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なんだか私の知らないところで盛り上がっています④

 朝の悪役令嬢(笑)ルーティーンを終え登校の準備をするマリア。


 護衛モンスターのモフ丸とギンタローも散歩を終え身支度する。



「いざ参りましょうマリア殿」


「わっふ~ん!」


「も、モフ丸殿……お出かけ前に耳舐めは勘弁してくだされぇ……」



 護衛の自覚があるのかないのかはさておき、授業中マリアの代わりにモンスター二名の保護者として同行するキバ。竜の王子にさせる仕事としては超が付くほどの贅沢仕様オーバースペックである。


 その自覚があるマリアはいそいそと身支度をするキバに対し申し訳なさそうにしていた。



「申し訳ございませんキバ様、もう少ししたら教室にモンスターを連れて行ってもいいと許可が下りるはずですので」


「いえ、お気になさらず。執事の務めですので」キリッ


 サラリと言ってのけるキバ。もう完全に本業が執事で副業が王子状態である。


 最近では公務のスーツより執事服姿の方が板についてきている始末。


 そんな真顔でキリリと襟を正し答える彼にマリアは眩暈を覚えるのだった。



「どうも学園内を連れまわすのは資格が必要でして……今、ロゼッタ会長に相談しております。なんだかなかなか許可が下りないらしくて」



 頭を下げる彼女にキバはゆっくり首を振る。



「あまり気にすることはありませんよマリア様。必要なら私を連れまわしていただければ、教室にもいつでもお供する所存です」



 それがマズいからなのに……と言いたくなるマリアだったが。



「……」キラキラ



 真顔ながら目に光が宿っているキバにズバリと言えず言葉を飲み込むのだった。


 ギンタローがちっちゃなあんよを組みながら呆れ交じりでキバに提言する。



「まったく子供のように目を輝かせおって。成人が生徒に交じって授業を受けてどうする」


「温故知新といいましょうか? 童心に返ることも今につながるかもしれませんよ」


「物は言いようじゃな」



 キバとギンタローの会話にモフ丸が割って入ってくる。



「わっふ?」


「モフ丸殿、授業は食べられるものではございませんぞ」


「わっふる?」


「行政サービスの類でもございません、勉強の場です」


「ぐぬわっふ」



 何かを期待していたモフ丸は非常に落ち込んだ顔になった。



「なんつー会話しているのよ君たちは」



 そんな遊びたい盛りのモフ丸が教室で落ち着いて座っていられるとは思えず「やっぱりキバ様に見てもらった方がいいのかな」と申し訳なさそうにしたのだった。



「でも何で許可が下りないのかしら……ロゼッタ会長も『すぐ下りる』って言っていたのに」



 素朴な疑問を口にするマリアにギンタローが小耳に挟んだ「とある事情」を教える。



「どうやらモンスターテイマーの許可を下ろすデルフィニウム家とロゼッタ会長のミルフィーユ家は仲が悪いようですぞ。そこで少々もめているのでしょうな」


「え、そうなの?」



 聞き返すマリアにギンタローは「父上のガンドル殿が母上のシンディ殿と話していたのを立ち聞きしました」と言って会話の内容を教えてくれる。



「どうやらデルフィニウム家は資格管理系の会社を束ねる元商人で最近下級貴族になったいわゆる『成り上がり』。上級貴族の顔役であるミルフィーユ家のことを快く思っていないとのこと」


「許可が下りないってことはないでしょうけど……貴族って大変ね」



 そんな会話を聞いていたキバは軽く腕まくりをして力こぶを見せる。



「あの、それでしたら一応私それなりに権力があるので申請したら即日許可が下りると思いますが。アネデパミ家はモンスターの研究や保護関係を取り纏めているので」



 資格管理会社に権力と腕力で押し通してきますと言わんばかりのポーズ……ちなみにこの男、腕力も相当で竜の力を解放したら腕のひと振りで木をなぎ倒し空も飛べる。


 その片鱗を体育祭で垣間見ているマリアは彼の発言に額に汗をにじませた。



「い、いえ! ご無理なさらず! 自分でなんとかしてみせますとも!」


「無理ではないですよ」



 シレっと言い切れるキバに末恐ろしさすら感じるマリアだった。


 彼女の困り顔を見てギンタローが気を利かせて補足する。



「これキバよ、マリア殿は己の力で権利を手に入れたいのじゃ。我らが口を挟むのは無粋というものじゃて」


「な、なるほど……失念していました」



 自らの軽薄さを恥じるキバ。


 ギンタローは「わかればよろしい」と続ける。



「マリア殿は政界にはばたく御仁。些末なことならいざ知らず何でもかんでも人の世話になるのは今後世界を統べる立場として何かと不都合になるじゃろて。まぁ少々謙虚すぎるところはありますがな」


「確かに」



 このやり取りにマリアの胸中はというと ―



(確かにじゃねぇ!)



 飛躍しすぎと高らかにツッコんでいた。



「わふ?」


「うん、モフ丸はそのままでいてちょうだいな」



 愛くるしい無垢な瞳に癒やされるマリアだった。


 そうこうしているうちに馬車が学園へ到着しマリアは背伸びしながら降りる。



「さー到着ね、お勉強お勉強」



 降りる間際、彼女にキバが申し訳なさそうに切り出した。



「あの、マリア様……私、本日少々公務がございまして」


「えっと、確か防衛大臣との会談でしたっけ?」


「はい、人間と亜人間での防衛意識とその取り組みや約束事の再確認……という小用です」



 それのどこが小用だと目で訴えるマリア。


 キバはそんな視線など意に介さずズレた返答をする。



「すいません、そういうわけで執事の仕事から少々外れることをお許しください」


「許すも何もそっちが最優先ですよ!」



 キバは「マリア様はお優しいですね」と目を細める。



「取り決めの再確認など形式だけのものですので……防衛大臣ご本人も『形式だけのしけた公務』とおっしゃられていました」


「あ、そうなのですか……」


「はい、食事をして近況報告をするようなものです。防衛大臣とのお話は勉強になるので他の公務よりマシですが」



 それでも結構大事な公務のような気もする……とマリアは苦笑いである。



「ご安心ください、モフ丸君とギンタローの散歩がてらですので、下校までには戻って必ずお迎えに上がります」


「逆に安心できないわ」



 散歩のついでというキバ。政府と亜人の間に亀裂が入らないか心配するマリアだった。


 困り顔のマリアに気を利かせギンタローが耳打ちする。



「相手が気分を害しそうになったら我がモフ丸殿を抱えて席を外しますゆえに……」


「ありがとうギンタロー」


「わっふ」


「うむ、出されたお茶請けを平らげてから……その通りですぞモフ丸殿」


「わっふ!」



 最後の満面の笑みとモフ丸の高らかな「わっふ」がなければ安心できたのになぁ……と思いつつキバたちと別れ教室に向かうマリアだった。

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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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