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魔法学園のために学校説明会を頑張ります②

 サイファー公国、魔法学園生徒会。


 何人もの政治家や魔法省の要人、国宝級の冒険者や大聖人を輩出してきた実績を持つ学生組織である。


 生徒会に所属すること、それ即ち国家要人への登竜門をくぐることと呼ばれて久しい。


 特に生徒会長、書記、会計など役職を担うことはエリートの道を約束されたようなものであり一種のステータス、羨望の眼差しを受けること必至とも言われている。


 少し話はずれるが政府や各省庁の生徒会OBは「千刃会」という組織に所属しそのつながりも深い。規模も権力も最大規模、その強大すぎる性質が故に一部の人間からは反感を買うほど。


 閑話休題。


 魔法学園の生徒会は憧れの的であり現役の生徒会役員は一種のアイドルと思われている節がある。


 そのアイドル集団のトップと新進気鋭のメンバーが一路、馬車に揺られて街を進んでいた。



「シャンデラウチの馬車も豪華だと思っていたけど、この馬車もすごいわね」



 マリアは馬車内の幾何学的な壁紙を眺めながら唸っていた。


 内装もさることながら目を見張るはその広さ、特急列車の個室レベルの快適空間。向かい合わせの席を挟んでテーブルが設えられており足元には氷冷蔵庫で冷やされたドリンク類も完備されていた。


 その巨大な馬車を悠々と引くは二頭の巨大な馬。


 ロゼッタの実家、ミルフィーユ家の誇る軍事用移送馬車である。


 物々しさに驚嘆するマリアの前にいるロゼッタが嬉しそうに笑っていた。



「まぁなぁ、国の要職に就いている爺様の馬車だ。ここで歴代の防衛大臣やらが前線に向かいながら作戦を練っていたと考えると感慨深いよなぁ。な、サリー」


「え、えぇ」



 熱を帯びるロゼッタの爺ちゃんっ子ぷりに若干引き気味のサリーであった。


 そんな馬車に揺られるロゼッタ、サリー、マリアといった生徒会の面々。


 もちろんこの他にも生徒会の人間はたくさんいて末端を含めると五十人ほど存在すると言われている。


 中学への学校説明会に会長といった役職の人間が出向くことはまずない。ではなぜ他のメンバーではなく新参である自分が連れてこられているのか……マリアは居心地の悪さを覚えていた。


 そしてそんな彼女の隣に当たり前のように座っているのは ―



「実にしっかりとした造りの馬車ですね、ちょっとしたモンスターが突進してきてもビクともしないでしょうね」


「わっふぐ」


「モフ丸殿、牛革シートをジャーキーと思って噛もうとしてはなりませんぞ。お腹が酷いことになる未来が見えまする」ヒソヒソ


「わふ」


「なになに? 『好奇心猫を殺すと言うけど自分は猫じゃないから問題ない』と……確かにモフ丸殿はコボルトですが油断大敵とも言いますからな」ヒソヒソ



 キバ、モフ丸、ギンタローといったいつもの面々が同行しているからである。


 生徒会の一仕事に執事を同行させることをロゼッタから要求されたマリアは「キバ様が必要な面倒事があるのでは」と勘ぐりだす。



「あの、サリー、心配なんだけど」


「心配? 大丈夫よマリア。あなたならしっかり仕事できると思うし中等学校での学校説明会ならばっちりできると信じているわよ」


「そっちじゃなくて、こっちの方なんだけど」



 こっちと言ってマリアの指さす方にはキバたちの姿が。


 「あぁ」と表情を濁らせ答えにくそうにするサリーの代わりにロゼッタが割って入ってきた。


「何か不安でもあるのかい?」


「ま、まぁ……超有名人のキバ様が中等学校にやってくる。生徒たちは大騒ぎになりませんかね」



 初めてキバを連れて登校したあの日を思い出し、今日も好奇の視線に襲われるであろうことは想像に難しくない、なんなら熱狂的ファンに刺されることもあるかもしれないと恐々としてしまうくらいだ。


 キバの人気にあやかって有能人材を大量に確保したいロゼッタはマリアの膝を軽く叩いて不安を紛らわせようとする。



「大丈夫だっての、学校にゃ連絡入れてあるし、ちょいと騒ぎにゃなるけど大事にはなんねぇだろうよ」


「大騒ぎになる前提で連れて行くなんて、何かあるんですか?」



 呆れるマリアにサリーが補足する。



「毎年志望率トップと謳われているサイファー公国魔法学園なんだけど、デルフィニウム高校の資格独占騒動であっちに生徒が流れていく噂が絶えないのは知っているわよね」


「あぁ、そうだったわね」



 マリアはワルドナをプレイしていた時のことを思い出していた。


 主人公たちの旅の途中、サイファー公国魔法学園に対抗するためにデルフィニウムとかいう学校の人間が絡んできて大変だったことを思い出す。



(そうそう、それで移動がままならなくなり困っていたところ鉄道やら船舶やらに顔の利くキバ様を頼ることになったのよね)


「?」



 何故こちらを見たかわからないキバはモフ丸を撫でながら小首をかしげる。


 天然なキバの表情を目にして気を取り直したマリアは話を元に戻す。



「つまり、キバ様の知名度を利用して生徒にアピールしたいわけね」



 そこまで言ってマリアは渋い顔を見せた。


 彼女の心中を察したロゼッタは「ちょいと違うぜ」と笑ってフォローする。



「半分は当たっているかもな」


「はんぶん?」



 問い直すマリアにロゼッタは腕を組んで唸る。



「おうともよ、何てったってオイラが一番アピールしたいのは他ならぬマリアちゃんだからよぉ」


「わ、わたしぃ⁉」



 驚くマリアを見て微笑みながらロゼッタは意気揚々と語り出す。



「キバ様が慕い、テイマーの資格を取る前にモンスターを二匹も従える器量。これをアピらねぇで何をアピるんだい?」


「え、いや、会長は現防衛大臣バルバトス様のお孫さんですし……」



 そのことについてロゼッタは頬を掻き馬車の外を見やる。


 流れる雲を見やりながら嘆息交じりでマリアの疑問に答えた。



「大臣の孫ってのは要するに『生まれ』よ、普通の人じゃなりたくてもなれねぇ。こっちの苦労も知らねぇで運が『良いだけ』なんてくさす連中もいやがる」


「会長……」



 色々とそばで見てきたのだろう、サリーは心配そうに彼女を見ていた。


 心配かけまいとロゼッタはニヤリと笑ってみせる。稚気あふれる笑みは年相応の少女のそれだった。



「だけどマリアちゃんは自分の手で成し遂げたモンがある、少年少女が憧れるに必要な資格を持っているのさ。聞いたぜ、オイラが不在の時色々学園で問題を解決してくれたそうじゃねぇか」


「それは成り行きで……」


「今じゃあマリアちゃんのほうが生徒会長っぽい、ロゼッタ会長はマスコットでとかいう輩もいやがる……いやほんと、未練はないぜ、譲ってもいいくらいだ、もうちょい後でな」



 未練たらたらなロゼッタはさておき、マリアをアピールしたい……かの竜の王子であるキバを協力的にさせる彼女の方便でもあるが本心であることもうかがえる。


 しかし、その「マリアを推したい」本音交じりの熱いメッセージはキバの胸に響いたらしく、彼のトレードマークである冷めた眼にほんのり灯がともった。



「マリア様の素晴らしさを未来を担う若者たちにアピールする……なるほど、実に有意義ですね」


「いや、有意義も何もそれじゃ……」



 学校説明会ではなくマリア・シャンデラ説明会になってしまうだろうとツッコみたくなるマリア。


 が、マリアの心配などどこ吹く風。キバだけでなくモフ丸とギンタローもその使命に大いに盛り上がる。



「というわけでモフ丸君、マリア様の素晴らしさを存分にアピールしましょう」


「わっふ、わふふ!」


「なになに……『早く言ってくれれば資料を作成したのに』ですと? モフ丸殿は『敏腕ぷれぜんたぁ』ですなぁ」ヒソヒソ



 盛り上がりすぎて口を挟めずにいるマリア。


 困り顔の彼女を見てサリーが「ごめんね」と小声で謝る。


 サリーの苦慮がわかってしまったマリアは苦笑いを返すしかなかった。


 その流れでマリアはサリーに気になったことを尋ねる。



「ところでサリー、ここってあなたの母校?」


「そうよ、私はここの卒業生でこの前見学会にきたウルフリック君やジルちゃんも一緒よ」


「なるほど、んじゃあ最近インプション家の養子になったミリィちゃんも通っているのかしら?」


「えぇ、三年の半ばだけど編入してもらったわ ―」



 サリーは姿勢を正すとマリアに問い返す。



「ところで、なんでウチのミリィちゃんがそこまで気になるのかしら?」


「あ、いや……元々シャンデラ家の養子になる予定だったから気になって ―」


「それだけじゃあ無い気がするのは気のせいかしら?」



 上手く誤魔化そうとしたマリアの言葉を遮って質問をかぶせるサリー。


 大精霊の導き手かもしれない……その可能性を確認するため真摯に問う彼女、ロゼッタも聞き耳を立てている。



「差し支えなければ教えて欲しいのだけど ―」



 ガタ……ゴト……



 ちょうどその時、目的地に着いたのか馬車が止まる。


 ここぞとばかりにマリアは会話を切り上げ馬車の外へと飛び出した。



「おっと、着いたわね! この話はまた今度! さー生徒会として頑張るわよ!」


「んわっふ!」



 わざとらしく張り切るマリアは脱出するように馬車から飛び降り、モフ丸たちも彼女に続いた。



「あ、ちょ……」



 馬車に取り残される形になったロゼッタとサリーはお互いの顔を見合わせる。



「あの慌てよう」


「やっぱり例の件に気が付いているとしか思えませんね。そして……」



 マリアが大精霊に導かれし者説が現実を帯び始め二人は何ともいえない顔をするのであった。

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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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