三話「もふもふ護衛ペットを貰いに行きます!」②
馬車に乗り込んだマリアとリンは一路市場街へと向かっていた。
エルデリン市場街。
ワルドナゲーム内の拠点である魔法学園、その近隣に位置する商業施設。
取り扱う商品は多岐にわたり食料品や雑貨類はもちろんの事、武器防具のたぐいや魔法関係の本、ディープな路地裏に入れば怪しげな横流し品も手に入る「RPGのお約束的な場所」と言えばわかりやすいだろうか。
マリアが向かっているのはそのエルデリン市場街のディープな場所だった。
貴族向けの豪華な馬車に揺られ落ち着かずにキョロキョロしながら彼女は独り言ちていた。
「にしてもフッカフカね、あと取っ手かと思ったら装飾だったのねこれ」
「あのマリアお嬢様……なんでまたいきなりペットをもらいに行くんですか?」
はしゃぐマリアにお供している侍女のリンが心配そうに話しかけてきた。
リン・リンネ。
最もマリア・シャンデラと付き合いの長い侍女で最もワガママに困らされている人物である。
(まさに「悪役令嬢の付き人」って感じよね……設定上、私に振り回されていたんだろうなぁ、可哀想に)
若いながら達観した雰囲気すら醸し出しているのはきっとそのせいだろうとマリアは同情するのだった。
そして気を取り直し笑顔でリンの問いかけに答える。
「生き物を飼うことは情操教育に良いって言うじゃない」
怪訝な顔の侍女リン。無理もない、ワガママお嬢様がいきなりお為ごかしを言い出すのだ、裏があるか思いつきか「どうせろくなものじゃない」と考えているのがおもいきり顔からにじみ出ていた。
「旦那様もツッコんでいましたが……自分で言いますか?」
「そりゃ事実だもの」
「はぁ、まぁ、わかりました」
「えーっと、もちろん世話は私がするから安心してね」
「その勢いがいつまで保つか」とこめかみを押さえているリン。今までのマリア・シャンデラの傍若無人っぷりが伺える。
リンの感情を色々察しているマリアは「その心配は杞憂に終わるわよ」と胸中で彼女に投げかけていた。
(大丈夫よリンちゃん、お世話は絶対私がするから……トレーニングというお世話もしないとだし)
自分の護衛のためにと意気込んでるマリアにリンが尋ねる。
「ところで市場のペットショップ……というかモンスターをもらえる場所っていったいどこなのですか?」
「その辺は安心してね、御者さん私の言う場所に向かって下さい」
テキパキと指示を出すマリアにリンは心配そうな顔をする。
「くわしい場所、よくご存じですね」
「キバ様から聞いたからね」
「……そもそもキバ様がモンスターの保護をしている自体、私初耳なのですが」
「き、キバ様のことに関しては私の方が一枚上手という事ね~。やったぁ勝ったぁ」
露骨にごまかすマリア。
心配を通り越して白い目になりつつあるリンにマリアはバツの悪い顔をしていた。
(さすがにゲームの知識で知っていたなんて言えないわね。ゲーム中盤しか入れない隠れた施設、「モンスター研究所」が市場にあるなんて)
笑って誤魔化し続けるマリアを乗せ馬車は市場の中心部へと向かう。
そして中心部、観光名所やカフェが並ぶ大通り。
外国から来た観光客でごった返しているそこに馬車は到着した。
「うわぁ、実際に目の当たりにするとお洒落ね」
市場とは違う盛況ぶりに感嘆の息を漏らしたマリアは人混みをかき分け大通りの奥へ奥へと進んでいく。
そしてたどり着いたのは場末の喫茶店だった。
自家焙煎であろう路地に香ばしい豆の香りが漂っている、飾り気のない入り口と相まって知る人ぞ知る名店のような雰囲気が感じられた。
(ほんとゲームの外観と一緒だ)
ワルドナゲーム内の風景とそっくりで感慨深いマリア。
一方リンは怪訝な顔をしていた。
「あの、いいのですかお供しなくても」
「許可をもらったのは私だしね」
「時間たっても戻ってこなかったら様子を見に行きますからね、お嬢様の身にもしもの事があったら私が大変なんですから」
「大丈夫、私を信じてリンちゃん」
「リンちゃんって、今まで呼ばれたことありませんが、やっぱりどこか変ですよ……」
心配するリンをよそに、マリアはかすれた文字で「オープン」と書かれた看板の横を緊張しながら入店したのだった。
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