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なんだか私の知らないところで盛り上がっています③


 自身の行動により友人ができたマリア。そのため両親の養子を迎える計画が立ち消えた。



 単純に考えれば「自分を殺す人物を遠ざけることができた」と万々歳のハズなのだが、マリアは諸手を上げて喜ぶわけにはいかなかった。


 彼女はある不安が拭えずにいる。



(私の命を奪った理由がわからないから遠ざけただけじゃ怖いのよね)



 場合によっては自分の目の届かない状況でいきなり命を狙ってくることも。


 だとしたら常にそばにいて四六時中監視できていた方がマシ……最後まで「ワルドナ」をプレイしていないマリアはそう考えていた。


 不安は他にもある。


 このワルドナはマリア・シャンデラの事件から主人公たちの物語が始まるのだが、もしマリアの命が狙われなかったとしても事件そのものが起きなかったら主人公たちの冒険が始まらず、場合によっては世界が滅んでしまうかもしれない。



(ゲーム的なことを考えると、ベストは私が襲われるのは変わらず、命を奪われないことよね……ううん、それよりも)



 いつ襲われるかよりも、物語の展開よりも、こっちが重要だとマリアは眉根を寄せた。



(ミリィが同級生でメインキャラでもあるサリー家の養子になっちゃったことよね。彼女が命を狙われたら ―)



 自分の代わりにサリーが殺されてしまう。


 ゲームのメインキャラが命を落とす ―それがゲームストーリーにどんな悪影響を及ぼすか想像に難しくない。スタッフの寵愛を受けた万能キャラ「サリー・インプション」ならなおさらだ。


 自分の死亡フラグだけを回避したところで世界が滅んでしまったら何の意味もない。


 そして何より ―



(あんな良い子が殺されるのを見過ごせるわけないじゃない)



 たとえゲームのキャラであろうと看過はできない。


 自身の命よりも言葉を交わした友人の身を案じるマリア。それこそが神々に好かれる所以であった。


 マリアは腕を組んで熟考する。



(サリーに「命を狙われるかも」って警戒してもらう? 説明が難しいわね……ミリィの悪霊をどうにかできれば ―ん?)



 その時、目の端に留まったギンタローを見てマリアはあることを思い出した。


 変身で相手を惑わす「和テイスト」な幻術を使えるギンタロー……彼ならば悪霊を払うことができるのでは?


 ダメもとでマリアはギンタローに―尋ねてみる。



「あのさ、ギンタロー」ヒソヒソ


「なんでしょうかマリア殿」ヒソヒソ


「ギンタローって幻術使えるじゃない、もしかして悪霊なんかも払えたりするのかな~なんて」ヒソヒソ


 そんなマリアの問いに ―



「できます」キッパリ


 会話に入り答えたのはキバだった。


「こりゃ! なんでお主が我の代わりに答える⁉」


「ギンタローさん、人語ですよ」ヒソヒソ


「っ! っこんこーん!」



 そのままキバはギンタローの代わりに悪霊が払えるのかどうかについて答えた。



「彼はロクの地の出身、一流の幻術使いですので悪霊払いはお茶の子さいさいです。多少耄碌していますが」


「こりゃ、多少耄碌は余計じゃ! まぁ力を失い悪霊払いは一日一回に限定されますが」ヒソヒソ



 マリアはアゴに手を当て思案する。



「なるほど、悪霊払い、できるのね」


「ところでマリア様、悪霊に誰か憑かれていらっしゃるのですか?」


「あ、いえ。こっちの話です……そっか、できるんだ」



 キバの言及を誤魔化すマリアはまた考え出す。


 ギンタローに悪霊を払ってもらえるのであればサリーを救えさらには自分の死亡フラグも回避することができる。



(ワルドナの主人公、ジャンたちが旅する切っ掛けが無くなっちゃうけどこの際仕方がないわ。万能キャラのサリーが死んじゃったらたぶんジャンたちエンディングを迎えられないもの)



 開発者に愛されし依怙贔屓キャラ「サリー・インプション」が死んだら世界は滅びる。ほっといたらフツーに自分も死ぬ……これしかないとマリアは活路を見出した。



(だとしたらまず、ギンタローを連れてミリィに接触しましょう)



 そうしようと意気込むマリアはどうすれば自然にギンタローを連れていけるかを考え出す。



(いきなりキツネのモンスターを連れてじゃ警戒されるからモンスターテイマーの資格を取ったり、できれば家族であるサリーと仲良くする必要もあるわ。だとしたらゲームのストーリーに影響が出てしまうのを覚悟の上で生徒会に参加するしかないわね)



 そう心に決めたマリアだったがすぐに肩を落として気怠い顔を見せた。



(でもやっぱり生徒会は荷が重いなぁ……ワルドナの生徒会って権威がすごいし肩が凝りそう)



 ファンタジーの世界における権力モリモリの生徒会に所属することは何より大変そう。


 現実世界ですら家事が忙しく学級委員長に推薦されても固辞し続け、専ら美化委員だったマリアにとって責任を負う生徒会は気が重いのだろう。


 普段から政治に興味がなくニュースは洗濯物を乾かすため天気予報しか見ない、新聞よりも挟まれたスーパーのチラシを熟読する……典型的なお母さんタイプである。


 が、切り替えの早さがお母さん系女子の特徴でもある。マリアはすぐさま前向きになって自分に大丈夫と言い聞かせた。



「まぁ悩みすぎてもしょうがないか……イシュタルも言っていたし、私は私らしく頑張るしかないわ!」


「イシュタル? お友達ですか?」


「っと、いいえキバ様、こっちの話です。オホホのホ」


「?」



 下手くそな誤魔化し方をするマリア。小さく首をかしげ不思議に思うキバだが「マリア様のことですし大丈夫でしょう」と全幅の信頼を寄せているため、あまり気に留めなかった。



(悪役令嬢のキャラを守りゲームストーリーに影響を与えることなく死亡フラグ回避! 気にかかることはたくさんあるけどやるっきゃない!)



 息巻くマリア。しかし生徒会に所属することにより世界にモフモフ番長として羽ばたくことになるとはこの段階では知る由もなかったのである。



「では私はモフ丸君とギンタローの散歩に行こうと思います、行きますよお二人とも」


「わっふ!」


「うむ、歩くことは腸の運動にもなるという。腸活で若さきーぷじゃ」


「人語はお控えくださいギンタロー」


「おっと、コンコーン」



 ギンタローをたしなめた後キバはマリアに向き直り恭しく一礼した。



「というわけでマリア様、行ってまいります」


「あ、はい。お気を付けて」


「ええ、貴女のために気を付けて散歩に挑みます」



 マリアに忠誠を誓う平常運転のキバ。


 しかし、この男がシャンデラ家の執事となり無自覚でやったあることがマリアを困らせることになるのであった。


※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。


 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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