの学園に入って! ゲームのストーリー的に!)
主人公がゲームの舞台となる学園に入らない……
イレギュラーの危機は未だ継続中、なんとかして彼らを魔法学園に引き込まねばと気を引き締めるマリアだった。
「わうふっふっ!」
そんなジルの凛々しい姿に惹かれたのかは知らないが、モフ丸が彼女の足元に駆け寄りぐるぐる回りだす。
「あら久しぶりモフ丸君」
「わっふり!」
今日も妙に懐いているなぁと不思議に思っている中、どさくさに紛れてキバファン女子が彼を囲いだした。
「キバ様こっち向いてください」「今日は学校説明を手取り足取りお願いします」「キバ様の説明もできればっ!」
もみくちゃにされるキバだが慣れているのか相変わらずの真顔でファンをさばいていく。
一方通勤ラッシュのような人波から逃げ遅れたギンタローはアップアップの表情。何とか隙間から這い出し満身創痍でマリアの元に逃げ出した。
「うぬ、若者のパワー……たまりませんな、我もまだまだ若いけどっ!」
「アハハ」
「わふふ」
若さアピールを欠かさないギンタローについ笑ってしまうマリア。
「オイオイ、落ち着け中坊ども」
「はいはい、適切な距離を保って、あとで握手する時間を設けるから」
見かねたロゼッタとサリーが握手会の剥がし役よろしくキバの警備役を買って出ることになる始末。皆の憧れの的であるサイファー公国魔法学園生徒会もキバの前ではその憧れが霞むようである。
「この様子を見たらいい人材が来てくれるか怪しい物ね」
「わっふ」
いい人材どころかキバ目当ての危ない輩の方が割り増しできてしまうのではと不安視するマリア。むしろキバが来なかった方がいいまであるのでは? と、考えてしまうくらいである。
「これでライバルのデルフィニウム高校には人材確保という点では一歩リードかしら。でも……」
マリアは考え込んだ。
たとえ生徒数を確保しても肝心のジャンやウルフリック、ジルが入学しないかもしれない問題は続いている。
そう生徒会の仕事がうまく行き、ミリィと接触して悪霊を払っても主人公たちが魔法学園に入学しなかったら意味はないのである。
「とにかくやれることをやるだけね。ライバル校より良いところだと、キバ様だけが売りじゃないってことを三人にもしっかりアピールしないと」
決意新たなマリアは鼻息を荒くした。
一方、その当人、キバはというと……
「ふむ、やはりマリア様の素晴らしさはまだ伝わっていないようですね……今日は頑張りませんと」
こちらもまた、変な闘志に火が付きだしていたのであった。
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