なんだか私の知らないところで盛り上がっています①
お久しぶりですお元気でしたか?
またゆっくり投稿していきます、だいたいこの時間帯かと思います
書籍化に合わせて国の名前がサイファー公国に変わっていたりします、ご了承ください
「ふーむ」
辺り一面、吸い込まれるような黒い空間。
じっと見ていると距離感を失ってしまいそうなその空間の中心にポツンと置かれるは樫の木でできた机と椅子。
その椅子にクマのぬいぐるみが鎮座し唸っていた。
一見ミニチュアインテリアを彷彿とさせる組み合わせである。
そのクマは腕を組み、占い師が使うような水晶を眺めては時折首をひねっていた。
「ふむーん」
少年ボイスで唸る彼の名前はイシュタル。
遊戯の神でチェスやボードゲームなどあらゆる遊戯をを司る神であり、最近ではデジタルゲームやソシャゲなど管轄が多岐にわたって若干キャパオーバー気味な苦労人……いや、苦労神である。
―ガチャッ!
そんな神が唸る異様な空間に突如ドアが現われると大音を立て豪快に開かれた。
「ぬおぉ! お邪魔するぜっ!」
「き、君はっ⁉」
現れるは筋骨隆々のフンドシ男。
テッカテカの黒光りの肉体を惜しげもなく見せつけ、たまらない笑顔でこの異空間を瞬く間に汗の臭いまみれにした。
彼は二の腕を引き締めながら声を張り名乗りを上げる。
「そう! 俺こそが『田んぼ』に『力』と書いてタヂカラオッ!」
「…………」
「…………オイオイ、やらせるなよイシュタル」
「誰も頼んでいないよ、その自己紹介」
彼の名前は「タヂカラオ」。
五穀豊穣、技芸上達を司る神の一柱である。
彼はつれないイシュタルを特に気にすることもなくぬいぐるみの頭部を鷲掴みするように撫でまわした。
「で、どうよど~よ。我らが女神、長谷川麻里亜ことハセマリの様子はよぉ!」
「僕ら以外の前でソレ言っちゃダメだよ、本物の女神様たちが眉間にシワを寄せて嫌な顔をするから」
「ガーハッハ! そういや視線で殺されかけたぜ! アメノウズメによぉ!」
悪びれることなく笑っているタヂカラオ。見た目通り豪胆な性格のようだ。
さて彼らの会話に出てきたハセマリこと「長谷川麻里亜」について今一度触れておこう。
見た目は地味だが家庭的で気の利く性格、一言で言えば「お母さん系JK」である。
家族のために物心ついた時から台所に立ち炊事洗濯をこなしほとんど遊ぶことはなかった献身的な女子高生。
そんな彼女は神の集う天界では密かな人気があり、北欧や八百万と神話を越えたファンが多かった。タヂカラオもその一人である。
「ハセマリーッ! ヌワーッ!」
いや、もはやファン筆頭と言っても過言ではないだろう。圧がスゴイ。
ハセマリが不慮の事故で意識不明の重体になりこのままでは死んでしまうとなった時「助けるべきだ」と声を大にして先導したのが彼である。
もちろん個人的な意見に天界は紛糾。
だが彼女のファンは予想より多く、タヂカラオに同調した神々は多数。
議論に議論を重ねた結果「ハセマリがプレイしていたRPG「ワルドナ」の世界に転生して生き延びることができたら命を救う」という条件付きならと「神々の全会一致」で試練を与えることが決まったのだった。
前述のとおりハセマリは遊びをほとんどせずゲームも友人から借りたワルドナが初めて。
そのゲームの中の「序盤に死ぬモブ悪役令嬢」に転生し生き延びるという難題にタヂカラオは心配し、こうして度々イシュタルの元を訪れているのだった。
「乱暴はやめてよタヂカラオ」
「おっと、ワリィワリィ! んで、どうよどうよ」
イシュタルは乱れた毛並みを整えながら答える。
「まぁ、順調ではあるよ……とりあえずはさ」
「なんだ、魚の骨が喉に刺さったような言い回しはよ」
「見てみるかい?」とイシュタルは水晶を掲げ黒い空間に映像を投影し状況を説明しだした。
「ワルドナのゲーム開始一年前からマリア・シャンデラという序盤で殺される悪役令嬢に転生していたハセマリには予定通り前世の記憶を取り戻してもらったよ」
「聞いたぜ、ずいぶん性格の悪い『きゃらくたぁ』らしいじゃねーか。死んでやむなしみたいな」
「そう、そして彼女の死亡事件をきっかけに本編の主人公たちの物語が動くんだ」
そこでタヂカラオは筋骨隆々の腕を組みながら疑問を投げかける。
「う~む、転生先は剣も振るえない細腕の悪役令嬢……なかなか大変そうだがどう順調なんだ?」
イシュタルはマリア・シャンデラや護衛モンスターのモフ丸などに映像に切り替え説明し始めた。
「転生し記憶を取り戻したハセマリは持ち前の気立ての良さで周囲の人間に好かれ、今では護衛のモンスター二匹ゲットしたよ」
タヂカラオは漆黒の空間に響き渡るほど歓喜の声を上げた。
「うぉぉぉ! マジか! これで勝てるぜ! 誰だ『こんなの無理ゲー』とか言っていた奴! ……お前かイシュタル!」
再度頭をワシャワシャされイシュタルは眉根を寄せ嫌がった。
「やめてよぉ。そりゃゲームに慣れていない女の子に死亡フラグ回避要求なんて無理ゲーに決まっているでしょ」
「でも、さすがはハセマリじゃねーか! 持ち前の明るさで周囲の信頼を得まくっている!」
「得まくっているけどさぁ」
「なんだよイシュタル! お前の喉は骨だらけか⁉ 米粒飲むか?」
「いやね、仲良くなりすぎちゃったんだ」
「あん?」
イシュタルは「予想外だったよ」と付け加え水晶の映像を切り替えた。
そこには黒髪色黒の執事服に身を包んだイケメンが映し出される。
「僕もね、君らしく普段通りにしていれば大丈夫って送り出したんだ。掃除に料理に気立ての良さ……ハセマリの性格に惹かれた周りに助けてもらえれば何とかなると思っていたのさ。そしたらさ」
「そしたらなんだ?」
「好かれすぎちゃったんだよ、このキバってキャラに。ワルドナの重要人物、竜族で次期亜人の王様がハセマリに惹かれてキャラ崩壊だよ」
「きゃら崩壊だぁ?」
「次期王様という立場なのにハセマリのそばにいたいからシャンデラ家の執事になってさ。そのせいでゲームの根幹に関わる主人公たちの所属先『生徒会』にも目を付けられた」
「つまり……良いことに思えるがどういうことだ?」
イシュタルは呆れ交じりで説明する。
「死亡フラグ回避を通り越してゲーム本編に関わり始めちゃったんだよ。仮に死亡イベントを回避しても世界の危機に立ち向かうメンバーの一員になったら」
「毎日命を狙われる立場になっちまうのか⁉ ……おぉう、さすがはハセマリだぜ」
目を丸くするタヂカラオに生徒会長ロゼッタやサリーの映像を見せながらイシュタルは続ける。
「もうすでにゲームの中盤に起きるようなイベントが前倒しで起きそうな兆候がある。でも中立であるべき僕が大っぴらにアドバイスするわけにはいかないしなぁ……」
「下手したらハセマリが世界を救うことになるのか……ワルドナというよりハセマリの大冒険だな。それはそれで見守ってみたいが ―ん?」
その時、タヂカラオは眉毛を上げて映し出された映像を覗き込む。
「そんな食い入るように見ているとまたウズメ姐さんから怒られるよ」
「それはご褒美としてだ……この犬、どっかで見かけた気がしないか?」
モフ丸を食い入るように見やるタヂカラオにイシュタルは呆れ果てた。
「そんなこと言っていないで帰ってくれない? 忙しいんだよ」
「っと、わかったよ! フンドシ引っ張るなって! んじゃまた来るぜ」
フンドシを引っ張ってなんとかタヂカラオを退室させたイシュタルは映し出された映像を見やる。
「今大変だってのにもう」
ハセマリが大躍進しすぎたこと以外に何かありそうな口ぶりのイシュタルは気を取り直し、また映像とにらめっこし始めた。
「また一から探り直さなきゃ……」
嘆息を一つついて、イシュタルは独り言ちる。
「まだ確証持てないからタヂカラオには言えないよなぁ……ワルドナの世界に天界の神様が潜り込んでいるかもしれないなんてさ」
だとしても何故? 目的は一体……疑問の尽きないイシュタルは頭をポリポリ掻きながら映像とにらめっこし続けるのだった。
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