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七話「魔法学園の体育祭が始まりました」⑱


 気が付いていないのかシンディは断ったその理由を補足する。



「ほら、今のマリアってたくさんお友達がいるし。情操教育にいいって自分で二匹のペットを飼って、しかもちゃんとお世話できているし、お料理もお掃除もするようになっていつでも自立できるようになったし、キバ様も虜に出来るほどの器量良しになったから――」



 つらつらほめ言葉を並べるシンディ。


 マリアは状況を理解するのに必死で白目をむきながら頭をフル回転させていた。



「つまり、私がモフ丸たちをしっかり育てたりサリーやキバ様、クラスメイトと交流できているから養子の件がなくなったっていうこと!?」


「そ、そうだよ」



 絶叫しだすマリアにガンドルはおののく……がマリアはそれどころではなく「なんたる大誤算」と絶賛白目をむき続けている。



(まさか死亡フラグを回避する行動が、自分を殺してくる義理の妹を遠ざける結果になるなんて……ん? これって死亡フラグ回避できた? いやでも……)



 一瞬「危険が遠ざかったなら死亡フラグ回避できたんじゃないか?」と考えるマリアだったが悪しき精霊に憑かれたミリィが自分の命を狙う理由が分からない以上、諸手をあげて安心とは言えない。


 いや、むしろいつ命を狙われるか予兆が見えなくなった分、身を守るのが難しくなると考える。


 そして何より、これが一番重要なのだが――



(ゲームのストーリー上「学校で事件が起きる」「もしくは学校関係者に被害がでる」必要があるのよね、これ自体がなくなるとワルドナの主人公たちが冒険しなくなっちゃうから)



 そう、「学校で起きた事件」をきっかけに主人公たちは犯人探しを始め、やがて壮大な物語に巻き込まれていくのがワルドナのメインストーリー。


 事件そのものが無くなってしまったら……とマリアは考えると身震いした。



(おそらく主人公たちは世界を救うことなく学園生活を過ごして世界は滅んでバッドエンド……結果私は生き延びるという神様との約束を守れず現実世界に帰れない)



 そしてもう一つ……マリアが懸念しているのはむしろこっちの方だった。



(ゲームのストーリー上「学校で事件が起きてしまうのは必然」と言うのであれば私以外の誰かが狙われ、最悪殺されてしまう可能性があるわ……正直、それはイヤね)


 ゲームの世界とはいえ「みんな一生懸命生きている」と感じてしまったマリア。


 誰かが犠牲になって自分が助かればいいという考えは毛頭無かった。



「あの、お父様」


「ん? なんだい?」



 真剣な眼差しのマリアはガンドルに尋ねる。



「分かる範囲で大丈夫です。その養子予定だった子が引き取られたかご存じですか?」



 その言葉を聞いたガンドルは何故か涙目になる。



「おぉ、マリア! 身よりのない子がちゃんと引き取られたか心配するなんて! 優しい娘だ」


「アハハ、まぁそんなところです……」



 オーイオイと泣く父に困るマリア。


 そんな彼に代わってシンディが答える。



「大丈夫、どうやらすぐに引き取り手が決まったみたい。安心してね」



 しかしマリアは安心できない、引き取り先の家の人間が殺されてしまうかも知れないからだ。


 彼女は場所を特定するため突っ込んで聞いてみる。



「どんな家ですか? やはり貴族なのでしょうか?」



 「こういうの言っていいのかしら」と迷うシンディだったが娘の真剣な表情にほだされてどこに迎え入れられたかを告げる。



「安心してもいいと思うわ、あなたも知っている人の家だから」


「私が……知っている?」


「そう、貴方のクラスメイト、サリーちゃんのお家だから」


「…………………………………………あい?」



 翌日。


 教室に現れたサリーをマリアは強引に捕まえるとベテラン刑事ばりに質問責めを開始した。



「サリーおはよう、私たち友達よね」


「おは……どうしたの今日は? 目、バッキバキよ」


「友達よね」


「えっと私はそうなりたいと思っていたけど避けられていたような……ねぇ、目が充血しているんだけど」



 考えすぎてあまり寝れていないマリアの充血した眼孔に若干おびえているサリー。


 そんな機微など意に介さずマリアは質問責めを続ける。



「友達なら教えて欲しいの、家族構成といった個人情報を」


「どうしたの今日!?」



 いきなり個人情報を教えろと言われ思わず絶叫するサリー、無理もないだろう。


 マリアは曖昧にごまかし質問を続ける。



「色々あってね、そう、色々。だから教えて個人情報」


「仮に詐欺師だとしてももう少し上手く立ち回るわよ」



 完全に警戒モードのサリー。


 下手したらサリーが命を落としてしまうかも知れない、そう考えてつい勇み足になってしまったマリア。急ぎすぎたかと省み深呼吸をする。



「ふぅぅ……急でごめんなさいね。でも教えて欲しいの、理由は言えないんだけど」


「理由は言えないって、もっと心配するわよ」


「家族構成だけでいいから、何でもするからさ」


「何でもって……じゃあ、生徒会に入るとか」


「え? あ、まぁ……いいけど」



 まさか勧誘に成功するとは思わなかったサリー「本当に?」と大きな声をあげてしまう。



(目立つのはマズいけど……でも、サリーの命がかかっているかも知れないんだし、しょうがないわよね)



 序盤の死体役である悪役令嬢マリア・シャンデラ。


 かくして生徒会に所属することになりモブキャラから逸脱してしまった瞬間であった。


※ブクマ・評価などをいただけますと助かります。励みになります。


 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。

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