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生徒会のお仕事中に本編主人公たちと遭遇しちゃいました④


 そして、マリアがやる気を出してから数日が過ぎた ―


 ロゼッタは生徒会室でぐったりしながらイチゴミルクをチビチビ堪能していた。



「ふぅ、やれやれ」


「会長、オヤジみたいな飲み方はやめてください」



 たしなめるサリーの言葉など意に介さず、額をピシャリと叩くロゼッタ。


 ちびっ子ゴスロリ系女子生徒だが言動は町中華で一杯やる親父のソレである。


 彼女はピンク色の液体を上唇に付けたまま口をとがらせる。



「おいおい、頑張っているオイラをねぎらっちゃくんねぇのか。学園の評判維持のため必死に走り回っているオイラによ」


「知っていますよ、私も生徒会の一人なんですから」


「おっと、そりゃそうだ。失敬失敬」



 アルコールの入っていないくせに絡みにくい親父と化しているロゼッタに対しサリーは同情の眼差しを見せた。


 学生ながら絶大な権力を持つ魔法学園生徒会、所属するだけでエリートと羨望の眼差しを受ける彼らのことを疎ましく思っている連中も少なくはない。


 多方面から資質を問われていたロゼッタは自分の技量を示すため、防衛大臣バルバトスの孫である立場を極力利用せず生徒会長として奮闘していた。


 しかし、デルフィニウム高校に有能な人材を根こそぎ奪われるかも知れない瀬戸際だと自覚のある彼女はそのポリシーもなげうち学園の評判維持のために奮闘していた。



「で、オイラが駆けずり回っている間、学園の方はどうだい」



 そのことについてサリーは笑みを浮かべた。



「会長不在の間、生徒会を快く思っていない連中が無理難題を言ってきましたが……」


「ほうほう」


「マリアが全部何とかしてくれました」


「そうか、感謝するぜサリーちゃ……え? マリアちゃんが?」



 驚くロゼッタは思わずイチゴミルクを吹き出した。


 そう、ロゼッタが学園外で奮闘している最中、会長の代理として活躍していたのがサリーではなくマリアであった。


 「仕事が一段落したらサリー宅でホームパーティ」を目的に彼女は生徒会所属早々、八面六臂の活躍を見せてくれたのだ。


 サリーは雑巾で噴出したイチゴミルクを拭いたのち、手元の資料に目を通しその実績を口にする。



「予算つり上げの各部活の諍いを納め、校内の上級貴族による下級貴族いじめは減少。プリム・ルンゲル先輩も下級貴族いじめの撲滅などマリアに協力しているとか」


「なるほどな、特に率先してマウントかましていたプリムちゃんがイジメを止める側に回ったら、そりゃデカいぜ」


「はい、先の体育祭から何か思うところがあったのでしょう。良い傾向です」



 そう、下級を蔑んでいた上級貴族の一人プリムが下級貴族を擁護するようになったのだ。


 本人曰く「生まれがすべてではない。一人の人間として正面からぶつかってわかるものがある」と、まるで武人かのような思考を持つようになり周囲は面食らっている。


 その切っ掛けになったのではと憶測されるマリアの評価はグイグイあがり彼女の一声で生徒会を快く思っていなかった下級貴族の生徒も素直に従うようになったようである。


 ロゼッタは感嘆の息を漏らす。



「オイラやサリーちゃん、生徒会所属にゃ上級貴族が多いからなかなか素直になってくれない連中もいたが……」


「プリム先輩を諫めた実績を持つマリアの言葉は素直に聞けるんでしょうね」


「上級貴族と下級貴族の垣根を取っ払おうと考えている思いを口で説明するだけじゃダメだったってこった。いやいや、この年で勉強になるぜ」



 生徒会に協力的な生徒が増えて万々歳といった表情のロゼッタ。


 ただ、サリーには喜びの反面、ちょっとした懸念が拭えないでいた。



「えぇ、でも。生徒会に協力的な生徒が増えた……それは紛れもない事実です。ですが ―」


「ですがなんでぇサリーちゃん」



 ソファに腰を深く落とすロゼッタにサリーは芯を食ったことを伝える。



「ぶっちゃけますと、最近協力的になった生徒の大半は生徒会と言うよりマリアに協力的なだけのような気がしますが」


「あぁ……」


「今、ロゼッタ会長よりマリアは生徒会長をしています」


「うすうす感づいちゃいたけど、それは言わない約束だろ」



 ロゼッタはイチゴミルクを飲み干すと真顔でマジレスした。薄々感じていたことを言語化されてさっきまでの笑顔はどこかに吹っ飛んでしまったようである。


 彼女は額に手を当て天を仰ぐとソファーにもたれ掛かったまましゃべり出す。



「いや、別に今すぐ譲ってもいいんだぜ生徒会長の座。でもオイラだって一生懸命学園のために駆けずり回ってたんだ」


「未練たらたらな感じ満載ですが……ところでいったい何をされていたんでしょうか」


「おう、ちょうど今話が付いてよ、そのことについて報告しに来たんでぇ」



 深呼吸した後、ロゼッタは可愛い顔を引き締め仕事モードの表情でサリーの方を見やった。


 これから何がいいたいのか何となく察したサリーは手を組んでロゼッタの顔をつぶさに見つめる。


 ロゼッタは机に身を預けサリーの顔に肉薄し、こう続けた。



「サリーちゃん、お前さん出身中学で今度学校説明会があるだろ」


「はい、確かデルフィニウム高校と一緒にやる予定でしたよね」



 それが何か? と、首をかしげるサリーにロゼッタはある考えを提案した。



「そこによ、マリアちゃん……そしてキバ様を連れて行くことにした」


「き、キバ様を⁉」


「あぁ、連中と直接対決するいい機会だ。ここで完膚なきまでに差を付ける!」


「あ、もしかして会長が走り回っていたのって ―」



 ロゼッタが駆け回っていた理由にピンとくるサリー。


 彼女は机をパシンと叩いて熱弁する。



「おうとも、中学校の方や多方面に根回ししてきた。キバ様を利用しちまうことに対して波風立たないようにな」



 やや強引な作戦にサリーはちょっぴり顔をしかめた。



「良い案かと思いますが、彼を利用するのは少々気が引けます。きっとご本人はそういうことを望んではいないでしょう」


「だからマリアちゃんだ、彼女の執事としてもれなくついて来るだろ。それに別のつながりがあるだろ、素敵な偶然のつながりがよ」



 粒立てて言われ、サリーはなるほどと得心した。



「ウルフリック君ですね」


「おうよ、注目株のあの少年とキバ様のつながり、利用する ―っと、大事にしない手はないぜ」



 へにょ ―



 指をパチンと鳴らそうとするも失敗するロゼッタ、なかなか鳴らず悪戦苦闘し続ける。



「……あの」


「……十回に一回は鳴るんだよ。まぁちょいと打算的かと思うけど背に腹は替えられないだろ」



 気を取り直しサリーは話を戻す。



「全力で青田買いして魔法学園をデルフィニウム高校に負けないようにするということですね」



 資格独占というあくどい手法を使うイゾルデに対抗するべく自身のコネクションをフルに使ったロゼッタ。


 防衛大臣の孫という立場を利用したくなかった彼女がこんな手段に出るほど「イゾルデには負けられない」と意気込んでいる証拠でもあった。


「あとジャンとジルって子も確保したいぜ。どっちも逸材だけどウルフリックは群を抜いていやがる、こっちを最優先で確保だ。少々おつむが悪いが今からみっちり鍛えりゃ大らかな性格のいい役人になるぜ」



 ロゼッタがどことなく自分のお爺さんに似ている剛胆さに好感を持っているのだろうと感じ取り、サリーは深く頷いた。



「性格もですがあの年齢で上級魔法の数々を修得しているのは脱帽ですね、若干魔力不足で本領を発揮できていませんが魔力さえ伴えば魔法関係の要職を選び放題かと」


「あの図体に似合わずなぁ、頭は悪いが魔法に対する理解があるんだろうな、素直だから」


「独学みたいなので魔法学園生活で魔力を高めてくれるかと、そうすれば彼の代の生徒会は安泰でしょうね」



 ロゼッタは「おうとも」と先の明るい話に上機嫌だ。



「あと平民出身ってのがデカい」


「上級貴族下級貴族のいざこざに中立の立場をとれる人材ですからね」



 生徒会の役職候補として申し分ないと唸るロゼッタとサリー。


 しかし、そのウルフリックは魔法の才能など欠片もなく、キバによるチートで授けられたリアル「猫に小判」なことは知る由もなかった。


 サリーは姿勢を正しロゼッタに決意を新たに伝える。



「会長のお考えはわかりました、生徒会役員サリー・インプションとしてデルフィニウム高校に負けないよう尽力するつもりです」



 よくぞ言ってくれたとロゼッタは口元を緩める。



「ありがとうよ。質実剛健なお前さんと、最近『サイファー公国魔法学園のモフモフ女番長』の異名がつき始めているマリアちゃんが来てくれりゃ怖いものなしだ」


「さらにキバ様が一緒に出向けば、アイドルが慰問にきたような盛り上がりでしょうね」


「特にキバ様は男女共にモテる、それは超がつくほどの『旨味』だ。『キバ様に会える』『キバ様みたいな男性と出会える』『キバ様のような男になれる』って、まだ見ぬ逸材がこぞってうちの学園を受験してくれるだろうぜ」



 ロゼッタに「計算高いな」と感服するサリーだった。



「なんていうか釣り広告のような気がしますが」


「雑誌の裏にある札束いっぱい入ったバスタブの中で美女侍らせているアレかい? 何言ってんだサリーちゃん。キバ様がバスタブいっぱい程度の札束と美女で釣り合うと思ってんのかい?」


「失礼しました、次期亜人の王と懇意になれる。札束や美女で近づけるなら政治家の大半は彼と親友になっています」



 サリーは一拍置くと小さくため息をついた。



「そんなお方をあろうことか執事として従えているマリアはいったい何なんでしょうね」


「こっちが聞きてぇよ」


「……」


「どうした、サリーちゃん」



 そこまで言ったサリーは少し無言になると真面目な面もちになる。



「会長、話は変わりますが……私のマリアに対する見解をお伝えしてもよろしいですか? 四方山話として聞き流してもらっても構いませんから」


「いいぜ、もったいぶらずにドンと言ってくれ」



 サリーは一礼すると言葉を選びながらロゼッタに伝える。よほど荒唐無稽な内容なのだろうしゃべりながら自分の言葉で真意を再度問い直している……そんな感じだった。



「まず、マリア・シャンデラは上級貴族に養子を送っている犯罪的な組織に気が付いています」


「根拠は?」



 短く問うロゼッタにサリーは真摯な眼差しで答える。



「私や生徒会と露骨に距離をとっていた彼女でしたがいきなり養子のミリィちゃんに会いたいと生徒会に入会しだしたり、不可思議な言動が目立ちました。根拠はそれです」



 ロゼッタは少々意地悪な問いかけをする。



「最近になって生徒会の旨味を知ったとか、サリーちゃんと仲良くなりたくなったとか、純粋にホームパーティしたいとか考えられないかい?」


「可能性はゼロではありませんが手のひらを返したような感じでしたし、あそこまでホームパーティがしたいと前のめりになられたらプレッシャーです」


「ウチの爺様は鍋の時はあのくらいになるけどな。俗に言う鍋奉行ってやつか」


「……」


「茶化して悪い」



 むくれるサリーに謝罪するロゼッタ。



「ここからが本題ですが……きっとマリアは誰かの命を受け、単独で上級貴族、下級貴族の垣根を取り払おうとしているのではと思います。春の長期休暇後に性格が一変したのもその使命感によるものかと」


「性格を一変させるような誰かって、目星はあるかい?」



 サリーは躊躇いながら答えた。口にするのも申し訳ない、そんな感じだった。



「大精霊様ではないかと」



 ロゼッタは「さすがにそれは」と声を大にして狼狽える。



「バカ言うな、冗談でも良くないぜ」



 が、サリーはなおも真顔で続けた。



「根拠はもちろんキバ様です……ていうか、それしか考えられません」



 キッパリ言い切る彼女にロゼッタは柄にもなく気圧される。



「亜人……彼らは古来より精霊とのつながりが強く、それ故に人ながら竜や獣といった姿を有しています。大昔に精霊と契約した人間の子孫と言い伝えられています。特に竜族は大精霊と契約を交わし今の地位を築いたとも ―」


「それは神話の話で実際は眉唾物だろう?」



 眉唾物と言われてもサリーは引かなかった。食い下がり研究者が持論を展開するように熱弁を振るう。



「お忘れですか、我々の敵である連中は悪しき精霊を復活させようとしている連中であると。眉唾物やおとぎ話の一言で片づけるわけにはいかないのでは」


「あぁ、そういやそうだった……おとぎ話の悪霊を復活させようってんだったな」



 上級貴族を狙っている連中が悪しき精霊の復活を掲げているとなると可能性は否定できない。


 一本とられたとロゼッタは負けを認める。



「国上層部が軽視していて、それでも捨て置けないとバルバトス防衛大臣が生徒会に密命を下したではないですか」


「知らずのうちに頭でっかちな国の連中と同じになっていたってことか」



 バツの悪そうな顔のロゼッタ。しかしここですぐ反省できるところこそ彼女が生徒会長として慕われている理由の一つである ―もちろんただ可愛いから支持している連中(男性)の方が圧倒的だが。



「荒唐無稽な話ですからね、ことの重大さに気が付き始めた方が徐々に重い腰を上げ始めているのは良い傾向かと思いますが」



 ロゼッタはサリーの言葉を汲みこう解釈した。



「するってぇとアレかい? 悪しき精霊の復活を察した大精霊様がキバ様を通じて動き始めたってことか? んなバカな⁉ 大事ってレベルじゃねーぞ⁉」



 自分で言っておいて驚愕しソファーからずり落ちそうになるロゼッタ。


 ソファーを掴んで何とか体勢を維持しながら結論を導き出した。



「オイオイオイオイ! じゃあなんだ⁉ キバ様がマリアちゃんの執事になったのは大精霊のお導き⁉ じゃぁマリアちゃんは ―」



 サリーはおそるおそる答える。



「はい、大精霊に選ばれし救世主の可能性が高いかと」



 あくまで可能性……そう口にするサリーだが今までの不可思議な状況証拠に半ば核心めいた口振りだった。


 緊迫した表情で向き合う二人。


 生徒会室に張りつめた空気が漂いだした。


 その空気に耐えられなくなったのかお互い息を吐き肩を落とす。



「自分でも飛躍した考えかと思います、でも彼女が長期休暇のあと人が変わったようになった件も含め不思議と納得できるんですよ」



 サリーは砕けた表情で肩をすくめた。

ロゼッタも緊張がほぐれソファーの上で胡座をかいては納得したように唸っている。



「サイファー公国に古くから伝わっている『ゼロの地』に生まれる救世主物語、それが上級貴族のお嬢ちゃんから出てくるたぁなぁ」



 もうすでにマリアが救世主という前提で話が進んでいるのに違和感を抱かない二人。


 マリアに救世主の素質があることを疑ってもいないようである。



「あの器量、大精霊が惚れ込んだって言われても納得しちまうぜ。精霊どころか神様だって惚れかねねぇな」



 冗談めかして口にするロゼッタ、まさか本当に神様たちに惚れこまれているなどとは思わないだろう。


 サリーは行き過ぎた自分たちの妄想に自嘲気味に笑った。



「とはいえ何度も申しますが憶測の域を出ません、キバ様が単純にマリアの料理の虜になって天然さく裂で執事になった可能性だってありますし」


「さすがにそれはねぇだろ、だとしたらアホの極み……大精霊様が裏にいる話の方がまだ信じられるってもんだ」


「確かに」



 遠回しにアホと言い切られたキバ、まさか本当に ―以下略。



「とにかくそっちの件は様子見だな、悪しき精霊を復活させようとしている反政府組織……そっちの方に注力すべきだ」


「同意見です、政府の方々を動かすためにも、もっと証拠集めに奔走しましょう」


「証拠さえある程度揃ったらあとは爺様が何とかしてくれると思うぜ。んで話は変わるけどよ」


「はい」



 ロゼッタはソファーから立ち上がると窓に近づき外を見やった。


 彼女の視線の先には二年生の校舎 ―プリム・ルンゲルの教室がある。



「養子になったミリィちゃんの調子はどうだ? プリム・ルンゲルのように暴走する雰囲気はあるかい?」


「いえ、今のところは……ただ養子になったばかりだからか居心地悪そうにしています」


「まぁ最初はそういうもんだよな、養子ってもんはよ」


「中等学校でも馴染めていないようで……例の件を抜きにしても一人の子供として心配です」



 悪しき精霊による暴走の可能性があっても心配する慈愛に満ちたサリー。



「いいお姉ちゃんしているじゃねぇか」とロゼッタはほっこり笑った。


「まぁ今度様子を見に行くんだ、マリアちゃんなら何とかしてくれるかもなぁ」


「そうですね、マリアなら何とかしてくれるかもしれません……結果的にプリム先輩も助けたようなものなのですから」



 実際、大精霊に導かれる役割はジャンであり「ワルドナ」のゲームストーリーではジャンが大精霊に導かれて世界を救う物語なのだが……


 新たな勘違いが誕生した、そんなことは知る由もないマリア。


 そして彼女の動向を見守るのはロゼッタたちだけではなかった。

※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。


 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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